早口言葉

「おいっっ!!」
「え?」
「こ、この壁紙はいったいなんだっ?!」
「カエルひょこひょこ、三ひょこひょこ、合わせてひょこひょこ六ひょこひょこ」
「………え? 今なんて言った?」
「だから、カエルひょこひょこ、三ひょこひょこ、合わせてひょこひょこ六ひょこひょこ、だ。」
「え? え? お前、何をひょこひょこ言っている?」
「これは日本人なら誰でも知っている早口言葉だ。 」
「早口言葉? し、しかし、なぜ蛙なんだっ? ウサギだってアヒルだってひょこひょこするだろうに、なぜ、よりによってお前が、俺の大事ないとおしいアクエリアスのカミュが、あのおぞましい蛙なんかの早口言葉を口にせねばならんのだっっ!! 蠍のは、ないのかっ?!ない? なければ今すぐ俺が作ってやる! ええと………
颯爽 ( さっそう ) と誘う蠍に誘われて さっそく刺されるカミュのハート♪とか!」
「そう言われても……。 この早口言葉は1850年ごろに成立した皇都午睡 ( みやこのひるね ) という随筆集に載っている。 編者は西沢一鳳 ( にしざわいっぽう ) という江戸期の戯作者、すなわち歌舞伎の脚本家で、その頃にはすでに人口に膾炙していた由緒正しい早口言葉といえるだろう。 赤パジャマ青パジャマ黄パジャマとか東京都特許許可局などとは出自が違う。」
「また変なのが出てきたな………それも早口言葉か?」
「うむ、ほかにも生麦生米生卵、スモモも桃も桃のうち、隣りの客はよく柿食う客だ、なども有名だ。 最近の作例では骨粗鬆症訴訟勝訴などが良い出来といえる。
「こつそしょうしょうしょ……なんだって?」
「骨粗鬆症の訴訟に勝利した、という意味だ。」
「俺は骨の丈夫さには自信があるから、そんな訴訟をする気はない。 十二宮戦を戦い抜いた星矢たちだって骨の強さは折り紙つきだ。」
「そういうことは言っていないのだが。」
「冗談だよ。 ところで早口言葉なら世界中にあるんだろう? ギリシャ語には ミア・パタタ・マ・ティ・パタタ (芋一個でもなんの芋 ) なんてのがあるが。」
「うむ、ニュージーランドのマオリ族のものは以下のようだ。
Taumatawhakatangihangakoauauotamateaturipukakapikimaungahoronukupokaiwhenuakitanatah」
「そんな極端なのを持ち出すなよ、意味も読み方もわからん!」
「英語では She sells sea shells by the sea shore 彼女は海岸で貝殻を売る、というのが有名だ。 s とsh の発音の違いを正しく言い分けるのが難しい。」
「なるほど、やたら S が多い文章だな。」
「Sが多用されているものならこれもそうだ。 Shy shelly says she shall sew sheets. 恥ずかしがりやのシェリーはシーツを縫うだろうと言う、の意になる。」
「違うな!」
「え? どこが?」
「シェリーじゃなくてカミュだ♪ Shy Camus says he shall sew sheets. Sが二個少なくなるが、そんなことはかまわん! 恥ずかしがりのカミュはシーツを縫うだろうと言う、 そうか、そうか♪ 俺との閨のシーツを買いに行くのが恥ずかしくて自分の手縫いのシーツを………! ああっ、たまらんっ♪ 俺たちの愛のしとねを手作りしようというお前のやさしい心情が俺の胸を揺さぶるね♪ ついでにピロケースも頼もうじゃないか、肌当たりのいいシルクサテンなんかどうだ?お前の白い肌が映える淡いピンクが好みだな♪  あれっ? カミュ、カミュ〜〜〜っ!」





             
必要に迫られて即興で作った蠍の早口言葉、
             
颯爽 ( さっそう ) と誘う蠍に誘われて さっそく刺されるカミュのハート
             
なかなかいいと思うんですけど♪

             この壁紙もいつもの素材サイト様のものです、異色です。
             以前、東方見聞録の 「 カジカ 」 を書いたときちょうどいいのがなくて、
             「もしかしてカエルの壁紙はありませんでしょうか?」
             とお聞きしたらパソコンの中を探してくださり、このカエルの絵が発見されたそうです。
             ( つ、使えない………)
             かなりシリアスな心情になっているミロ様なのに、この蛙は不適合………(涙)。

             でも、今回、なんとか使えないかな、と考えて 「そうだ! 早口言葉があるっ♪」
             そうして出来たこの話、典型的な素材先行型の創作です。
             前作が 「しりとり」 ですから言葉遊びのペアということで。