サ 変

「サ変ってなに?」
「サ行変格活用の略だ。 日本語の動詞の 『 する 』 の活用は他の一般動詞とは異なる特殊なものなので、サ行変格活用と呼ばれる。 し、し、する、する、すれ、せよ、だ。」
「……え?」
「日本語の口語の動詞の活用は、未然形、連用形、終止形、連体形、仮定形、命令形の六つだ。 わかりやすい例を挙げよう。 訓練をする、という文の目的語は 『 訓練 』 、動詞は 『 する 』 だ。 これを活用してみると、 『 訓練をしない、訓練をして、訓練をする、訓練をする、訓練をすれば、訓練をせよ 』 となるので、し、し、する、する、すれ、せよ、となる。」
「ええと………訓練をするっていうのについては確かにその通りだと思うが、普通は訓練するって言うぜ。 この場合の目的語とかはどうなっているんだ? 訓練は目的語じゃないから、訓練するっていう動詞ができてるのか? でも、そんな動詞は山のようにあるから、いちいち書いていったら辞書が限りなく分厚くなるんじゃないのか?」
「良いところに気が付いたな。しかし、心配することはない。 日本語は、名詞+する、で驚異的な造語力を誇っている。 感謝する、変更する、などの動作を表す名詞に 『 する 』 を付け加えると動詞になり、これらはサ変動詞という一大カテゴリーを形成している。この場合の、訓練、感謝、変更などの名詞はサ変名詞と呼ばれる。」
「ふうん……! 名詞+する、なら確かにたくさんあるな♪ 訪問する、入室する、抱擁する、消灯する、添い寝する、同衾する、興奮する。 このあとは言わないぜ、俺にも節度ってものがあるからな。」
「………お前の節度を評価させてもらおう。」
「その、評価させて、というのも、評価する、の活用だな。 サ変動詞だ。」
「どうやら、サ変についての理解はできたようだな。 」
「ああ、理解した♪」


「ねぇ、俺のことが好き?」
「え……いきなりなにを?」
「だからさ、俺のことが好き?答えて。」
起きぬけにそんなことを言われて、はい、そうです、と答えるとでも思っているのだろうか、この男は。
「なにを朝から…!」
「だから再確認♪俺のことが好き?」
こうなると先は見えている。答えなければ、わからないなら俺が教えてやるよ…、と言いながら私を抱きにかかって思い通りのことを言わされてしまうのが常なのだ。
あきらめたほうがよい、そう考えた私は即答の道を選んだ。 といって結果がどうなるか保証の限りではないのだが。
「では答えよう。好きだ。」
機械的に回答しすぎたのか、ミロの眉がぴくりと上がった。
「じゃあ、単刀直入に訊こう。俺と…したい?」
「なっ……なにっっ?!」
「あれ?聞こえなかったかな?それじゃ、もう一度♪」
あっという間もなく引き寄せられて耳元で同じ言葉を熱い吐息とともにささやかれた。
「ねぇ、カミュ………俺と……したい?」
かっと身体がほてる。 動悸が高まるのがわかり、頬の熱さは耐え切れぬほどで、抑えようとすればするほど恥ずかしいほどに赤面してしまうのだ。
たまらずに顔をそむけて必死に自分を抑えていると、
「あれ?どうしたのかな? 俺がお前となにをしたいか、わかったのかな?」
ミロの含み笑いが聞こえてきてますますあらぬ情景が脳裏に浮かんでくる。
「あ……あの……私は…」
最初から否定すればよかったものを、ついミロの誘導に乗せられた自分が口惜しい。まるで待っていたかのように私の身体が疼き始めるとはなんとしたことだろう!悟られたくないと思って身体をさりげなく伏せたのだが、あろうことかミロの手が執拗に追ってくる。
「よ、よせっ…!」
「俺がお前としたかったのは朝飯の支度なんだけど、お前、いったいなにを考えたのかな……ん?」
「え……」
身体中の血が逆流し、なんと答えてよいのかわからない。
そして動揺した私はミロにいいように扱われてしまうのだ。

私は目的語を持たないサ行変格活用動詞は嫌いだ。

「ふ〜ん……ほんとは好きなくせに♪」
「ばかものっ!!」







            ああ、いかにもカミュ様らしい見聞録ができました。
              少しの間トップに置いた話に手を入れて見聞録に編纂です。
              ミロ様のサ変動詞の一連の流れ、見事ですね、この先をさらに羅列してみましょう。

              接吻する、愛玩する、愛撫する、交情する、玩弄する、翻弄する、惑溺する、溺愛する、疲労する、入眠する

              カタカナを使うのは好きではありません、たまに、キスする、というのを使ったりしますが。
               
「ねぇ、キスして♪」
               「え……いきなり何を?」
               「俺のことが好きなんだろ? それならキスしてくれる?」

              この会話に、口付ける、という動詞は似合いません、そんなときには、キスする、というサ変動詞がきます。

              ついでに言えば、外来語が次から次へと日本にやってきましたが、
              その大部分は名詞です、動詞、形容詞は輸入されません、日本語の中に馴染めないんですね。
              キスもデートもダンスも名詞として使われていて、動詞として使う人はいないでしょう。
              英語を習って初めて、それらの英語が名詞と動詞を兼ねることを知って驚くのが普通です。

              いや、ビューティフルとかラッキーとかクールとか言いますが?

              「彼 (笑) はビューティフルだ」  ← 言ってる本人は 「カミュは美人だ」 という意味で使ってます。
              「ラッキー! あそこにカミュがいる!」 ← 感動詞。 活用されません、ああ、とか、よかった!みたいな意味。
              
「クールになれ、氷河!」 ← 冷静、という意味ですからやはり名詞として使用してます。
                                 人の振り見て、我が振り直せ、の好例。
                                 ああ、やっぱりカミュ様、好きだわ♪

              
「頼むから、ことの最中に クールになれ、ミロ! なんていってくれるなよ、興醒めだからな。」
              「そんな……そんなこと…」
              「こういうのは我を忘れて燃えてるからいいんだよ。 それとも俺にクールに抱いて欲しい?」
              「ミ……ロ…」
              「わかったみたいだな、じゃぁ、もう1クールね♪」
              「………」

              ミロ様、それは意味が違います………