M M D

「おい、MMDってなんだか知ってるか?」
「MMD? いや、知らぬ。」
「お前も知らないか。何のことだろうな?」
パソコンを見て首をかしげているミロのそばにカミュが寄ってきた。
「…え?これは?」
ミロが見ているパソコンの画面はおなじみのYOUTUBEで、それはいいのだが動画はどう見てもアニメ風のサガのように思われる。
「…サガか?」
「お前もそう思うだろ。やっぱりサガだよな。」



「サガなのはわかった。で、この動画は何だろう?」
「見てみようぜ。」
ミロが動画の中心にある三角マークをクリックした。
「…あれ?」
雨の降る闇の中を誰かが歩いていて背景には墓標が並んでいる。
「誰だ?」
ピアノの前奏に続いて男性ボーカルのデュエットで切ない系のテンポのよい曲が流れ始めて、すぐに礼拝堂のような場所でカノンと教皇服姿のサガが………
「踊っているな。」
「うん、どう見ても踊ってる。なぜだ?どう思う?」
「どう思うって……」

   これをどう思えばいいというのだ?
   現実のサガとカノンではない それは明らかだ
   すると、これが噂の二次創作というものだろうか?
   しかし、なぜ踊っている?

「なっ、わからないだろ。」
「うむ、わからぬ。しかし、表現の自由があるのだからかまうまい。サガもべつに怒りはしないと思うが。」
「怒らないだろ。それにしてもさすがに双子だ。見事にシンクロしてる。」
しなやかな動きがきれいでつい見入ってしまう。そのまま見続けているとやがてエンディングが近づいたころ、墓標の前のカノンが一瞬映ったかと思うとすぐに二人のシーンとなり、踊っていたサガが暗転しすぐに消え去って羽の舞い散る中に立っているのはカノン一人なのだった。
「うわぁ…意味深っ!」
「ほう!ペーソスというか余情があるというか……」
「これ、なかなかいいな。でも、途中でスニオンの岩牢っぽいシーンもあったし、これってサガには見せないほうがいいかも。PTSDが発動するぜ。」
動画が終わると幾つもの関連動画が並んでいる。
「ふうん、なんだかいっぱいあるんだな。ええと、これは?」



