干し柿 2

玄関先に宅配便の車が着いて、いつも通りに幾つかの荷物が運び込まれた。 美穂が受け取りの判を押し、そのうちの一つを重そうに厨房のほうに抱えていくのを見つけたのはミロだ。
「どれ、持ってやろう!」
ひょいっと横から抱き取ってさっさと歩き出すと、びっくりした美穂がなにか言いながら慌てて追いかけてくる。
「いいから、いいから♪」
気軽にそう言って厨房へのドアの前で立ち止まり、
「開けて♪」
そう言ったら美穂が笑いながらお辞儀をしてドアをさっと開けた。 大きな調理台を指し示すのでそこに箱を置いたとき、
「ミロ、何をしている?」
後ろから声をかけたのはもちろんカミュだ。
「美穂が大荷物を持っていたのでちょっと手伝い♪こいつは女の子には重過ぎるな。」
「お客様に重いものをお持たせするなんて申し訳ございません。 いつものことですのに。」
そう言いながら箱を開けた美穂が二人に中身を見せてくれた。中には鮮やかなオレンジ色の柿がいっぱいに詰まっている。
「ほう、これは見事だな!」
「渋柿ですからこのままでは食べられませんのよ。 皮を剥いて日に当てて干しておくと一ヶ月くらいでとても甘くなるんです。」
「え……すると、これが干し柿に!」
ミロの脳裏に去年の苦い、いや、渋い思い出が蘇ってきた。 京都郊外できれいな柿の実を見つけた二人はもぎ取ってその場でかじり、散々な目にあったのである。
「ええ、馴染みのお客様が毎年送ってくださるのです。 北海道では柿は育ちませんから、ここで作った干し柿をお出しすると皆様とてもお喜びになるんですのよ。」
「するとこれから皮を剥く?」
「ええ、早く剥かないと実が柔らかくなってしまってよくないのです。」
「面白そうだな、おい、俺たちも手伝おうぜ♪」
「うむ、どうせ暇なのだ、それもよかろう。」
というわけで手伝いを申し出ると、美穂がとんでもないと断った。 断ったのだが、共通の体験を通した異文化の相互理解についてカミュが論陣を張り、美穂が根負けしたのだ。
「ではお願いいたします。」
笑いながら包丁を用意した美穂が見本に幾つか剥いて見せ、真剣に覗き込んでいた二人の聖闘士がさっそく皮剥きを始めたものだ。
「おい、手を切るなよ、ここにはムウはいないんだからな。」
「お前に言われたくはない。 ミロこそ気を付けたがよい。」
滅多に包丁など持たぬ二人だがコツを掴むのは早く、見る間に皮を剥かれた柿の山ができてゆく。
「ふうん、面白いもんだな♪柿のヘタのところを丸く残しながら剥いていくと、枝についてたところでT字型になって、そこにうまく紐がかかるようになってるんだぜ!まるで注文して作ったみたいじゃないか!」
「まったくだ、自然の形をうまく利用して無駄がない。食べるときは、その部分が持ち手になるのだからな。」
三人で剥くのだから箱の中はすぐ空になり、今度は美穂が紐をもってきて柿のヘタにひょいっとひっかけて移動式の物干しに掛け始めた。
「ああ、なるほど!これならどこにでも持っていけるから日光をたくさん当てられるってわけだ!」
「出来上がると重さが半分くらいになりますのよ、前に計ってみたことがあるんです。」
感心したり説明したり、確かに異文化の相互理解はさらに進んだようである。 この美しい二人の青年と一緒に干し柿を作った美穂も、手が疲れてしまうだけの例年と違ってたいそう気分がよかったことは云うまでもないのだった。
そのあと美穂を恐縮させながら、柿で満艦飾になった小物干しを外に運び出し日に当てる。
「出来上がって食べる日を楽しみにしているぜ。」
「私もだ、いい体験をした。」
ユラユラと揺れる柿の実が二人を見送っていた。


「カミュ………お前って干し柿♪」
「……え?……ミロ……なにを…」
「だって、そのままじゃだれも食べられない渋柿を………ほら、こんなふうに…♪」
「あっ…!」
「皮を剥いて日に当てると………ふふふ……すっかり甘くなって食べ頃になる♪」
「あ……ミ…ロ………」
「俺って、太陽みたいだ、ってよく云われるだろう? でも、一ヶ月も待つことはないんだぜ、お前の肌に押し当てると……ほら、あっという間に甘くなる♪」
「あ……いや…」
「食べていい? 俺だけの甘くてとろけるような干し柿を♪」
「ん………」



                                   
去年に引き続き、いきなり干し柿。

                                   美穂ちゃんはミロ様カミュ様と剥いたので楽しかったでしょうが、
                                   一人で瞑想しながらの作業はちょっと………。
                                   (↑ 今日142個作った管理人の独白…)
                                   しかし、ミロカミュで干し柿を書く人も珍しいのでは?それも2編も。
                                   すると来年は 「干柿 3」??