「 手を借りる 」


ミロに少しだけ飲まされて横たえられた。
ミロはかなり飲んだはずなのに、頬を赤らめただけでとくに酔っているようには見えないのはいつものことだ。
「カミュ………愛してるから…」
耳元でささやいたミロが私の上に覆いかぶさってきた。 重くないように上手に身体を支えて、私に口付けながら腰の辺りを徐々に接してゆくのだが、触れるような触れないような、その実に微妙なタッチが私をどきどきさせる。
「ミロ………早く……」
小さな声でせがむと、
「ん? もっとして欲しいの? ここをこんなふうに?」
「あっ…」
腰をぐっと下げたミロの動きが私に一瞬の愉悦を感じさせて、どうにも我慢できなくなる。 思わずこちらも応ずると、
「だめだよ、気が早すぎる………もっと待っててくれなきゃ♪」
笑いながら軽く身をかわしたミロが今度は身体をずらして唇を寄せてきた。
「あ………だめ……」
「もう俺たちも子供じゃない………だめって言っても許さない……」
ミロの肩を押しのけようとしても、とても動かすことはできないのだ。
ミロの唇が触れ始める。 ちろちろと揺れる欲望の焔が身を焼き始めた。
「ミ………ロ………」
もうミロは答えてくれない。 答えるだけの言葉を言うよりもほかのことにミロの唇は忙しく使役されている。 そして熱い舌も私を煽ってやまないのだ。
煽られて焦らされて耐え切れなくなってきたときだ、
「………ミロ?」
不意にミロの動きが止まり、そのまま力なく私の身体に体重を預けてきたではないか。
「ミロ………どうした?」
頭をもたげてみると、どうやら眠っているらしいのだ。 こんなことは初めてで、当惑してしまう。 そっと肩を揺すってみるが気持ち良さそうな寝息を立てていて起きる気配はない。 今になって酔いが回ったらしく、危険はないようでそれは安心なのだが、この状況はいったい………!

ミロは先ほどの私に施していた行為をそのままにして眠っているのだった。ミロの熱さが急に感じられ、いかに自分が恥ずかしいことをされていたかを思い知らされて身体がかっと熱くなる。 心の動揺はダイレクトに身体に伝達されて、私はますますミロの熱さを知らされる破目になったのだ。
「ミロ、どいてくれ………」
真っ赤になりながらミロの頭をそっと支えつつ自分の身体をやっと横にずらすと、その拍子に敏感になっていた箇所にさらなる刺激が加えられ思わず声を上げてしまう。
「ほんとにお前ときたら………」
あまりに恥ずかしい痴態に我ながら頬を染め、妙に低い位置に倒れているミロの身体を枕のところまでぐっと引き寄せた。
はねのけられていた毛布を引き寄せ、ミロと自分の身体を覆う。
さあ、それからだ、眠ろうとしてみるのだがどうにも眠れなくなってしまったのだ。

今までにもこんなことはあった。
酔ったミロがことの最中に眠り込んでしまい、そのたびに苦笑いした私はこうして毛布をかけなおして静かな眠りについて、翌朝の笑い話になるのだ。
ところが今夜は眠れない。 ミロの安らかな寝息を聞きながら私の目は冴えてしまい、あろう事か身体の疼きはいっこうに収まらぬのだ。
こんなはずはないと思ってみても、一度高揚した身体は言うことを聞いてはくれぬ。

   どうしよう………ミロ……こんな筈ではないのに………

焦れば焦るほど、気にすれば気にするほど感覚は鋭敏になる。 ミロに愛されたいのに、ほうっておかれた身体が悲鳴を上げる。

   ………どうすればいい?こんなときにはどうすれば………?

ついに私は決意した。 
ミロの手を借りよう、そうしなければこの身体はおさまろうとはしないのだ。
眠っているミロの手をそっと引き寄せた。 幸い角度にも無理がなく、自然に私に触れさせることができたのにほっとする。
ミロの手のひらの下で私の拍動が痛いほど感じられる。 ミロの手を通して響いていくのではないかと冷や冷やするが、そんなことは有り得ない。
ミロの温かさを直接感じていると落ち着くのだが、あいにくそれは心だけで身体の緊張は抜けてはくれぬ。 それに困ったことに私は気付いてしまったのだ。

   その手を動かして欲しい………刺激が欲しい………

最初は手の温かさに包まれているだけで満足していたのに、私の身体はそれが数分も続くことに慣れてはいない。
なにもかも心得たミロの手が私に触れて、ゆっくりと、そして、じらしつつ目くるめく思いを感じさせてくれるのに私は慣れすぎていた。
もう耐えられなかった。 どうせミロは気付きはしない。 こんなによく寝ているのだもの、私がそっと手を借りても目覚める筈はない。

そっと手を動かした。
ミロももちろん上手いのだが、自分のことゆえ緩急をつけて徐々に感じてゆくのはわけもないことを知り、私は軽い驚きを得るのだ。

   もっと………もっと……ミロ………もっと私にして………
   ああ………………とてもいい………よくてよくて………!

こんなことをしてはいけない、自分だけで感じるなどもってのほかだと思いつつ、もう私の手は止まらない。

   みんなミロがいけないのだ………私に火をつけておきながら自分だけ寝てしまうのだから……
   そうだ、これはみんなミロのせいだ………だから……ミロに………責任を取ってもらわなくては!

初めての快感が私を揺さぶり、ミロの知らないところでそのミロの手を借りて淫靡なことをしている自分に血が騒ぐ。

   これは私がしているのではない………ミロが……ミロの手がしているのだ
   私は………されているだけなのだ………………いけないことではない………ミロ………

ミロの顔を見ないようにして自らを高みに導いた私についに歓びが訪れる。
あまりの快感に羞恥を忘れた私はミロがひそかについた溜め息に気が付きようもなかった。

   ミロ………ミロ……愛している………こんなに、こんなにお前を………

いとしいその手を抱きしめながら私はようやく眠りについたのだった。