金 平 糖

「これを知ってるか?」
「……え? これは…」
「ふふふ、さすがのお前も知らないか、そうだろう、そうだろう!」
「勿体をつけずに早く言ってもらいたい。」
「そう急くなよ。 自分が知らないことがあると悔しいんだろうが、俺にも少しは優越感を味あわせてもらいたいね。 はい、口を開けて!」
「え?」
手のひらに載せていたものを一粒口に入れたミロが慣れた様子で唇を重ねてきた。

   あ………

「………どう?」
「どうって………」
「しばらくそのままで舐めてみて♪」
抱き締めたままでカミュの反応をうかがうミロを押しのけようとするのだが、とても言うことを聞くものではない。
「まったくお前と来たら昼間から………あ……甘い…」
「だろ? これが金平糖、日本の菓子だ。 ホールの雛飾りにあったから美穂に頼んでちょっともらってきた。」
ミロの手のひらにはまだ5、6粒の尖った角をたくさん持った可愛い色とりどりの粒が乗っている。
「菓子とは……!フグの卵のフリーズドライかと思ったが。」
「えっ?」
「冗談だ。」
「お前ね…」
一瞬あっけにとられた顔をしたミロが再び口付ける。
「………俺にもくれる? 少し丸くなったのが好みだな♪」
「ん…」
角の取れた金平糖がひそやかに移動した。

「金平糖は安土桃山時代にキリスト教の宣教師や貿易商人がカステラなどとともに日本に伝えたらしい。 永禄12年に織田信長を二条城に訪ねた宣教師ルイス・フロイスが金平糖を贈ったという書簡が残っている。」
「ふうん、そんなに昔からあるのか。」
「誰しも疑問に思うあの形だが、芥子粒や蕎麦の実、白ザラメなどを核にして大鍋の中で糖蜜を掛けながらゆっくりと転がし、二週間ほどかけて作るのだそうだ。 なお、角のできる理由ははっきりとはしていない。」
「え? それが知りたかったんだが。」
「専門家でもよくわからぬそうだ。 江戸時代には進物などに使われてかなり普及しているが、高価であったには違いない。」
「ええと、金平糖の踊りとかいうのがなかったか?」
「それはチャイコフスキーのバレエ組曲・くるみ割り人形のなかの曲だ。 」
「もともとは宣教師が伝えたんだし、チャイコフスキーも曲にしたんだから東方見聞録にするにはちょっとずれてないか?外国にもあるんだろう?」
「いや、それがそうでもない。 チャイコフスキーの原曲はフランス語で Danse de la Fc’e-Dragee、英語では Dance of the Sugar Plum Fairy といい、球形の砂糖菓子を意味している。 しかし、明治44年初版の三省堂・模範英和辞典で Sugar Plum を 『 球糖菓、金平糖 』 と訳してあったために、曲を日本語に訳したときに日本人に親しみやすい金平糖が採用されたものと思われる。」
「つまり、もともとは金平糖じゃなかったってことか?」
「そういうことだ。 球形の砂糖菓子、つまりボンボンが正しいらしい。」
「ボンボンの踊りじゃ、なんだかムードが足りないな。 金平糖で正解だと思うぜ。」
「同感だ。」
「じゃ、合意が取れたところで俺の口にも一粒入れて♪」
「えっ?!」
「当然だろ、GIVE & TAKE は俺たちの合言葉♪」
「い、いつのまにそんなことが決まったのだ?」
「うん、俺がいま決めたの♪」
「そんな勝手な!」
「いいから、いいから♪」


「カミュ………カミュ………お前って金平糖みたいに甘いのな……」
「あ………ミロ…」
「可愛くて甘くて………」
「そんなことは……あ…………お前こそ……お前の聖衣の肩パーツのほうが、よほど金平糖に似ていて……」
「あれ? いいことを言ってくれるじゃないか! それを言うなら、お前の肩パーツのたおやかな丸みは、まるで金平糖を舐めて角が取れたみたいで可愛いぜ♪」
「え?」
「ねぇ………舐めさせてくれる?」
「あ……」
「いいから、いいから♪」





             
金平糖なので、なんとなく甘く終りました、あまり深く追求しないでくださいな、気分です、気分♪
                
                      ボンボン ⇒ こちら
                      くるみ割り人形・金平糖の踊り ⇒ こちら  (名曲スケッチからお入りください)