「まだだ…………だめだよ、カミュ………逃がさない…」
「ああ……でも ミロ……………」
腕の中のカミュが荒い呼吸をしているのを見定めてから、ミロの動きにいっそうの熱が加わった。
「あっ……」
小さく叫んだカミュがのがれようにも、とらえられた身体はもう自由にはならないのだ。
「いいから……もう少し俺のいうことを聞いて……ほら……」
顔をそむけたカミュは、もう返事をすることもできぬ。
ミロのこの口振りでは、嵐が過ぎ去るまでひたすら耐え忍ぶしかできぬのだ。
すがりつく手はすでに汗ばみ、乱れた髪が白い肌にまとわりついて見下ろすミロの心もかき乱されてゆく。
「こんなに……こんなに愛している………俺のカミュ……もっと…もっと俺を虜にして………」
悩ましげに洩らされる熱い吐息がミロの胸を焦がし、震える肌が秘めた想いを飲み込んでいった。
嵐の過ぎた海にたゆたうカミュは美しい。
思い乱れていた髪も、今はミロの手でやさしく梳かれて枕元に素直に流れている。
時折り思い出したように震える身体をやわらかく抱きながら、ミロはそっと唇を重ねるのだ。
「どう……?」
「………どう…とは?」
甘い口付けにようやく気付いたカミュの蒼い瞳にやさしく微笑んでやる。
「よかったかな……って思って…」
小さく息を飲み、ミロの胸に顔を伏せるカミュの滑らかな背をなぜてやると、身を揉みこむようにしてすがりついてきた。
「ふふふ………大好きだよ、カミュ…」
ミロの背に回された指にすこし力が加わった。
「ねえ、カミュ……どう思う? 大奥のこと。」
「なんのことだ?」
「ほら、あの………寝ずの番のこと。」
金髪に手を差し入れ、さらさらともてあそんでいた指が動きを止めた。
「いやだ…………私は、あんなことはいやだ…」
「俺もいやだ……お前を愛するときに、そばに人がいて聞き耳を立てているなんて……」
カミュが身を縮めた。 まるで、誰かがそばにいるかのように。
「俺がお前に口付けるとき……」
花の唇の蜜を吸うとカミュが震えた。
「このしなやかな肌に身体を重ねるとき……」
やわらかく組み敷かれたカミュがおののいた。
「いとしいお前を俺のものにするとき……」
深い吐息がミロの耳をくすぐった。
「そんなときに誰かに聞かれていたら……そして、そのことを知っていながら愛さなくてはならなかったら……」
「ミロ……ミロ……!」
我を忘れてしがみついてくるカミュをミロは精一杯抱きしめた。
「いや! そんなことは絶対に……! 私は……」
「俺もそんなのは願い下げだ、お前を愛するときは二人だけの世界で愛したい。」
「ミロ……」
「誰にも聞かせないし、誰にも見せない。 ここにこうしているカミュは、黄金でもアクエリアスでもない。
俺だけのカミュだ。」
やさしい口付けが髪に額に頬に降りそそぎ、それはやがてカミュの心を身体を淡雪のようにとかしてゆくのだ。
「ミロ……私のミロ………私を…お前だけのものにして………」
「もうそうなっているよ……カミュ…」
「早く……だれにも見られぬうちに………」
「ここには誰もいない………俺とお前の二人だけだ…………安心して……俺のカミュ…」
「もっと愛して……もっと抱いて……ああ ミロ……もっと もっと…」
人目を怖れ、声を忍ばせて訴えるカミュをミロは抱きしめずにはいられない。
「お前の望み通りにしてやるよ、いとしいカミュ……俺だけのカミュ……」
もう一度たくましい腕に抱きこまれたカミュが、深い安堵の溜め息をつく。
二人だけの夜が濃さを増していった。