「 マリー・アントワネットの誕生日 」


「11月2日はマリー・アントワネット (1755〜1793) の誕生日だ。」
「よく知ってるぜ、娯楽室のベルばらを読んだからな。 十八世紀フランス宮廷の女王、ロココの花とも称される。 オーストリアのハプスブルグ家から当時の王太子だったルイ十六世に嫁するもスウェーデン貴族ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンと燃えるような恋をし、ついにその贅沢と我儘がフランス革命の遠因ともなったのだ。 最後には貴族階級に搾取され続けてきた民衆の怒りを買い、ついにギロチンにかけられて生涯を終えた。」
「ほう! 一気に来たな!」
「当然だ! ベルばらを読んだものは、誰でもこのくらいは言える。 なんならベルばらの全ストーリーを語ってもいいぜ♪」
「いや、それは遠慮する。」
「それから、6歳のモーツァルトがオーストリアのシェーンブルン宮殿で当時7歳のマリー・アントワネットに求婚したというエピソードも有名だ。」
「いくらなんでも、6歳で結婚のことを思いつくとはあまりに早すぎはしないか?」
「一般的にはそうだろうが、芸術の都ウィーン、あの偉大なる女帝マリア・テレジアの君臨するシェーンブルンだぜ! 美の極致、芸術の粋を尽くした豪華絢爛な宮殿の中で美しくも愛らしい王女と会ってみろよ、求婚したくなっても不思議じゃないだろう!」
「そういうものかな。」
「そうに決まってる! 舞台装置は違うが、現に俺だって…」
「…え?」
「ほら、お前と初めて聖域で会ったのがそのくらいの年だっただろう? 初めて見たときのお前がやたらきれいだったから一瞬女の子かと思ってドキッとしたし、すぐそのあとに紹介されたから男だってわかったけど、もし女の子だったら結婚したいって思ったかもしれないぜ。」
「え?……そうなのか?」
「当然だよ、美しいものを見たら感動し惚れ込んで、できるものなら我が物にしたいと思うのは人類共通の願望だろう! 相手が虹や夕焼けや美術館の彫刻なんかじゃどうしようもないが、宝石や人なら手にすることも可能だから、それに向って努力するね♪ で、努力の結果、俺はお前とこうなったってわけ♪」
「ん……」
「もしかして不本意?」
「いや、そんなことは。」
「それにしても、今から思えばお前が女でなくてよかったよ。」
「え? どうして?希望こそしないが、私が女であったなら愛情関係としてはノーマルで、その点では何の問題もなかったとは思うが。」
「だって、お前が女だったらきっと絶世の美人だぜ! 現在の黄金が男ばかりなのは偶然に過ぎん。 白銀には女がいるし、たまたま俺たち黄金の場合は、それにふさわしい資質を持って生まれたのが男だったというだけの話だろう。」
「うむ、私もそう思う。」
「男だけだからこんなふうに平穏無事に過ごせてるので、もしその中に女が交じっていたらとんでもないことになる。」
「そうか?」
「そうだよ! まず争奪戦が始まる!」
「争奪戦っ!!」
「みんな年は近いし、実力においても容姿においても自分に120%自信があるやつばかりだしな。 そもそも自己主張とプライドがなくて黄金になれるはずがない。 シャカなんて天上天下唯我独尊ってうそぶくくらいのやつだ、欲しいものを手に入れるのに遠慮するとは思えないぜ。 」
「そう……かな?」
「今はストイックなシュラだってわからんぞ? 美人の黄金がすぐ隣りの宮にいてみろ、ついクラクラッとなるに違いない。 」
「すぐ隣りって…」
「アルデバランなんか、毎日アフロから朝摘みのバラを仕入れて花束攻勢だ。 デスは危ないぜ、あいつは思い立ったその日に夜這いをかけかねんっっ!!危険人物だな、あいつは!お前、気をつけたほうがいいぜ!」
「えっ?!」
「シャカなんか得意の説法でお前を折伏して仏教に帰依させたうえで、『 御仏のお導き 』 とか何とか言って例の歓喜天のことなんかを素知らぬ顔で教え込んでお前に何をするかわからんぞ? もっとも危険に近い男だな、きっと! ムウは聖衣の修復を餌にお前にろくでもないことをしそうだし。」
「まさか、そんな!」
「しかし、一番危険なのはおそらくサガだろう。 俺たちを指導する立場にあっただけに、小さいころからお前の美貌に目をつけて目指すは紫の上計画だ!」
「なんだ? その紫の上計画とは??」
「知らないのか? 日本が世界に誇る古典文学・源氏物語の主人公光源氏がまだ小さい女の子を手元に引き取って、といえば聞こえはいいがその実態は誘拐と同じだが、ともかくなにも知らない無垢な女の子を自分好みの知性と教養と感性のある貴婦人に育て上げ、ついに我が物にするんだよ。 その女の子が紫の上。 こういうのを紫の上計画という。」
「私は初耳だ。」
「だから、8歳上のサガが純真無垢なお前を篭絡するのは簡単だ。 極めて危険だな!」
「篭絡って……」
「でも大丈夫、俺がお前を守るから♪ 夜も昼もお前のそばから離れないでいて、寄せ来る邪魔物はすべて排除する! 安心してくれ!」
「しかし、黄金の中に女性が混じる可能性があるなら、それが水瓶座である可能性は約8.33%にすぎない。」
「え?」
「天秤座や牡牛座の可能性もあるのだぞ。 その場合も争奪戦が起きるのだな?」
「え? あの………それは…」
「その場合もお前は身を挺して守ってやるのだな?」
「ええと、そのう……」
「騎士道精神を発揮するのは実にお前らしくて良いことだ、せいぜい頑張ってくれ。」
「おい、カミュっ!」
「さらに蠍座のお前が女になる可能性を忘れることはできぬ。」
「えっっ?!」
「そのときはお前もさぞかし素晴らしい金髪美人だろうから苛酷な争奪戦が起きるだろうが、知っての通り私はこの性格だ。 シャカやサガを押しのけてまで自己主張することはできぬゆえ、お前を獲得することはできぬに違いない。その点は覚悟してもらいたい。」
「そんなぁ〜〜〜〜っっ!!」