「エドヴァルド・ムンクの誕生日 」


「12月12日はエドヴァルド・ムンク (1869〜1944 )の誕生日だ。」
「ムンクならよく知ってるぜ! あの有名な 『 叫び 』 はムンクの作品だろう。 俺はあれを見るたびにゾッとしながら、それでも凄い着想に感心する!」
「全くだ。 橋上の人物の表情、血のように赤い不気味な空の色、鋭い角度で画面の奥に向う橋の直線、そのいずれもが見る者の不安をかき立て、一度見たら忘れられぬ。」
「いつも思うんだが、あの人物はなんて叫んでるんだろう?」
「それについては一般に誤解されているようだが、 『 叫び 』 はノルウェー出身のムンクがフィヨルドのあたりを歩いているときに  『 自然をつらぬく、けたたましい終わりのない叫びを聞いた 』  経験を絵にしたものであって、あの人物はムンク本人で、それを聴いて耳を塞ぎ恐怖の表情を浮かべているということなのだそうだ。」
「ふ〜ん、そうなんだ! 俺はてっきりあの人物がなにか叫んでいることを描いたんだと思ってたぜ。 しかし、自然をつらぬく、けたたましい終わりのない叫び、ってなんだ? 俺はそんなもの、聞いたことないぜ、 ふつう、聞かないだろう?」
「私は聞いた………というより感じたことがある。」
「なにっっ!!」
暗い表情のカミュが目をそらす。
「あのとき………かりそめの命を与えられて冥界を歩いていたときだ………それを感じたのは…」
「あ…」
「心は鬱々として、足は鉛のように重い。 ひそかな決意をサガとシュラと私の三人で確かめ合ったあとは、ハーデスに悟られるのを恐れて一言も口をきけぬ。 いつ果てるとも知れぬ闇の中を進んでいると、だんだん自分の存在も信じるものも不確かな脆いものに思えてきて恐怖に駆られずにはいられない。 闇の冥衣は黄金の誇りを蝕み、肉体も精神も朽ち果ててゆく気さえする。」
「カミュ………」
「表現は違うが、ムンクの言うところの 『 自然をつらぬく、けたたましい終わりのない叫び  』 というのは言い知れぬ不安感が呼び起こしたものだろう。 あの時の冥界でも、具体的にこれといった音が聞こえるわけではなかったのだが、我々の心理と冥界のおぞましい闇が、そのような叫びを醸し出していたといっても過言ではない。」
「カミュ………俺は……」
「あ……」
「そのときのお前の心境はいくら考えてもいくら思っても、俺には想像するしかなくて……でも、どんなにつらかったか、断腸の思いだったことか………それをお前と共有したサガとカミュが羨ましい、と言ったらいけないか? あの二人がいてくれて、お前が一人ではなかったことに安堵しながら、それでもやっぱりあの二人に嫉妬する………………」
「でもミロ………私はお前にあんな思いをさせたくはない。 お前が生きて、黄金聖衣を纏っていてくれることが私の最後の誇りであり喜びだったのだから………」
「ん………そうだな、きっとそうだったんだよな……」

生きるも死ぬも一緒だといくら誓っても、やはり現実は容赦なく俺たちの上に襲い掛かるのだ。
それでも俺は思わずにはいられない。
カミュと生きる。 最後の一秒まで一緒にいると。

「さあ、そろそろ夕食の時間だ。」
「ああ、そうだな、お前も少し飲む?」
「ん………少しなら。」
「俺のためにちょっと頬を染めてくれればいいんだよ、それが毎日の楽しみなんだから♪」
先を歩くカミュの後ろ姿がとてもいとしかった。




      
いつも利用しているGoogleのトップロゴは、ときどき洒落たデザインに変わります。
      今回のムンクの誕生日には、なんと これ
      凄すぎますっ!
      頭文字のGは人影と欄干と背景の暗い部分からできてます。
      あまりの強烈な出来栄えに、つい勢いで作ってしまったのがこの作品です(笑)。

            ※ ムンク 「叫び」 ⇒ こちら