銀座

地上へと続く階段を上ってゆくと青空が見えてきた。

「ほら、ここが銀座だ。 東京で一番品格の高い繁華街だというぜ!」
「ほう! これはたいそうな人出だ!」
デパ地下を抜けてきた目には外の光が眩しい。
二人が立っているのは銀座4丁目の角、和光、三越、三愛、鳩居堂、日産ショールームといった錚々たる老舗が軒を並べる一番の目抜き通りである。
「新宿や渋谷なんて目じゃないぜ、あんな雑踏しかない街とは格が違う。 なにしろ銀座という地名からして、慶長17年に江戸幕府が堺の職人大蔵常是に銀貨を鋳造させる銀座役所をここに置いたのが始まりだ。 そのころの新宿や渋谷なんて、人家もまばらな農村地帯だからな、格が違うんだよ、格が♪」
「ほう! ずいぶん詳しいな!」
銀座がお気に入りらしいミロが力説し、カミュは感心してしまうのだ。
「俺だって、伊達に日本に滞在してたわけじゃない。 それにお前の博識ぶりに少しは感化されようというものだ。 」
話しながら二人の足は中央通りを8丁目の方向へ向かう。 今日の目的は名高い 「銀座ロオジエ」 でのフルコースを楽しむことなのだ。
行過ぎる道筋には世界のブランドショップが目白押しで、昔ながらの老舗はおされ気味のようにも思われる。
「ふうん、グッチにプラダにルイ・ヴィトン、エルメスに、ああバーバリーもあるぜ。 ほんとになんでも有りだな。」
「私には、そんな店よりも日本の歴史ある老舗のほうが好ましい。 これではパリやニューヨークとなんら変わらぬではないか。」
「安心しろよ、そう言うと思って、ちゃんと調べておいた。 ここが、虎屋だ。 俺たちが離れで毎日味わっているのがここの和菓子だぜ♪」
立ち止まったミロが暖簾を押し分けて入った店は客でいっぱいで、どうやら二階にあるらしい 「 虎屋菓寮 」 という喫茶室にも行列が伸びている。
「日本人はブランドも好きだが、こういう昔ながらのものも大好きなんだよ。 俺も同じだが。」
ケースの中の和菓子が夏らしく、その中にはすでに二人が味わったものも多いのだ。 次の和菓子のリクエストを考えながら店を出た二人は並木通りを右に曲がって目指すロオジエに向かった。
「ミロ、サガはそんなにこの店が気に入ったのだろうか?」
「ああ、東京に滞在している間、何回も来たらしいぜ。なにしろ黄金の中でも存在感がありすぎるからな、グラード財団でもそうとう気を使ったらしい。 店も料理もインテリアも最高だそうだ。 そういう店こそ、お前にふさわしいと俺は思うんだよ♪」
「そんな……」
すぐに返事ができずに少し頬を染めてうつむくカミュが可愛くて、誰もいなければキスに持ち込みたいミロなのだが、あいにくこの通りに人目がない時間帯などあるはずもない。
そうこうしているうちに二人はロオジエの前についている。 店の構えからしてそのセンスは群を抜いており、期待も高まろうというものだ。
「ふうん、こいつはいい! さすがだね、これを見ただけでサガが推薦するのも頷ける。」
「まったくだ、実に洗練されている。」
「ところで、ロオジエってなんの意味だ?」
真顔で尋ねるミロが微笑ましくて、カミュの笑いを誘う。
「知らなかったのか、お前にしては調査が甘いな。 フランス語で柳の意味だ。 銀座の町並みには昔から柳が付き物ゆえ、その名をとったのであろう。」
「うん、俺は甘いんだよ、知らなかったのか? そういうことなら今夜もゆっくり教えてやるぜ♪ 楽しみに待ってろよ♪♪」
絶句しているカミュにはかまわずに、ミロは店内に入っていく。 あわててあとを追いながら、なんとか頬の火照りを抑えようとするカミュなのだ。

そして料理は素晴らしかった!
「ほらね、ピュイフォルカのカトラリー、ベルナルドーの食器、ポルトーのリネンだぜ! これを見ただけでも最高とわかるってもんだ! どう? 満足した?」
「ほんとに! 東京にいてフランス料理の真髄を味わえるとは!」
溜め息をついたカミュが真っ白いナプキンで口元をそっと押さえる仕草が優美で、向かいの席から見惚れてしまうのはいつものことである。
「ほら、デセールが来た♪ このワゴンの上のものは選び放題、食べ放題だぜ、豪気じゃないか♪」
ワゴンの上にはコンポートやケーキ、アイスクリームなどが十種類以上も並び、なんとも華やかである。
「もう食べられないような気がしていたが、甘いものは入るところが違うっていうからな。 全種類、食べたくなってきた! お前はどうする?」
「これはなんとも素晴らしい! 全部は無理だが、いただこう♪」
「ふふふ、やっぱり甘いのが好きなんだ! そうか、そうか、うん、そうだろう♪よしよし、今夜は任せてもらおうか♪」
「ミロ………なにか違うことを考えてはいないか?」
「えっ? 俺が? ………ふうん……たとえば、どんなことかなぁ♪??」
面白そうな顔でアイスクリームに添えられたラング・ド・シャをパクッと口に入れたミロに見つめられたカミュが、真っ赤になって目をそらす。

   まったく素晴らしいデザートだぜ!
   目で見ても、味わっても最高なんだからな♪
   思いっきり甘いのがいいらしいから、注文に応じてやろう!

緑の柳が風にそよぎ、燕飛び交う銀座の午後である。





                                  銀座が好きです。
                                  蒲田に住んでいたときは京浜東北線で一本だったので、よく行きました。
                                  この頃は海外ブランド店が多すぎて、ちょっと心外です。
                                  そんなものは、青山や六本木にでも置いておけばいいんです。

                                  銀座ロオジエは、資生堂パーラーの開いたフランス料理の名店。
                                  あまりの高さと格式に手も足も出ませんが、
                                  ミロ様カミュ様なら大丈夫!
                                  どれほど似合うことでしょう!
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