竹の子 |
「前から思ってたんだが、この竹の子ってのはいったいなんだ? いかにも 『 断面図 』 みたいな気がするぜ。」 「それは名前のとおり、竹という植物の若い芽だ。 日本では春の到来を感じさせる風物詩となっている。」 「ふうん、すると、タラの芽とかふきのとうとかわらびなんかと同じようなものか。 日本人はそういうのが好きらしいが、俺には味の区別がさっぱりつかん。 ただし、この竹の子のデザインは面白いと思うぜ。」 炊き合せの小鉢から二つ割にした竹の子の先端部分を器用に箸でつまみあげたミロは、ずいぶんと感心したようだ。 「うむ、実に秩序だった美しさだ。 それの成長したものがこの竹籠に利用されている。」 「え?」 カミュが指し示した天麩羅の器は、湾曲した細い木を組み合わせたものでできており、さすがは手先の器用な日本人のやりそうなことだと思ってはいるのだ。 「意味が分からんな。 それと竹の子とどういう関係がある?」 「竹は地下茎から芽を出すと非常に早く成長し、その間に表面を覆っている何十枚もの皮が自然に剥がれ落ちる。 種類にもよるが、生長のピーク時には一日に120CMほど伸びるそうだ。」 「なにっっっ??!!そいつは不自然じゃないのか?」 「いや、それが自然だ。 この先端部分の断面を見れば分かるように、竹の子には各室に分かれた節というものが多数あり、それぞれにある生長帯で一斉に生長が行なわれるのでトータルすると驚異的な伸長量となる。むろん、大きくなった竹は木質化し、非常に固い。 私たちが食べている竹の子はまだ地上に姿を現わさぬ若いものであり、このように柔らかい。」 カミュは上品に穂先の部分をつまみあげると、木の芽ののっているそれを口に運んだ。 「ふうん、すると、木みたいに固くなった竹をこんな細い形に加工してあれこれ作ってるのか。 俺たちは木を食べてるってわけだな!」 「厳密に言うと、竹はイネ科なので、木ではないのだが。」 「気にするなよ、そんなこと。」 「ほかにも竹は日本人の生活に広く利用されている。 私たちが乗馬の訓練に持っていった昼食を包んでいた包装材も竹の皮だ。」 「………え? あのひらひらした長い枯れた葉っぱみたいなやつのことか?!」 「うむ、竹の子はあの皮に幾重にも包まれて柔らかい部分を保護していると思われる。 茹でたあとで皮を剥くと淡いクリーム色の可食部分が現れるのだ。」 「ふうん………」 五月とはいえ、北海道の寒気はまだ去らぬ。 露天風呂から戻って来たミロは、フトンのぬくもりの中でカミュを引き寄せた。 「カミュ………ふふふ……お前ってほんとに春の味だな♪」 「…え? 私がどうして?」 「だってさ………」 糊の効いた浴衣も確かに悪くはないが……… 「あ……ミロ…!」 「こうやって表面を覆っている無粋な皮を剥ぐと……」 ミロの手がやさしく、しかし的確に動いてゆく。 「ほら………真っ白くて柔らかい中身が出てくるだろ♪」 「ああ……ミロ…」 「でも竹の子と違うのは………毎晩味わっても、いつでも食べ頃ってこと♪」 笑みを含んだミロが匂いやかな肌に口付けて行き、いつくしむ手は白い身体に熱を帯びさせてゆくのだ。 「カミュ………俺の春の味…………もっと俺を楽しませてくれる?」 しかし、耳元でささやかれる甘い言葉に返事のあろうはずもない。 恥じらいを含んだかすかな気配だけが闇を震わせた。 竹の子、大好きです。 デザイン的に可愛いし、柔らかいところも固いところもそれぞれに美味しいですから。 しかし、ミロ様のお好みはどうやら 「 柔らかい 」 ところのようで (笑)。 「いや、そんなことはない! 俺は昼間の固いカミュも大好きだぜ。 特にその固いところが、夜になって俺の手で限りなく柔らかくなっていくところが 醍醐味といえるだろう♪この落差がいいんだよ。 これは俺にだけ許された特権だな♪」 「ミロ、そんな大きな声で言ってくれるな!」 「大丈夫だよ、サガはこんなところまでは読んでないから。」 「あ、当たり前だっっ!!!」 「聖域では招涼伝しか読めないんだよ (と思う)。」 「それならいいのだが……いや、よくないっっっ!お前は発言が大胆すぎるっ!」 「あれ? 大胆なのは発言だけじゃないんだぜ♪ お前、知らないの?」 「あ………ミロ……」 「ふふふ♪」 |
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