「 ヘンリー・オズボーンの誕生日 」


「8月8日はヘンリー・オズボーン (1857〜1935 ) の誕生日だ。」
「知らんな。」
「アメリカの古生物学者で化石哺乳類研究の専門家だ。数多くの恐竜類の命名者としても知られ、1905年のティラノサウルス・レックス、1924年のヴェロキラプトルなどが有名だ。」
「なにっ!ヴェロキラプトルだと!」
「さすがによく覚えているな。」
「当たり前だ。 ジュラシック・パークを見たらその名は一生忘れんからな。 俺たちは聖闘士だから大丈夫だが、一般人があんなやつと遭遇したらまず間違いなくあの世行きだぜ。 映画だからストーリーの都合上生き残れたんであって、実際には文字通り餌食になるに決まってる。」
「うむ、あの獰猛さ、敏捷さは恐るべきものだ。知能程度もかなり高い。」
「それにしてもCGっていうのは実にすごいな。 あの映画で、小さいときから夢見ていた本物の恐竜に会えた気がする、っていう感想を読んだことがあるが確かにそうだ。動きのリアルさ、皮膚の質感なんかは鳥肌が立つくらいすごいぜ。」
「うむ、発掘された骨格から全身像を推定し、骨の強度、体重のバランスなどから筋肉の付き方などはかなり正確にわかるようになってきた。 しかし、お前の言った皮膚の質感もそうなのだが、実際に生存していた恐竜の色や模様などはまったくわかっていない。 映画や図鑑で見る恐竜の色や模様は単なる想像に過ぎない。」
「……え?!そうなの?」
「発掘されるのは骨であって、まれに皮膚の化石も見つかることがあるが色や質感を推定できるものではない。 かといって図鑑などに 、色はわかりません、と正直に書いて、真っ白な体色にするというのも淋しすぎるし、白でないのも明らかだ。 そこで、今も生きているワニやトカゲなどの爬虫類の体色などを参考に、研究者やイラストレーターが自分好みの色で仕上げているだけなのだ。」
「そ、そうなのか、知らなかった……俺はてっきりほんとの色だと思ってた。」
「むろん、鳴き声などもわからないことの筆頭だ。 骨格標本から、それに似通った種類の爬虫類の鳴き声を参考にして映画の中で効果的に使っているのだろう。 あの映画の中での首長竜の低くて太い声も印象的だったし、ヴェロキラプトルの鋭い声も獰猛な性格にふさわしかったと思う。 」
「お前の声も、」
「え?」
「十分に印象的だぜ。」
「………え?」
「だって、昼間の理知的かつ冷静沈着な声質が、夜になってそれなりの状況になると一変して情感に溢れた艶っぽいものに変わるのには目をみはるからな。 昼間のお前しか知らない人間には想像が付かないだろうよ。」
「そ、そんなことを想像されては困るっ!」
「大丈夫だよ、誰も知らないここだけの話。」
「ん……」
「夜のお前を発掘して好きな色に染め上げるのは俺の役目だ。任せてくれる?」
「ん…」
「ついでに命名もするかなぁ。ヴェロキラプトルのバリエーションでカミュラヴドールとかどうだ?」
「断るっ!」



   
パソコンの中を整理していたら、8年前に書いていたこの話を発見。
   あやうくお蔵入りになるところでした。