クロアゲハ 長いですけれどページ分けはしていません |
昨夜遅くカミュに単独任務が伝えられ、いつも通りに俺と朝食を摂ったカミュは美穂に三日ほど留守にすると告げると聖域に向かった。宝瓶宮で聖衣を身につけてから任務につくためだ。
三日もカミュがいないと実に手持ちぶさただ。離れにいても話し相手がいないので、HDに録りためた番組を幾つか見てから食事処に行って昼食を独りで食べる。 う〜ん、退屈だ 俺も天蠍宮に帰ったほうがよかったかな 膳を下げにきた美穂と天気の話をして離れに戻るとまた退屈だ。 「そうだ!久しぶりに牧場に行くか。」 そもそも日本に来た目的は乗馬技術の習得だ。当初の目的を果たしたあとも日本が気に入った俺とカミュは引き続いて滞在しており、時々乗馬を楽しんでいる。 余談だが、今までに俺が登場した 「招涼伝」 「普蘭西物語」 「黒い騎士」 「阿弗利加物語」 「落窪物語」 これらのすべてで俺が乗馬をやっているっていうのはいったいなぜだ? 「願い事一つだけ」 では乗ってないのがかえって不思議で……ああ、メリーゴーランドに乗ってる!やっぱり俺って馬と縁が深い? それはともかく、夏の終わりの北海道の木立の中をいい気分で馬を走らせた俺は満足して宿に戻った。 「お帰りなさい、ミロ様」 「うん、ただいま。」 フロントで鍵をもらってからから、離れに戻る前に庭を一巡りすることにした。草木の成長などを楽しみにしているカミュが毎日観察を怠らないため俺もそれに倣っている。アカゲラ が木の幹を叩いている報告なんかしたらカミュはとても喜ぶだろう。 庭の奥のあまり人の行かないところに柚子の木があり、ここにはアゲハがよく来るのでカミュのお気に入りになっている。 そのことは宿でもよく知られていて、出入りの庭師も消毒をしないことになっているので安心だ。アゲハにとっては聖域といえるだろう。 初夏からずっとこの木にはたくさんのアゲハが育ち、カミュも飼いはしないが毎日楽しみに見に来てる。 「だいぶ減ったな。残ってる幼虫も少ないし。」 見ているときれいなアゲハがやってきて、葉に一つずつ卵を産み始めた。昆虫の中には卵を一カ所にびっしりと産み付けるものもいるが、カミュに言わせれば、 「アゲハはそんな真似はしない。品よく一つずつあちこちに産む。そのほうが食草を争う必要がなく生き残る可能性も高い。」 ということだ。品よく、というのはカミュにしては珍しく身贔屓的な表現だろう。 そんなふうに産卵しているアゲハをしばらく見てから離れに戻ろうと向きを変えたら驚いた。すぐ足元を大きいアゲハの幼虫が這っている。よくも踏まなかったものだと思う。 「うわっ!驚かすなよ!危うくセーフだな。」 よく見るといつものアゲハではないのがすぐにわかった。世間で普通に見かけるアゲハはナミアゲハといい、幼虫自体もかなり知名度が高いと言えるだろう。 しかしこのアゲハはサイズが一回り以上大きいし身体を斜めに横切るラインの模様も違う。アゲハ類なのは間違いないが明らかに違う種類だ。 「木から降りて地面を歩いてるってことは、どこかにサナギになりに行くんだな。う〜ん、どうするかなぁ、カミュがいないけど飼ってみるか?」 こんな立派なアゲハをみすみす見逃すのは惜しい。だが、飼育ケースにはいま鈴虫を飼っている最中で、入れ物がない。 でも飼いたい! こんな大物をゲットしたらカミュも感心するに決まってるし! カミュを喜ばせたいのと誉められたいのと半々だ。俺が考えている間も幼虫はずんずん進む。この幼虫という言葉に拒否反応を起こす読者もいると思うのでここからは緑っ子と呼ぼう。たいていのアゲハ類の幼…もとい緑っ子は 濃い黄緑色をしているものだ。 「なにか入れ物が要るな。でもこの速さでは、取りに行っている間に行方不明になるんじゃないか?どうする?」 迷ったあげくあげく近くに落ちていた30センチくらいの細枝に乗り移らせた。