金 髪 碧 眼 2

俺の金髪は日本ではことさら目立つ。
黒髪ばかりの日本人の中では金髪というだけでも目立つのにそれに加えて髪が長い。ヨーロッパでも髪を長くしているは男は珍しいと思うが金髪に関してはそれほど注目されるわけではないし俺も気にしたことはない。
しかしここ日本においては金髪プラス長い髪は目立つということに関して致命的といってもいいだろう。ともかく目立つ。ひたすら目立つ。隠密裏に行動するなんて不可能だ。
「日本では背が高いというだけでも目立つのに俺の場合は長い金髪がさらに注目を浴びる。」
「しかたあるまい。まさか髪を染めたり短く切るわけにもゆかぬのだからあきらめろ。」
「俺だってそんなことをする気はない。俺がシュラみたいな髪になったら他人だよ。」
「そんなことは私もいやだ。想像を絶する事態だな。」
「俺が黒髪短髪だとするとお前は金髪の短髪ってことで、」
「……氷河だな。」
「あり得ない。師匠が弟子の真似をするなよ。」
想像できなすぎて苦笑する。
しかしそれだけではない。知っての通り俺の目は青い。カミュも蒼いが俺の目の青よりはいくぶんか暗い色調で、しいていえばあまり目立たないかもしれない。
しかし俺の目は彩度が高い明るい青でものすごく目立つ。ヨーロッパなら単なる憧れの対象だがここ日本ではそれに加えて好奇とか驚嘆とか、もしかすると畏怖もあるのかもしれないとも思う。
「まさかそんな!」
「だってこないだ学習室にいたら廊下でしゃべってる声が聞こえてきて、俺の目のことを、怖いくらいにきれいでまともに見られない、とか、人間の目があんなに青いなんて信じられない有り得ない、とか言っててさ。」
「私はそうは思わないが。」
「お前は見慣れてるからな。それに聖域にだって目の青いやつはたくさんいる。色的には俺がいちばんきれいかもしれないが。」
「うむ、聖域のみならずアテネにおいても青い目を持つ者の中ではお前の虹彩の明度及び彩度のレベルは極めて高いと私も思う。」

   そんな難しい言い方をしなくても、
   お前の目がいちばんきれいだ、 って言ってくれたほうが嬉しいんだがな

聖域でも雑兵や聖闘士以外の者も含めると青い目はかなり多いが実際には薄い青や灰色がかった青がほとんどで、俺ほどはっきりとした青は珍しい部類だろう。
「で、日本じゃこんなに青い目を見たことがないのが普通だからほんとに驚くらしい。」
「私はそんなに驚かれた覚えがないが。」
「お前の目の色は同じ青でも少し暗めだし髪は黒いからな。その点日本人からみてなんの違和感もない。」  
(うちのカミュ様の髪色は黒です)

   その代わり美形過ぎるが、それだからといって怖がられはしないからな
   神々しすぎて近寄りがたいというのはあるかもしれないが

で、ただでさえ金髪なのに前から見れば目が青いためこれでさらに日本人は驚くことになる。 あまりに驚かれることが多いので美穂に訊いたら、映画やドラマで目の青い人間をみることがあるがきれいという印象と共に驚きも大きいという。曰く、
「ほんとに目が青いんだ!すごい!」
だそうだ。

   青いよ、うん、ほんとに青いんですが、それがなにか?

映画で見ても驚くのに、その人間が現実に目の前に現れたらある意味パニックだというのだから恐れ入る。
「パニック!?」
「そんなに驚かれてるつもりはないんだけどな。」
「パニックとは予想外だな。とても考えられない。」

しかし、そのカミュがパニックになる事態が起こったのは翌日だった。
「おはよう、カミュ」
「ん…」
いつもの通り隣に眠るカミュに声をかけたミロが軽いキスをした。小さくため息をついたカミュが目を開けて開口一番、
「…わっ!ミ、ミロっ!それはっ!」
「えっ!なにっ!どうしたっっ!」
日頃のカミュに似合わずほとんど悲鳴に近いような声をあげられたミロも驚愕した。
「どうしたって……だって!だって……あぁ、そうか!」
「はぁ?」
「すまない、驚いて悪かった。」
「いったいどうした?」
「目が赤い。」
「赤いって俺の目がか?」
促されて洗面所の鏡を見に行ったミロがうなり声をあげた。

   なんだこりゃ?
   カミュが驚くのも無理はない
   女だったら悲鳴をあげて失神してるんじゃないのか?