「あれ?これってお前じゃないのか? 『 よっしゃあ漢唄 』 ってなんだ?」
「え?……よっしゃあ、って?」
関連動画のなかでも目だっている臙脂色の髪の黄金聖闘士はいかにもカミュだと思われるビジュアルだ。
「なぜ、私がっ?」
「ふうん、サガとカノンだけじゃないってことだな。すると、このお前も歌に合わせて踊るのか?」
「まさかそんな!」
サガとカノンのことなら踊ろうが歌おうが所詮は他人のことだ。ジョギングでも料理でも何をしてくれてもいい。しかし、自分となると話は違う。
「踊りって、私が踊るのか??」
「百聞は一見にしかずだな。」
ミロが迷わずクリックした。
「これは氷河だ!」
カミュの言う通り、そこにいるのは満月を背景にした氷河だった。
「あれ?お前じゃないのか?」
「ここはどこだろう?野外のようだが。」
なぜ氷河がいるのだろうかというカミュの疑問が解けないうちに無音のままで氷河が動き始めた。
「これはっ!」
「どう見てもダイヤモンド・ダストを撃つときの構えだな。ある意味、踊りかもしれん。ふうん、これならじっくり見られるな。」
さっきのと違って、歌はないのか?と思ったとたん場面が変わり、曲が始まった。尺八と太鼓という和風バージョンだ。
「ほら、やっぱりお前だ。」
寺社建築の舞殿と思しき内陣にカミュが立っている。床は鮮やかな紫だ
「ちょっと派手だな。」
「でもなぜどうしてっ?」
「二次創作だからだろ。」
悟ったミロが面白そうに画面を注視する。 さきほどのサガとカノンの動画とは違って、いかにも元気な曲が流れはじめた。
♪そ〜れそれそれ♪
「え?」
♪おりゃおりゃおりゃおりゃよっしゃあ♪
「は?」
♪漢(おとこ) 漢 漢が燃える〜〜♪
「漢って……」
「うん、たしかにお前は男だからな。普段はあんまり言ってもらえないから満足だろ。」
画面のカミュはクールそのものの表情で、それはそれは器用に踊りを披露していて、カミュも他人ならそれなりに評価しただろう。 時々は屋根の上の氷河が映り、こちらも見事な踊りを見せている。
「つまり、シベリア師弟ってわけだ。離れた場所設定でもぴたっと呼吸が合っているのはさすがだな。ちょっと妬けるね。」
「そんなことは私は…」
画面の中のカミュは疲れも見せずに激しいアクションを淡々とこなし、どこの水瓶座かと不思議に思う。
「お前の運動神経ならこのくらいできて当たり前だろう。むろん俺も対応可能だが。」
♪漢 漢 漢が惚れる 命短し恋せよ漢 うぉおお〜♪
「う〜ん、すごく納得感のある歌詞だな。じいんと来るな。もう復活したから大丈夫だけど。」
ミロとしては素直に、命短し 恋せよ乙女、と言いたいが、わざわざ火中の栗を拾うことはあるまい。
注意深く聴いてみると、どうやら男が命がけで戦う情景を歌っているらしく、それも戦国武者の話のようだ。聖闘士と共通するものがあるので、最初は唖然としていたカミュもそれなりに頷けないことはない。
「あれっ?なんかさっきと違ってないか?……ああ、これはアニメカラーのお前だ!」
さっきまでの臙脂の髪色ではなくて、こんどのカミュは青緑の髪でアンダーウェアも色が違う。
「ふうん、俺的にはこっちのほうがしっくりくるな。お前はどう?」
「どうもなにも…あっ!」
画面のカミュが二人になった。シンクロして踊っていたのがさらに加わったのは氷河だ。
「おいおい、ついにシベリア師弟の邂逅だぜ。アイザックは来ないのか?お前、残念じゃない?」
「そういう問題ではないと思うが。」
曲はクライマックスを迎えて一段と盛り上がってきた。動きにも変化が出てきてミロが身を乗り出した。
「お前がときどき目を閉じるだろ!あれがいい!すごく萌える!」
「そうか?」
「そうだよ、自分で気付かないわけ?」
「気付くわけがなかろう?」
そして二人のカミュと氷河がポーズを決めて曲が終わった。
「最後のあたりがかっこいいと思うんだが。やっぱりお前は何をやっても映えるな!うん、カメラ映りもいいし、花がある。黄金でも最高だろ!」
「う〜〜〜〜ん……」
腕組みをして唸っていたカミュがはっと顔を上げた。
「そんなことより、私はこの動画の作成システムが気にかかる。MMDとはなんの略だろう?席を替わってくれ。」
さっそく検索を始めたカミュが首をかしげた。
「MMDとは、Miku Miku Dance のことだそうだ 。Miku Miku Dance とはなんだろう?」
「俺に聞くなよ。ダンスだけはわかるが。もうちょっとわかる説明はないのか?」
「ええと、3D C Gムービー製作ツールだそうだ。開発当初は初音ミクのためだけのツールだったがその後多くのユーザーの手により改良が加えられて、あらゆるキャラクターに対応できるようになったとある。」
「少し前進したな。で、その初音ミクってなんだ?」
「ええと…」
さらにカミュが検索を進め、その後幾つもの動画を開いて二人はやっと初音ミクを理解した。
「ふうん、世の中には俺たちの知らないことが山ほどあるんだな。」
「すると、私にもお前の踊っている動画を作れるという理屈になる。」
「えっ!」
「私と氷河が踊っているだけでは片手落ちだ。」
「そりゃ、そうだ。じゃあ、俺とお前が甘いラブソングでしっとりと踊るやつを頼む!」
「いや、私とお前がシンクロして踊る動画を作る気はない。コサックダンスを踊るお前の動画を作りたい。」
「え〜〜っ、そんなんじゃアクセスが…」
「不服か?それならお前も作ってみるとよい。習熟すれば好きな曲、好きな背景、衣装もポーズも思いのままだ。」
「それってすっごく魅力的な誘いだけど、俺にそんな能力があると思うか?」
「やってみなければわからぬ。最初からあきらめるのでは漢ではあるまい?」
「しかしなぁ……う〜〜ん、できるかなぁ?やってみようかな?」
Miku Miku Dance、恐るべし。

これがMMDの概略だ。理解の助けになると思う。わからないことはなんでも聞いてくれ。きっとミロにも作れる。」
どれどれと読んでいたミロがぽつりと一言。
「夢だな……」
ミロのコサックダンスが見られる日も近いだろう。





         
リンクしている spiral 様の作った動画に啓発されて書いた話です。
         MMDって不思議!

         よっしゃあ漢唄 (歌詞) → こちら
 
         なるほど、「花の慶次」 の歌なんですね、納得です。
         歌っているのは格闘家の角田信朗さん。    動画は こちら
         この方、どうしてこんなに上手いの??
         水木一郎、影山ヒロノブ、角田信朗、三人並べても遜色ないのでは?