緑っ子は一瞬は止まったがすぐに着実な歩みを続けている。 「お前、早過ぎるぜ!そんなにあわててどこに行く?」 急いでもう一本の枝を探して次々と移らせながら正面玄関のほうに行くと夕方に到着した客がフロントで手続き中で、とてもではないがこの緑っ子と一緒に入っていける雰囲気で はない。せっかく旅先で寛ごうと思って来たのにいきなり大きな緑っ子を枝の先につけた男と出くわしたらたいていは嬉しくはあるまい。 下手をすると絹を裂くような叫び声をあげられる恐れさえある。危険の予測は聖闘士には必須の能力だ。 あっさりと目標を変えた俺は建物についてぐるっと裏に回り、厨房のドアをノックして開けた。 「ちょっといいかな?」 「おや、ミロ様、こんなところからどうなさいました?」 トロ箱から大きなスズキをつかみあげた板前が振り向いた。 「忙しいところを悪いんだけど、箱かなにかもらえるかな?アゲハの…これをつかまえたんだけど。」 夕食の用意で忙しいのに悪いとは思ったが、ほかにどうしようもない。幸い緑っ子は揺れ動く枝に緊張してじっと身を固くしている。 「うわ……それは立派ですね。それでしたら倉庫に空いたトロ箱や段ボールがありますのでお好きなのをお持ち下さい。ラップとかビニールとかも必要でしたらなんでもどうぞ。 おーい、誰か、ミロ様を倉庫に…」 「ああ、場所はわかってるから自分で行くよ。どうもありがとう。」 魚をさばき始めた板前に礼を言って脇の倉庫からよさそうな箱を見繕う。 「トロ箱と段ボールとどっちがいいんだ?サナギになるんだから、くっつきやすい材質のがいいんだが。」 判断がつかなかったので、どちらも手頃な大きさのを選び、ついでにラップとガムテープも借りることにした。緑っ子が逃げ出さないようにしないと困ったことになる。 とりあえずトロ箱の中に緑っ子のついた枝を入れるとほっとした。えらく安定した新居を提供できたので大船に乗った気がする。いや、乗せてやったのかな? 満足しながら離れに戻ってトロ箱にラップで蓋をした。要所要所をテープで留めて隙間をふさぐ。緑っ子の呼吸に使う酸素なんてたかが知れているので、ピタッと覆っても支障はない。それより逃げ出さないようにするのが肝心なのはカミュの手際を見てわかってる。そのあたりは門前の小僧習わぬ経を読むというやつだ。暑ければ蒸れるだろうが、この室温ならその心配はないだろう。 「あとは歩くだけだろうが、念のため葉っぱもいれておくかな。」 緑っ子が歩き始めたのを確認してからもう一度庭に出て柚子を一枝切ってきて中に入れてやった。万が一 腹が空いていたら勝手に食べるだろう。 「よし!完璧!」 カミュが任務に当たっているときに暇なことをしているものだと我ながら思うが、カミュだって俺が精進潔斎してお百度を踏むことなんか望んではいない。普通にしていることが いちばんだ。 緑っ子の世話で遅くなったので風呂は後にして夕食を食べに行った。あと三日はカミュがいない。つまらなくはあるが、あの緑っ子がいれば少しは気が紛れるし、カミュが戻って きたときに自慢できるというわけだ。 酒は控え目にして食事を終わり、離れに戻って緑っ子が歩き続けているのを確認してから露天風呂に行った。京都から来たという先客がいたので、障壁画や祇園祭の話をして時間を過ごす。部分的には俺のほうが詳しかったので相手を面食らわせたかもしれない。 湯上がりに糊の効いた浴衣を着るのはいいものだ。ほてった頬に夜風がどうにも快い。こんなときにカミュがいればいいんだがとあれこれ思いながら玄関に入り、トロ箱の 中を確認する。緑っ子は相変わらず元気だ。 外見がよく見かけるアゲハとは違っていてほかの種類のアゲハらしいのでネットで検索してみるとどうやらクロアゲハのようだ。 飛んでいるのを見たことはあるが、カミュもまだ緑っ子は見ていないはずでますます期待が持てる。留守の間に俺が希少価値のあるクロアゲハを世話していたと知ったらカミュ は喜ぶに違いなかった。 