青色発光ダイオード

年の瀬の秋葉原に降り立った二人は目を丸くした。
「聞きしにまさる喧騒だな! どうしてこんなに人がいるんだ?」
「ここ秋葉原は電気街として世界にその名を知られ、日本を訪れる外国人のほとんどは京都奈良のほかに秋葉原を訪問したがるという。 価格が安く豊富な品揃えには定評があり、英語はおろかアラビア語にまで対応できる店員を置いている店も数多い。 最近では最先端ロボット技術の一般向け店舗も充実し、また方向性を大きく転換したアニメ・フィギュア、さらには同人という…」
「うわっ! あれを見てみろよ!!」
カミュの解説をあっさりと断ち切ったミロの指差す方向に目をやると、小さな電気部品を所狭しと並べたガード下の間口の狭い店舗の軒先に青く輝くイルミネーションの束が下げられている。
「あんな青い光はちょっと見たことがないぜ! あれも売り物かな?」
カミュの腕を引っ張ったミロはずんずんと歩いてゆき、目指す物件の真下にやってきた。
「ああ、値段がついてる! ちょっといいな♪ そうは思わんか?」
「これは、青色発光ダイオードだ。 最近は各方面で多用されている。」
「ダイオード? 普通の電球じゃないのか?」
眼鏡をかけた店の主人は、聞きなれない言葉の外人二人がなにやら話し合っているのをちらりと横目で見てから、小学生らしい男の子の熱心な質問に答え始めた。 この様子ならほうっておいても大丈夫だと判断したらしい。
「ダイオード( LED ) とは、ガリウムやリンなどの元素を組み合わせて作る結晶体で、電気を通すと光る性質を持っている半導体だ。 電球とは異なり、LEDは熱を出すことなくエネルギーを光に変換することができる点で、極めて効率的だといえる。 」
「熱を出さずに光にするなら、俺たちも始終小宇宙でやっているな。」
「うむ、私たちの場合は聖闘士固有の小宇宙の性質により発現時の色彩が異なるが、LEDでは元素の組み合わせによって、生じる色が決定される。 40年ほど前に開発されたLEDの赤色と緑色を出す組み合わせは早くから発見されていたが、青色を出す組み合わせが見つかったのはごく最近のことだ。 これにより光の三原色が揃い、フルカラー表示が可能になった。」
「俺は青が好きだな!なんといっても美しい!よし、決めた、これを買おう♪」
「えっ?」
「せっかく日本に来たんだからな、お土産だよ。 これでお前の宝瓶宮を飾ったらホームアローンも顔負けの素晴らしい夜景になるだろう!」
「そ、そんな恥ずかしいこと……!」
「青はお前に譲る。 俺は少々残念だがスコーピオンカラーの赤で天蠍宮を飾ることにしよう♪麓から見上げたら最高に綺麗だぜ!」
カミュの脳裏を暗闇に浮かぶ二つの宮がよぎり、めまいがするようだった。 シャカの冷笑だの、ムウの憐憫だのが想像できて、絶句してしまう。
「ミ、ミロ……」
「冗談だよ、まさか本気にしたのか?」
「……え?」
「そんな目立つことをしたら、デスのやつになにを言われるか知れたものではない。 情熱の赤と冷静の青か、なるほどね、いい組み合わせだ、とかいってからかわれるのは御免だからな。」
ほっとしたときミロが店の主人の注意を引いて青色ダイオードの束を指差した。
「おい、これを20束、離れに発送するように頼んでくれ。」
「えっ、やっぱり宝瓶宮を?!」
「違うよ、そんなことはせん! クリスマスの飾りに使うのさ、ギリシャでは買えそうにないからな。」
ちょっと頬を赤らめたカミュが英語で話をつけて、宿の住所を伝票に書いている間に、先ほどの小学生は小さな部品を数種類、茶色い紙袋に入れてもらって急ぎ足で帰って行った。
「明後日には届くそうだ。 これで満足か?」
「ああ、とっても! さあ、こんどはお前の見たいものに付き合うぜ!」
「では、最先端ロボット技術の集積地にいこうと思う、よいな?」
「どこへでも行ってくれ、せっかくの秋葉原だからな、とことん見ていこうじゃないか♪」
ご満悦のミロと、まだ見ぬロボットとの対面に心弾ませたカミュの背の高い後ろ姿が、師走の雑踏の中に消えていった。




                       秋葉原は生きている街です。
                       そこでは常に新しい物が生み出されて人々を惹きつけています。

                       その中でミロ様の興味をひいたのは、昨今話題になった青色発光ダイオード。
                       20束って、ミロ様、それ、大名買いですよ!
                       カミュ様はAIBO (⇒ こちら ) を10匹くらい買って、宝瓶宮を走り回らせたりしてね♪
                       で、ミロ様を侵入者と判断して吠え立てるっ!

                       
「どうして俺に吼えるんだっ!早く設定を変えてくれ!」
                       「しかたなかろう、私のAIBOは侵入者の生体エネルギーを感知して、
                        一定の基準を超える興奮度を示している場合にのみ、反応する。
                        もっと平常心で訪問してくれればなんら問題はない。」
                       「そんなことができれば苦労はせんっ!やめろっ、これではお前に近づけんだろうが!!」


                       ミロも歩けば犬に当たる、ですか♪
                       
「いろはガルタで遊んでいる場合ではないっ!」
                       はい………