左目はなんともないがミロの右目は白い部分が真っ赤に染まっているのだ。よく見ると目尻のほうにある程度白い部分が残っているがぱっと見には真っ赤としか思えない。 青い虹彩の回りが真っ赤というあまりにも目立ちすぎるコントラストが衝撃的でしげしげと鏡を覗いていると身繕いをしたカミュがやってきた。
「まいったな、治るのか?これは。」
「結膜下出血だ。数日かかるが自然に治る。結膜下の微細な血管が破れて出血したのだな。」
「すごくおおごとに見えるんだが医者に行かなくてもいいのか?少し目が重いよう気がするが。」
「大丈夫だ、視力低下の心配もない。血液は十日ほどで自然に吸収される。」
「それならよかった。このままだったら天蠍宮にこもらなきゃならん。」
それしても気になるので美穂に頼んで眼帯を持ってきてもらい、治るまでは自動車学校も休むことにした。
「視力は問題ないけどこの目を見られたらひと騒ぎだし、かといって眼帯をつけて行ったら運転はできないうえにあれこれと詮索される。わざわざ話しかけられるきっかけを提供する必要はないからな。悪いがお前だけ行ってくれ。俺を追い越してくれていいんだぜ。」
「いや、私も休む。」
「え?そうなの?」
「私一人で行ったらお前がいないわけを訊かれるのは必定だ。事実を言う必要はないし、そもそも説明の有無に関わらず注目されて困ることになる。」
「そりゃそうだな。」
もう一度鏡を見たミロが感心したように顔を近づけた。
「それにしても青と赤の対比が際立ってるな。どう考えてもこんな目で外を歩きたくない。ものすごく目立つ。」
「遠くからでも人目をひくのにいきなり至近距離で見せられるというのはフェイント過ぎる。」
「そう言われても俺だって目がああなってるなんて知らなかったからな。そもそもなんでああなるんだ?」
「原因とされる要因はいくつかあるがはっきりとした原因がわからないことが多いそうだ。ストレス、高血圧、急激な加圧などが関係していることもある。」
「ふうん、ストレスなんかないけどな。それにしても両目でなくてよかったよ。そんなことになったら目も当てられない。おっと、この場合当てられないのは眼帯か?」
自分の言った冗談に自分で笑ったミロがふと気がついた。

   ストレスはなかったけど夜の間に一時的に血圧は上がったんじゃないか?
   まあ、そんなことはいつものことだが

くすっと笑ったミロが眼帯をした。朝食の時間だ。
「美穂がどうしたのかと心配してるだろうから、ちょっとはずして目を見せたほうがいいかな?それともかえって心配する?」
「さて、どうしたものか。」
「考えようによってはカラフルな目とも言える。」
「そんな目は聞いたことがない。」
「うん、俺もない。」
笑い合った二人が食事処に向かっていった。

その後サングラスをかけることを思い付いたミロが駅前商店街のメガネ店で濃い色のサングラスを買ってきたときがまたたいへんだった。玄関先で美穂が出迎える。
「ただいま〜」
「まあ!ミロ様っ!まあ!」
「え?なに?」
「いえ、あの、たいへん失礼をいたしました。おかえりなさいませ。」
「なにか驚かせるようなことがあった?」
「あの…それは…」
なぜか真っ赤になった美穂が下を向いた。
「サングラス似合わない?」
「いえ、そんなことはありませんわ。とてもよくお似合いです。」
「よかった。こんなのかけたことがないから心配だったけど、これで安心して外を歩けるな。それから鯛焼きを買ってきたからスタッフのみんなでどうぞ。」
「恐れ入ります。どうもありがとうございます。」
にこにこして美穂に鯛焼きの袋を手渡したミロが離れに向かっていくと奥の事務所から辰巳が顔を出した。
「ミロ様がサングラスを買われたのか?」
「はい。似合う?ってお訊ねになりましたのでもちろん、はい、とお答えしたんですけれど、似合いすぎて…もうなんというか…」
「ひとことで言えば、かっこよすぎるな。どこの映画スターかと思われるのは間違いなしだ。あれで駅前なんかに出かけたらほぼ全員がスマホを取り出しておかまいなしに撮影しまくってSNSに投稿されかねない。」
「どうしましょう?せっかくお買いになったのに、おやめになったほうが…なんて申し上げにくくて。」
「う〜〜ん、どうしたものか?かといって眼帯もお嫌だろうし。」
眼帯をかけたミロならなるほどかっこいいとは思われないだろうが、ミロ本人がかっこ悪いと思っているのだからどうしようもない。結局辰巳も自然の成り行きに任せることにした。目立ちすぎてまずいとカミュが考えたらそれはそれでOKである。

「ほう!サングラスもなかなか良いな。」
「だろ。ちょっと特別感がある。お前もかけてみる?」
「では貸してもらおう。」
カミュがサングラスをかけた。
「うん、かっこいいぜ。思わぬ発見だ。紫外線から目を守るためにもあったほうがいいだろう。今度お前も買ったほうがいいな。」
「ではそうしよう。カルディアとデジェルにも勧めてみる。」
「それがいい。四人でサングラスをかけて出かけたらきっと美穂が面白がる。」
かくして数日後には美穂が玄関で悲鳴を上げることになるのだった。サングラスも罪作りである。





        自動車学校の話を書いている途中で金髪碧眼の話題に触れたくなって。
        美形もいいけど現実にこんな人がいたらものすごく苦労しそうです。
        ほんとに聖闘士になって十二宮で暮らしたほうがのんびりできていいのかも。