寝る前にワインをやりながらBSの旅番組をみて、さて寝る前にもう一度緑っ子の様子を見てみることにした。 「あぁ、壁を登ってるのか。すぐに天井に着くからそこのところは諦めてくれ。」 黙々と登っているのが可愛くてじっと見ていると、 あれ?おいおい、それは無理じゃないのか? なんとてっぺんに着いた緑っ子は覆いのラップに逆さまになって歩きはじめた。ラップって歩けるのか?落ちたりしないか心配ではらはらしていると、重さで少したるんだラップの真ん中辺りまで進んで行っ た緑っ子は……落ちた! 「おい、大丈夫かっ?!」 俺が心配してもどうしようもないのだが、打撲傷を負ったのではないかと気にかかる。幸い緑っ子は平気な様子で歩き始め、また壁を登っていって……また落ちた! もしかして俺が食事して風呂に入って飲みながらネットをやっていたときにも何回も落ちてたりして? 学習しろよ! って言っても無駄か……無駄だろうな、やっぱり。 しかし、まずい!まずすぎる! ともかくこのままではだめなのは明白だ。ほかの材質の蓋を考えたが、よさそうなものがない。見えなくては様子が確認できないし、硝子板やアクリル板も手元にはない。そもそも それで落っこちないでいられるのか? 考えた挙げ句、俺が思いついたのは鉢植えの木だ。本来緑っ子は木にいるのだからこんなに自然なことはない。枝ならつかまりやすいから落ちるはずもないだろう。 この際、背に腹は変えられない。ひたすら歩き回っている緑っ子の無事を祈りつつ玄関を出ると、誰もいないホールに行って、目立たない場所にある観葉植物の鉢植えをこっそり 持ってきた。うまく蛹になってくれたら同じものを買って埋め合わせればいいだろう。 幸い誰にも会わなくて助かったが、目撃されたら思いっきり不審者扱いされる行為だろうと思う。 やっと玄関の中に運び込み、そっとラップを剥がしてトロ箱の床を這っている緑っ子を柚子の枝に乗り移らせると観葉植物の幹に移らせてほっとする。 ところがだ、ずんずんと登っていった緑っ子はてっぺんを向いた長い葉の先端で足先(?)でつかまりながら長い身体を宙にゆらゆらと泳がせて俺をはらはらさせたあと、下を目指して下りはじめた。 「え〜〜それはないだろう!どうするんだ?」 土の上に降りた緑っ子は鉢の縁に上がると今度はぐるぐると終わりのない周回を始めた。 「おい、そんなことやってどこで蛹になるつもりだ?枝とか壁にくっついてくれるんだろうな?」 あきれて見ていると、時々止まって鉢の縁から身体を伸ばして下の様子を見ていた緑っ子がぽとっと玄関の床に落ちた! 「うわっ!やめてくれっ!」 あんな柔らかい身体でそうとうダメージがきつかったんじゃないのか? 心臓に悪すぎるっ! ドキドキしながら平気な顔で歩いている緑っ子をもう一度柚子の枝に乗せ善後策を模索する。 できることならカミュの意見を聞きたいが、どこの世界に任務遂行中の黄金にアゲハの飼育方法についてテレパシーで尋ねる脳天気なやつがいるというのだ? シベリアでオーロラの観察をしているのとはわけが違う。任務の内容は知らないが、いまこの瞬間にカミュがぎりぎりの生死の境で闘っていないという保証はない。そんなときにアゲハなんて言おうものなら張り倒される。これは俺一人で解決しなければならないことだった。 箱にも入れられない。鉢植えも見向きもしない。万策尽きて、もう庭に放しに行こうという考えも頭をよぎる。しかしカミュが喜ぶだろうことを思うとそれもできかねた。 再び鉢の縁を回り始めた緑っ子を見ていると俺の頭の中にまったく新しい考えが浮かんできた。 思い切って部屋の中を好きに歩かせたら? あとはさなぎになるだけだから部屋もよごさない 場所が決まったらぶつかったりしないように気をつければいいだけの話だ こんなにはらはらして見ているだけよりずっとましな気がしてきて俺の考えはどんどんそっちに傾いてきた。