「 鼎 談
                                    ※ 鼎談 ( ていだん )   3人が向かい合って話し合うこと


「ふうん………で、お前のとこ、今どうなってるんだ?」
デスがグラスを空けながら聞いてきた。
「俺でよかったら相談に乗るぜ、なんでも言ってくれていい。」
「私もよかったら知恵を貸そうじゃないか、もうずいぶん長い付き合いになる。 そのくらいのことはさせてほしいものだね。」
アフロディーテのほうはそんなには飲んでいない。 ミロがかかえている問題が気になるらしかった。

「カミュと………な状態だ、今現在。」
「はぁ? ホントかよ、お前ら! 信じられないぜ、あれだけつきあってて、どうして肝心のところがまだなんだっ??」
「私は、そんなことではないかと思っていた。」
「なにっ、どうしてわかるんだよ!」
「カミュに本格の色気が足りない。 いくところまでいっていれば、もっと匂うような色気が滲み出ているはずだ。」
「………え? そうなのか? よくそんなことがわかるな、あのカミュに匂うような色気が出るとどうなるんだ?想像できないぜ!」
「そんなことはいい。 で、実際のところはどこまでいっているのかな?」
「それは………キスと抱擁と…」
「そいつは当たり前だな、ごく初歩だ。 俺なら初日に全部やっている。」
「で………ベッドで寝た。」
「そんなことはわかってる。ベッドは寝るためにある。 そこで何をしたかを聞いてるんだよ、俺たちは。」
「………抱き合って………触れ合った。」
「だ・か・ら・、どんな風にどこを?」
「くそっ………服を脱いで胸に触って………にもさわってる!」
「うん、正直でいいね、で、もう少し詳しく。」
「唇は………唇で触れるのは、なんとかクリアーした。 ………つい、この間のことだ。」
「つい、この間ぁ〜? 遅すぎるっ! なにやってるんだ、お前らはっ! 付き合い始めてから何年たつんだ?」
「デス、落ち着いて。 で、カミュは君になにを?」
「あの………キスと抱擁と………」
「ふむ。」
「少しは俺の胸に触れる。 キスもときどきしてくれる。」
ミロが自分の胸を指差した。
「ときどきだってよ、ときどきっ!」
「デス、黙って! で、そのほかは?」
「………特にない。」
「ないっっ??!! ほんとに付き合ってるのか、お前らは!ミロ、男ならもっとシャキっと行け!お前がリードを取らなきゃ、だめだろうが!」
「リードは取ってる。 取ってるが、カミュが引っ込み思案すぎる。」
「そこをうまいこと誘導してだなぁ、文字通り手取り足取り、お前がいろいろと奥義を教えるんだよ! ええ、そうじゃないのか?それが常識だろうが!」
「お前は知らないから簡単そうに言うが、カミュには常識が通らない。」
「常識なんかかまってるからいけないんだ! 非常識でいいから、一気に行けっ! 」
「………………」
「普通は初日で行くところまで行くもんだぜ、少なくとも俺の理解するところでは。 で、そのあとは、よりスムーズな愛しかたを二人で研究していくもんだ。 どうしてそうならなかったんだ、ええ?」
「デス、そんなに責めるものではない。 カミュの反応はどうだったんだろうか、要するにそこがネックなんだろう?」
「ああ、そうだ。 カミュは………最初の晩、俺が唇で触れようとしたら泣いて嫌がった………」
「泣くなよ、男なんだからっ! どうして泣くんだっ、ミロの好きなようにさせればいいだろうが!!好きな男に抱かれて嬉しくないのか??」
「つまり予備知識がなかったってことかな? いきなりで驚いたと?」
「それもある。 それもあるが、カミュはこう言った。………ミロのそんな姿を見たくない、と……………ショックを受けて涙を流した。 慰める以外に俺になにができる?」
「え……」
「ふうむ………これはどうしたものか……」

   ナイーブ過ぎるっ、どう考えたってナイーブ過ぎる!
   ミロの奴、初めっからカミュのことを天使みたいに大事にしてたからな
   そのカミュにそう言われちゃ、手も足も出ないだろう

「でも、それは最近クリアーしたんだね。 一つハードルを越えたわけだ。」
「次のハードルもさっさと飛び越せばいいんだよ、飛んでみれば、なんだ、こんなことかって思うもんだ。」
「やっぱりカミュは嫌がってるのかな?」
「いや、俺の満足のいくようにしたいって言ってる。」
「それならなにを迷ってる! 今夜だ、今夜にでも決行しろ!及ばずながら応援するぜ!早く決めてもらわないと、こっちが気になって眠れない。」
「でもカミュは怖がってる。」
「なにを怖がるんだ?お前はやさしく接してるんだろう? 舐めるように可愛がってるのが眼に浮かぶぜ。」
「デス! 余計な想像はしないほうがいい。カミュに失礼だろう。 つまり怖いのはミロの態度ではなくて………」
「ああ、そうだ。 有り得ない、考えられない、といってそのことに恐怖をいだいてる。」
「恐怖って………う〜ん、怖いもんかな? どう思う?アフロ」
「こんなときだけ私に話を振らないでもらいたい。」
「で、二人に訊きたいのはそのことだ。 どうすれば恐怖を取り除ける?」

