「 ヨハンナ・スピリの誕生日 」


「今日6月12日はヨハンナ・スピリ (1827〜1901) の誕生日だ。」
「ええっと、どこかで聞いたような…」
「スイスの女性作家で 『 アルプスの少女ハイジ 』 の作者だ。」
「あ〜〜、知ってる! ハイジって、すっごく景色のいいところでものすごく振れ幅の大きいブランコに笑いながらのってる女の子だ! あの年でどうして恐くないんだ??それに、あのブランコはどこに結び付けてある??」
「ミロ、あのブランコは…」
「ふふふ、冗談だよ、そんなに真面目にとるなよ♪ お前が振幅とか重心とか重力とか考えて方程式なんかを作ってるんじゃないかと思ってドキドキするぜ!」
「うむ、ブランコの支点から重心までの距離を ι とすると,重心の円周方向の速さ υθ は…」
「ちょっと待てっ!!」
「ふふふ、冗談だ♪」
「お前ね………」
「ところで、鞦韆 ( しゅうせん ) というのを知っているか?」
「鞦韆? いや、知らん。」
「古い時代の中国のブランコのことだ。」
「ふうん、中国にもブランコなんかあったんだ!」
「中国のブランコは子供の乗るものではなくて、若い女性の乗るものだった。宋の高名な詩人、蘇軾の 『春夜 』 という詩に出てくることで有名だ。

  
春宵一刻値千金  しゅんしょういっこく あたいせんきん
  花有清香月有陰  花にせいこうあり つきにかげあり
  歌管樓臺聲細細  かかんろうだい こえさいさい
  鞦韆院落夜沈沈  しゅうせんいんらく よるちんちん


春の宵はわずかな時間でもたとえようもない価値がある
花は清らかに香り、月は朧にかすんでいる
歌や管弦の調べが高楼からかすかに聞こえ
昼間は女たちが乗っていたブランコも 
今は乗る人もなく夜は静かに更けてゆく

の意だ。 」
「………あれ? 春宵一刻値千金って、どこかで聞いたような…」
「さすがによく覚えているな。招涼伝の最終回の…」
「そうだっ!あの詩に出てきたっ!
夏宵一刻値千金  花に清香あり 月に陰なし
招涼伝は夏の話だから夏宵か!そうか、ここから採ったのか!」
「さらにいえば、文部省唱歌の 『 花 』 、その三番。
  錦おりなす長堤(ちょうてい)に
  くるればのぼるおぼろ月
  げに一刻も千金の ながめを何にたとふべき

この、一刻も千金の、という部分は明らかにこの詩からきている。 このように漢詩は日本人の暮らしに深く浸透しているといえる。」
「そういうことなら………♪」
「あっ、ミロ、なにを…!」
「ふふふ、俺もお前の暮らしに深く浸透してやるよ♪」
「で……でも………」
「いいから、いいから♪」