カミュがいないのだから自分で決めるしかないし、相談即決はさそり座の信条だ。 そうすると部屋の選定だ。大きさとしては茶室がいいのだが、いかんせん、材質が良すぎて気が引ける。壁は京都の本聚楽 (ほんじゅらく)、天井はヒノキの網代を組んであり、畳は手織り手縫いの最高級品だ。もしかして緑っ子がその気になって、百万円は下らないという貴重な黒柿の床柱を登り始めたらどうすればいい? 結局 八畳間を歩かせることにした。奥の十畳間はカミュとの聖域で、緑っ子といえども立ちるのは遠慮してもらいたい。 しかし、それからが大変だった。 歩かせるのはいい。座布団や座卓など動かせるものはすべて十畳間に移動して好きにさせればいいのだから簡単だ。しかし歩き終わらない。 そもそも庭で発見してからもう四時間たっているのにまだ歩いてる。さなぎになる前はどんどん歩くとは聞いているが、検索しても具体的に何時間歩くものなのか詳しく書いてあるサイトはなかったし、仮に書いてあったとしてもケースバイケースに違いない。 じっと眼で後を追っているとだんだん眠くなってきた。座っているといつの間にか目を閉じているので立っていることにした。放っておけばどこかに勝手にくっついてさなぎになるとは思うのだが、もしかしてどこに行ったかわからなくなったら……という懸念があって目を離せない。 がんばれ、ミロ! 厳しい任務中のカミュの苦労に比べればなんてことはない 睡魔に負けるんじゃない! 小宇宙を燃やすのはこんな時かな、と思いながら必死に眠さをこらえてついに緑っ子が障子の桟の高い位置に場所を定めたのは夜中の3時を過ぎていた。 「あ〜〜、疲れたぜ。ここまで歩くとはな。もう動かないだろうな。俺は寝させてもらう。」 小さい明かりでぼんやりと照らすだけにして俺は十畳間に入るとふとんにばったりと倒れこんだ。 翌朝8時に目が覚めた。九時半までに食べ終わらないと厨房に迷惑になるので、急いで身支度をして食事処に向かう。だが、出がけに緑っ子の様子を見ると、なんだかおかしい。 あれ?え〜と……逆さまになってる!! 寝る前は普通に上を向いて止まってたのに、なぜか下向きになっているのはどういうわけだ?このままさなぎになったら羽化の時どうするんだっ?もしもそうだったら障子ごとはずして逆さまにするのか?そこまでやる? あとでカミュに聞くと、アクシデントでさなぎが下に落ちてしまったら、腹部の側に水溶性木工ボンドなどを二か所ほどつけて割り箸や木の枝につけるという方法があるのだそうだが、このときの俺はもうパニックになりそうだった。 本能でちゃんとなってくれると思ってたのに、こんなことってあるのか? 何回も落っこちたからリズムが狂ったのか? それって俺の責任か? 不安の塊のままなんとか食事を終えて早足で離れに戻って障子を見上げると、 「万歳!」 俺は本気で叫んでひざまずきたくなった。さっきまで逆さまだった緑っ子はちゃんと上を向いて止まってた。 神に感謝である。この場合もアテナでいいのだろうか?ともかく俺は快哉を叫んだ。ほっとして安心して、どっと疲れが出てきた。 次の日に緑っ子は形が変わっていた。前蛹 (ぜんよう) といって勾玉を少し引き延ばしたようなコンパクトな形だ。色や模様は変わらないが形が変わる。 その次の朝、俺が見たときにはすでに脱皮してサナギになっていた。下に脱ぎ捨てた皮がまるまって転がっている。一時間もたつと背のほうにぐっと反って完成型になったようだ。この一連の変化は何度見てもほんとうに不思議で仕方がない。カミュは当然だというかもしれないが、ほとんど魔法に近いと思う。 クロアゲハのさなぎはナミアゲハに比べて大型でがっしりしてる。蝶自体の大きさを考えれば当たり前だが、それでもあの大きかった緑っ子よりはすいぶん小さい。俺はカミュが戻ってくるまで繰り返し繰り返しさなぎを見上げて悦に入っていた。 