「 ナポレオン・ボナパルトの誕生日 」


「8月15日はナポレオン・ボナパルト (1769〜1821) の誕生日だ。」
「ナポレオン・ボナパルトといえば全ヨーロッパでもっとも有名な人物じゃないのか?あのベルサイユのバラの終わりのほうでも出てきてたぜ。」
「フランス革命後の混乱期をまとめあげ、ついには帝政を敷き絶大な権力を誇ったが、最後にはアフリカ大陸西方2800キロ沖の絶海の孤島セント・ヘレナに流されて6年ののち、53歳で波瀾の生涯を終えた。」
「考えると凄い人生だな!」
「うむ、歴史に与えた影響は極めて大きいが、なかでもロゼッタ・ストーンの発見は特筆すべきものだ。」
「ロゼッタ・ストーン………どこかで聞いたことがあるな。」
「以前、世界史の授業でアイオロスに聞いたことがあるはずだ。 1799年のナポレオンのエジプト遠征の際にロゼッタという町でフランス将校により地中から発見された石碑で、3種類の言語で碑文が書かれており、それによって、古来から謎とされてきた古代エジプトの文字ヒエログリフを解読することができたのだ。 それを思うと感動で胸がどきどきする!」
「え………そ、そうかな?」
「当然だ。! もしナポレオンがエジプトに行かなかったら、ロゼッタ・ストーンは今も地中に眠っていたかも知れず、古代文字の解明もいまだ進んではいなかったろう。 あの石を掘り出した将校の見識が、そしてその報告の価値を正しく理解したナポレオンの優れた知性と教養がこの発見を世界に知らしめたのだ。 これに感動しないでなんとする!」
「あ……うん、まったくだ! ところで、それはそれとして、お前がそんなに感動を口にしたことに俺は感動するよ。」
「え………」
「だって、そうだろう? いつもに似ない感動ぶりだぜ! ひょっとしたら、お前……聖闘士よりもそのロゼッタ・ストーンを発見した将校になりたかったりして♪」
「………え? 私が? あのロゼッタ・ストーンの………う、う〜〜む……」
「本気で悩むなよ、俺が困る。」
「あ……すまぬ。」
「いや、いいけどさ、いかにもお前らしいな、ロゼッタ・ストーンの発見者か♪」
くすくす笑ったミロが話を変える。
「ナポレオンっていえば人間だけじゃないぜ、トランプのゲームにもあるな。」
「なるほど、お前はそれを連想するのか。 私はこっちのほうを考えた。」
「うわっ!!なんだっ、この魚は?!どうしてこれにナポレオンの名前が?」
「成長するに従い、目の上のこぶのような部分が張り出してきて、それが古いフランス軍の軍帽に似ているというので、英語でナポレオンフィッシュと呼ぶのだそうだ。」
「ふうん………そんなもんかな………俺にはよくわからんが。 そんなことよりナポレオンといえばやっぱりこれだろう♪」
「え?」
つと立ったミロが戸棚から取り出したものはカミュ・ナポレオンである。
「カミュにもいろいろあるが、このあたりが俺には飲みやすい。 カミュ・バカラはメモリアル向き。♪ こっちは普段向き♪」
「でも……私は…そんなには…」
「大丈夫だよ、そこに座ってて、ちょっと付き合ってくれればいいんだから♪」
「ん……」

そしてそれだけではむろん済まなかったのだ。
「カミュ……」
「あ………ミロ…そんな…」
「ナポレオンは歴史に名を残し、その業績は偉大だ……でも…」
「……で…も?………あ……」
「幸せだったと思うか…?」
「ミ…ロ……」
「ナポレオンが3〜4時間しか寝なかったというのは有名だ。 食事も15分ほどで済ませ、あとは執務時間に当てたという。 睡眠が少なくても平気な体質は指揮官には有用だろうが、私的にはどうだったろうか?」
「……私的…とは……?」
「ナポレオンには皇后がいた。だが彼女を愛してる暇なんかなかったぜ、きっと!」
「ん……そうかも…」
「俺はそんなのは嫌だ、いつもお前を……」
「あ…」
「もっとお前を…」
「ミ……ロ…」
「愛したくて、大事にしたくてたまらない……カミュ………俺のカミュ…」
ミロの手が唇が熱を帯び、それに呼応してカミュの喘ぎが高まってゆく。
「お前は俺のロゼッタ・ストーンだよ………世界の至宝、謎を封じ込めた宝石だ……そして、それを我が物にして解き明かすのは俺………」
「あ………ああ………いや…」
「わかってる……もっと、って言いたいんだろう♪」
「ミロ……そんなこと……」
「そして……こうして欲しいんだろう? みんな、わかってる…」
「……ん………もう…だめだから………やめ…て………」
「嬉しくて嬉しくて朝までずっと抱いて欲しいのはわかってる………俺のカミュ…」
恥じらいを含んで忍びやかに洩れていた声もやがて途絶えれば、あとは甘い吐息と身じろぎの気配だけが薄闇を揺らす。
「発見したのは俺だからな………誰にも渡さない………知ってるか? 蠍は所有欲が強いんだよ♪」
そのささやきが聞こえたのかどうか、艶やかな髪がゆるくうねり、時を忘れさせていった。


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