「 湯 上 り


勇気を奮い起こして大浴場に行けば、他の客と遭遇することもある。 それはしかたのないことなのだ。

「やっぱり、お前の身体を見られたのは悔しいな。」
「今さら、そんなことを言われても……」
「お前の滑らかな背も、この白い胸も…」
「あ………ミロ……」
「俺の指を待ち焦がれてるこの可愛い蕾も…」
「あ……私はなにもそんなことは………ミロ…………ミ……ロ…あ………」
「みんな、みんな俺のものなのに、ほかの男に見られたなんて………カミュ……」

初めはからかうだけのつもりだったミロだが、言葉でカミュを責めているうちにだんだん本気になってきた。
「お前はどうなんだ? ええ? 見られて恥ずかしかったのか?それともまさか、感じたりした? ここを見たことがあるのは俺だけだったのに。」
「あ………ん…」
長い指が両の蕾をやわらかくまさぐり始めると、しなやかな身体がそらされた。ゆるゆると振られる首が、ミロの問いを否定しているのか、それとも快感を覚えているためなのか、ミロには判然としない。
「ここをきれいな薔薇色に染めるのは俺だけで…」
「……あっ…」
きゅっとつまむと甘い喘ぎが洩れる。
「毎晩、こんなにお前を歓ばせているのに………」
やわらかくおさえてやってゆっくりと揉み始めるとカミュの身体に震えが走る。
「ミロ………もっと…」
「ここをこうされるのが、そんなに好きか? 俺にこうして欲しいのか?」
「好き………好きだから………………ああ……もっと……」
耳をくすぐる声を聞きながら可愛い蕾を唇に譲ったミロの指は、次の獲物を求めている。
「そしたら……ここは?」
「あっ………い、いやぁっ!」
「ふうん…ずいぶん感じるんだ。 もしかして、ここも見られたかもしれないぜ?」
「そんな………そんなはずは…」
「お前は見られてないつもりかもしれないが、好き者はどこにでもいる。 一瞬の視線でお前を陵辱することだってできるんだよ。 視姦ってやつだ、知ってるだろう?」
「まさか、そんな……」
蒼ざめたカミュが唇を噛んだ。
「好き者は心の中でお前を捻じ伏せてもてあそぶ。手足を押さえつけて、白い肌を蹂躙して、思うさま喘がせて………ほら、こんなふうに…」
「いやっ………いやぁぁっ………」
「そう……その声が男をそそるんだよ、たまらないね。もっと聞かせて。」
「ああ………あぁ、ミロ………ミロ……助けて………」
「いいね、刺激的だ!………それからここを…」
「ぁっ…」
「こんなふうにして………存分に可愛がって………好き者はお前を歓ばせる……そうじゃないのか? ん? どうなんだ?ほんとは、されたいんだろう?」
「いやぁっ………そんなこと…されたくない………ミロ……ミロでなければ……いやだから……ミロ……」
「ほんとに? だれにでもこんなことされたら………ほら……今みたいに泣いて歓ぶんじゃないのか?」
「ミロ………ああ……信じて………ミロにされたいのだから………ほかのだれにも許さないから………」
艶やかな髪の乱れも気付かぬままに喘ぐカミュはミロに翻弄されるままに熱い思いを口走る。 その言葉聞きたさにミロはさらに手で唇でいとしい身体を嬲ることをやめようとはしないのだ。
「俺以外の男に見られても平気でいられるのか? ここが…」
「あっ…」
「疼いたりはしないのか? さわられたくてうずうずしてるんじゃないのか?」
「いやぁぁっ!」
不意に触れられて腰を浮かせたカミュが甘い悲鳴を上げる。 
「嫌ならやめるぜ、好きかと思ったのは俺の勘違い?」
「違う………もっと………もっとさわって、ミロ………頼むから……もっと…」
「ふうん…やっぱり、ここにさわられるのが好きなんだ。俺以外のやつでも歓んだりして?」
「そんなっ! そんなことはない、ミロだけにさわって欲しいから………頼むから!」
「どんなふうに?」
「………え?」
「だから、どんなふうにさわって欲しいの? 俺みたいにやさしいのは珍しいぜ、たいていの男はもっと思い切ったことをする。 たとえばここに…」
ミロが指の位置を変えた。 ひそやかに秘めやかに羽毛が触れるような柔らかい接触。

   あ………

「ここにきついことをする。 聞きたいか?」
「いや…嫌だから………ミロ…」
「……まだ大人への階段を登れない? どう?」
「ミロ………」
きれいな瞳に滲む涙がミロをドキッとさせた。
「大人になるのが恐い?」
「ミロは………」
「え?」
「私に……そうしたいのか?」
「カミュ………」
「私は………ミロの望むようにしてやりたい………ミロに、満足し 歓んで欲しいと心から願っている………でも…」
抱かれているカミュがそっと息を吸い、やがて吐かれた震える吐息がミロの胸を揺する。
「恐い………とても恐い! そんなことができるわけがない………考えられないことだ……ミロ………私はどうすればいい?」
「ああ………カミュ……俺のカミュ…」

   俺は、そうしたくて………カミュもそれを願ってはいて………
   でもカミュはこんなに恐れていて………俺もカミュを守りたくて………
   どうすればいい?………どうすれば?

「愛してる………愛してるから、カミュ………」
それしか言えなかった。
幾度も幾度もささやきながら、あふれる涙を唇で吸い取りながらミロはカミュをかきいだく。
震える身体がたとえようもなくいとしかった。