「いま戻った。」 カミュが戻ってきたのは夜中を過ぎていた。疲れているだろうに宝瓶宮で寝ないでここまで戻ってきてくれたことが嬉しい。 「お帰り。御苦労さま。風呂に入るか?」 「うむ、先に汗を流したい。」 任務を終えて聖域に戻った時点で連絡をもらっていたので内風呂の用意はできている。湯の音を聞きながら茶の用意をする。茶菓子はマルセイバターサンドがいいだろう。夜遅いが、ろくな物を食べていなかっただろうカミュは喜ぶはずだ。 「やはり湯はいい。ほっとする。」 洗い髪をタオルで包み、糊の利いた浴衣を着たカミュがしみじみと言う。危険というよりは忍耐力の要る任務だったらしくて緊張が続いて疲れたようだ。 「ゆっくり休んでくれ。でもその前に見せたいものがある。」 俺は障子の上を指差した。 「え?いったい何が?」 いぶかしげにそっちを見上げたカミュが目をぱちくりさせた。 「あれは……もしかしてさなぎか?どうしてあそこに?」 立って行ったカミュがすぐ近くに顔を寄せてしげしげと見る。 「驚いたな!クロアゲハのさなぎだ!なぜここに?」 「うん、話せば長いんだけどさ。」 そうして俺が孤軍奮闘して緑っ子を見守った話をするとカミュは 「ほう!」 とか 「それは…!」 とか言いながら聞いていた。 「で、俺はこのアゲハを苦労アゲハと命名した。」 「クロウアゲハ?クロアゲハではなくて?」 「うん、えらく苦労したから苦労アゲハだ。そうとしか思えない。」 カミュが笑う。 「ミロ、それはおもしろすぎる。愉快なネーミングだな。」 「ほんとに大変だったんだからな。あんなに長い間歩くとは思わなかったぜ。あとどのくらいで羽化する?一週間くらいか?」 「そうかもしれないが冬越しするかもしれぬ。」 「えっ!そうなのか?」 「夏も盛りを過ぎた。はっきりとは言えないが今の時期なら越冬することもおおいに考えられる。」 「するとずっとこのままか?」 「いや、暖房を入れると春と勘違いして真冬に羽化してしまうだろう。冬越しするようなら、その前にあそこから外して涼しいことろに置いておけばよい。」 これには驚いた。俺はてっきりもうじき蝶になるものと思っていたのだ。 「え〜と、その作業、俺にはとてもできそうにないからやってくれるか?」 「もちろん!」 カミュが嬉しそうにして頷いた。カミュがいるので大船に乗ったも同然だ。 「立派な蝶になるんだぞ。俺とカミュで世話してやるからな。」 さなぎに話しかけても返事が返ってくるはずはない。 「今、変態中で忙しいってさ。」 「いや、返事ならしてくれる。」 「え?」 カミュがさなぎの腹部をそっと指で触ると驚いたことにさなぎはぴくぴくっと体を動かした。 「わっ!動くのか!」 「生きているから当然だ。」 「う〜ん、当然かもしれないが俺はやっぱり不思議だな。もう一つの不思議も試していい?」 「あっ…」 カミュを捕まえて抱いてみる。 「お前も押したら動くのかな?」 「ミロ…」 「三日もクロアゲハと過ごしてた。今夜からはお前と過ごしたい。」 「ん……」 八畳間をクロアゲハに譲った俺たちは奥の間に引き上げることにした。 「お前が宝瓶宮で冬越しなんかしなくて良かったよ。」 「それは……もしそうだとしたらどうする?」 「う〜〜ん、むりやり暖めて起こすことにする。ほら、こうやって。」 「あっ、ミロ!」 「ねっ、起きるだろ。」 「起きる!起きるから!だからもう…」 あとは言葉も聞こえない。親密な夜が更けていった。 クロアゲハ → こちら (幼虫の写真はありません) クロアゲハの幼虫は立派です、はじめて見た時は感嘆しました。 実は北海道には住んでいません、寒すぎるんですね。 なお、ユズも露地栽培は無理です、室内で鉢植えなら可能かと。 話ですからご容赦くださいませ。 |
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