「おはようございます、ミロです。今日はよろしくお願いします。」
「君がミロ君か。間近で見るのは初めてだが、ふむ、実に見事な金髪碧眼だね。絵に描いたようだな。はい、履修シートをかして。いや、眼福眼福。」
いきなり言われたミロが内心たじろいだ。正面切って誉められるのはいくらなんでも面映ゆい。
「いえ、あの、それほどでも…」
「ええと、今日は一回目か、安全確認だな。背も高いし、さぞかしもてるんだろうねえ。」
「いえいえ、そんなことはないです。」
「そうかねえ?女の子がほうっておかないんじゃないか?日本語がわからないならともかく、こんなにペラペラだったら話しかけやすいからね。しかし流暢だねえ。たいしたもん だ。」

   それなんだよ問題は!
   いかにして話しかけられないで済むか試行錯誤の日々だからな
   いや、難行苦行といってもいいだろうな

「じゃあ、まず車の後ろに来て。車の下になにかいないか自分の目で確認する。走ってから気がついたんでは遅すぎるからね。はい、君もやってみて。」
教官に倣ってミロもかがみこんで車体の下に何も異常がないのを確認する。
「大丈夫です。」
「君とカミュ君が入校したら女の子たちの目の色が変わってね。いきなり新規入校の申し込みが増えて事務がてんてこ舞いだよ。普通ならうちには来ないような遠方からの入校希 望者も多い。」
「そうなんですか?」
「いまどきはツイッターとかであっという間に情報が拡散するからね。反対に最近卒業した生徒たちはすごく悔しがっているっていう話だ。じゃあ、異常がないのを確認したら運 転席に乗って。」
「はい。」
「次にシートベルトを締める。」
初めてのことに緊張したミロがもたついていると教官がベルトのねじれを直してくれた。
「どうもありがとうございます。」
「髪が長いと背中に挟まって運転中に気になるだろう。女の子はアップにする子が多いが、君は男だから右でも左でも好きな方から前に回すといいんじゃないかね。」

   アップなんてとんでもない! そんな女みたいな真似ができるかっ!

万が一ミロがその気になったとしても、そもそも髪の量が多すぎてピンの一つや二つではとても留まりそうにないのだ。実際に背中に挟まった髪が引っ張られて気になったので右 肩から前に回すと、まっすぐなカミュの髪とちがってウェーブのかかったミロの髪はけっこうボリュームがあり、狭い車内ではかなり目立つ。
「まあ大丈夫だとは思うけど、もしも運転に支障をきたすようなら切るか結ぶか考えたほうがいいだろうね。なんといっても安全が第一だから。」
「……検討します。」
「では最初にエンジンのかけ方からいこうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
こうしてミロの講習が始まった。


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        正直言って、あの髪は日常生活でいろいろと不便だと思います。
        シュラとか星矢とかアイオリアのヘアスタイル推奨です。