「 マキャヴェッリの誕生日 」
「今日はニッコロ・マキャヴェッリの誕生日だ。」
「マキャヴェッリっていうとイタリアの政治家の?」
「うむ、マキャヴェッリ
(1469年〜1527年) は、多くの小国に分裂し、外国の圧迫を受けて混乱状態にあったイタリアの統一を願って 『 統一を実現しうるのはいかなる君主か 』
を論じた君主論を書いたことで有名だ。」
「ああ、名前だけは知っている。」
「ギリシャ・ローマ時代からの歴史上の多くの君主の実例を挙げながら成功例、失敗例を挙げて具体的提言をするといういわば実用書だ。
かつてはマキャヴェッリは道義や倫理を無視した冷酷な権力論を説いたと考えられてきたが、昨今では客観的、近代的な政治学の始祖と考えられている。」
「ふうん、するとノウハウ本なのか。」
「たとえば、こういうくだりがある。 国王は絶対に臣下に本心を見せてはならない。臣下に取り入られるばかりでなく、好き嫌いを見せてしまえば、方針が見透かされてしまうからである。」
「……え?
本心を見せないって……昭王もか…?」
「おそらくは。
好き嫌いをまったく見せないということはなかろうが、常に燕王であるという意識を持ち、同じ立場の人間が周囲に一人もいないという状況は極めて特殊なものだといえよう。
いくら昭王が友人を欲しても、アイオリアもムウも臣下でしかないのだ。その差は、はかり知れぬほど大きく深い。」
「友だちがいない………俺は嫌だな、そんなのは!」
「むろん、私も望まない。
しかし、古今を問わず、最高位である王にはついて回る問題だ。」
「だからさ、昭王はお前に夢を見たんだよ、恋人で友だちで、すべてを包み隠さず見せられる心許せる存在だったのさ……」
「うむ……そうかもしれぬな。」
「もしもだよ、お前がシベリアに行く必要がなく、燕にとどまってもよかったとしたら……」
「え? しかし、昭王は燕の行く末のために婚儀を挙げて子孫をもうけねばならぬ身だ。」
「うん、そうだよな、それが困るんだよな…」
「私が燕にとどまっても、かえってつらいだけで、昭王の悩みを深くするだけかも知れぬ。」
「うん、そうだよな……」
「だから、私は燕を発ち、昭王も自分の道を歩んだのだ。 そうであろう?」
「うん……」
「ミロ……たぶん、そのうちに、私とお前が燕で…」
「…え?
なに?」
「いや、まだ仮定の話だ。」
「水臭いな、教えろよ!」
「でも、このことは…あ……ミロ!」
「云わなきゃ寝かさない♪」
「あ……ミロ……ミロ…」
「ふふふふ…朝までには言わせてみせる♪」
「………」