   ううむ、最初から一気にいってれば、こんな苦労はなかったものを!
   ミロの奴、やさしすぎたんじゃないのか?
   といって、急にワイルドになって強行突破するのも無理だろう

デスマスクが考えていると、アフロディーテが言った。
「カミュは、論理には従うんじゃないのかな?」
「……え?」
「つまり、ミロとの関係を完璧なものにする行為について、有るべきではないとか、生理的・物理的に不可能だ、とか思って苦しんでいるのでは? そこを論理的にカバーすれば納得すると思うけど。」
「それはそうだが………でもどんな論理で?」
「そうだね………たとえば具体例をあげて、このことがけっして珍しい例外的なことではないと実証して安心させる。 同性であるミロとの関係が普遍的なことだと思わせれば、自分が例外ではないことにほっとするだろう。」
「………具体例って?」
「引き合いに出して申し訳ないが、○○と◇◇とか、△△と□□とか。」
「ええっっ?!」
「な、なにぃ〜〜っ! おいっ、あいつら、できてるのかよっ、ホントか??!!どっちがどっちなんだっ?」
「え? まだ知らなかったのか? これは余計なことを言ったかな………まあいい。 ともかく自分の身近な知人がそのような関係でいることがわかれば少しは安心するだろう。」
「そりゃそうだ!それにしても、 あいつらは絶対に行くところまで行ってるぜ! どっちも待てるわけがないだろう! ふ〜ん、そうだったのか♪」
「……そんなもんかな?」
「自分が例外でないことがわかればカミュもかなり安心すると思う。 理屈はそれでいいとして………ミロ………実践のことだけど、できるだけ相手に負担をかけない方法については、なにか知ってる?」
「そのことなら………………」
「そうだね、それだったら………」
「ちょっと待てよ、俺の思うに………………」
「………え? ほんとに?」
「間違いない! 聞いた話では、そういう時は………………」
「………ほぅ!」
「もう一つ覚えておいたほうがいいことがある。 なんといっても最初は………………」
「なるほど、なるほど♪」
「お前、そんな話、いったい誰から聞いたんだよ!」
「企業秘密だ。」

こうして晴れ晴れとした顔でミロが帰ってゆき、デスとアフロはほっとして顔を見合わせた。
「やれやれ、ミロの奴も苦労するな。まあ、相手があのカミュじゃ、無理もないか。」
「お互いに好きあってるんだから、そのうちうまく行くだろうね。」
「それにしても、ムウとシャカ、カノンとサガができてるとは思わなかったぜ!」
「ああ、あれは嘘。」
「なにぃっ!!だって、さっきはあんなにはっきりと……!」
「ともかく手近な誰かの例を出さないとミロの悩みは終らないからね、悪いとは思ったが思いついた二人を適当にくっつけさせてもらった。」
「適当って………俺は知らんぞ!」
「大丈夫だよ。 カミュが人に言うはずはないし、ミロだって本人に確かめたりする筈はない。 自分たちのことを人に言われたくはないんだから、人にしゃべることもない。 なんの問題もないはずだ。」
「それはまあ………しかし思い切ったことをするな! 俺なんか、しばらくは頭の中にあらぬ映像が浮かんじまったぜ。」
「それは気の毒をした。 もっと飲む?」
「ああ、そうしよう。 ミロとカミュの首尾を祈って乾杯と行くか!」
「あらぬ映像を思い浮かべないように。」
「う〜ん、そいつは難しい。 だって、ムウ×シャカやカノン×サガと違って本物の関係だって知ってるんだからな♪ あらぬ映像じゃなくて、ある映像♪」
「デス!」
「わかったよ、考えないように努力する。」
「私も努力する。」
「なんだ、やっぱり?」
「古い馴染みの二人だからね、幸せになってほしい。」
「全くだ。」
注いだグラスに琥珀の液体が揺れる。
ミロの悩みとカミュの恐れが癒されることを祈って二人は乾杯をした。




            
こんなプライベートなことをミロ様が相談するかしら?
            でも、悩みに悩んで、お酒の力を借りて相談しちゃったかも。
            さて、今夜の首尾はいかに?