「 シオンの贈り物 」
あさぎ & インファ 共作
村を訪れたシオンに子供たちがまとわりついて口々に訊く。
「教皇様っ、その胸に飾ってあるのはなんですか?」
「これは、大地の豊穣と輝かしい生命への賛歌を形作っているのだ」
やさしく微笑んだシオンが子供たちの頭を撫でて祝福を授ける。機嫌良く村から帰る道々、シオンは面白いことを思いついた。
「よいか、これらの品は歴史的にも由緒のあるものであるのは確かだが、それよりも更に素晴らしい事は我等の偉大な先達である黄金聖闘士達の小宇宙をそれら品々から感じとる事が出
来るからである。黄金聖闘士のためには純金、白銀聖闘士のためには純銀、青銅聖闘士のためには青銅の素材が使われておる。」
チビミロ 「は〜い!それで教皇様、ティンティナブラムって何ですか?」
チビリア 「教皇様!俺たちも身に付けるんですか?」
「よしよし、大人になったら教皇のわしが直々に授けてやろう。各々二十歳の誕生日を楽しみにしているがよい。」
にっこり笑ったシオンは目をキラキラと輝かせている幼い黄金の頭を撫でた。
さて時は移り、ここは現在の聖域だ。
教皇庁からの使いが恭しくミロに届けて来たのは教皇シオンからのプレゼントだ。 ハイセンスなラッピングの箱に添えられた金箔押しの美しいデザインのカードには、当代スコーピオンの黄金聖闘士の誕生日を寿ぐ言葉が綴られている。 いやがおうにも高まる期待!
「ほう!教皇からの誕生日プレゼントとは!」
覗き込んだカミュが嘆声をあげた。
「一緒に開けようぜ」
ミロの手で美しいサテンのリボンがほどかれる。
カミュと眼を交わし微笑んだミロは、多少の気恥ずかしさを覚えながらも、
「やっぱり誕生日を祝って貰うのは良いものだ。」
と幼い頃を思い出しながら教皇シオンからのプレゼントの箱を開けるべく蓋を持ち上げた。すると途端に部屋を埋め尽くすほどの強い金色の光が立ち上る。
「えっ?」
「いったいこれは?」
溢れ出す光に驚くミロとカミュ。箱に籠められていたシオンのスペシャル小宇宙が消えると同時に、蓋に仕掛けられたオルゴールがエルガーの 『 愛の挨拶 』 を奏でだす。
「なんだ、これはっ!」
ミロが素っ頓狂な声を上げ、カミュは一緒固まったあと慌てて横を向いた。
「こ、これはいったいなんだっ?どうしてシオンはこんなものを?!」
唖然とするミロにカミュが渋々語る。
「……これはティンティナブラムといって、古代ローマで豊饒と繁栄の象徴として装飾やお守りなどに用いられたものだ。おそらく二十歳の成人を迎えたことを記念するためだろう。」
「い・ら ・ん・っ!余計なお世話だ!」
ミロが蓋をかぶせるとオルゴールがやんだ。
シオンの強烈なプレゼントのせいか、さっきまで流れていた恋人とのロマンティックな甘い空気は消えはてて、
二人の間に流れるのはどこか気まずくいたたまれないような恥ずかしさだ。
これはいけない!
「カミュ、教皇様は畏れ多くもこのスコーピオンのミロにオルゴールを下さった!この金銀をふんだんに使った細工の見事なこと!曲名もエルガーの 『 愛の挨拶 』 とは!さすがは教皇シオン様だな。」
ニッコリと満面に笑みを浮かべたミロは、誕生日のプレゼントとしては最強のティンティナブラムの存在をあっさりとなかったことにした。
そのなにげなく切り換える見事さは、さすが蠍座だ!
むろんカミュもこの着眼点に飛びついた。
「ああ、ほんとによい曲だ!さすがはシオン様であられる!」
ほっとしたように額の汗をぬぐったカミュは美しい青のペイズリー柄の包装紙を手にとって箱の内径に合わせて折り紙のようにきちんとたたみ、目をそらしながら例の物件が見えないようにぴっ たりと敷き込んだ。
「これでよし!」
頷いたミロが蓋を閉め、もう一度開けるとふたたび 『 愛の挨拶 』 が華やかに流れ出す。
「ほんとにいい曲で。」
「俺達にぴったりだな。」
カミュを引き寄せたミロが甘いキスをした。
三か月後のカミュの誕生日に同じことが繰り返されるのだが、それはまた別の話である。
ティンティナブラム → こちら
あんまり見ないほうがいいかも………背後に気をつけて