Leblanc Paris Cor Compensating double ascendant FA/SI b

ルブラン(コルトワ製) コル 3番上昇セミダブル・コル 

      ピストンに刻まれたLeblanc社エンブレム

この楽器はおそらく20〜30年前に製造された楽器で、ルシアン・テーヴェ氏(Lucien Thevet)と並ぶホルン奏者ジョルジュ・バルボドゥ氏(Georges Barboteu,)がコルとして使用されていたものと同型だと思われます。デッドストックになっていたものため、現在なお現役状態でとても美しい音色が出ます。(わたしの友人である「じい」さん所有。どうやらこの楽器はエセル・マーカー女史が注文したものらしい)

フランス伝統のスタイルでは、ローターではなくピストンを好み、3番上昇システムという3番バルブを押さえると長2°(1音分)短くなるシステムが採用されていました。つまりこの楽器の場合、バルブ開放でF/Bの楽器が3番バルブを押さえるとG/C管になるということです。このような上昇システムは故デニス・ブレイン氏やアイファー・ジェームズ氏、ペーター・ダム氏の使う親指上昇システム(4番バルブを押さえると長2°分管が短くなるシステム)のようなドイツ型フランス型折衷式ではなく、フランス独特の管長可変の設計によるものです。

大変美しい巻きで、写真ではわかりませんがセルメル(Selmer社)テヴェ・モデルと違いバルブに傾斜がつき、オープン・スタイルの構えがとれるようになっています。

イエローブラス、ラッカー仕上げ。ベルに美しい彫刻あり。

ゆったりとした大きな巻き。ベルはいわゆる中細ベルより太い目。ベルの肉厚も分厚く、ドイツ系の楽器のように音が割れにくく、セミダブル・システムとピストンということもあり軽いため、非常に遠鳴りのする楽器です。

窓際で秋風を味わう(?)バミちゃん
★非常にしっかりとした支柱。実際この楽器はベルだけでなく全体に分厚い目の肉厚で、なおこのようなしっかりとした支柱により固定され、これが変に音の割れない太い響きを作っているのだろう。
ナチュラルホルンのボーゲンを思わせるような自然な円形を持つマウスパイプ(水抜きつき)

また手前のチューニングスライダーはF管、奥にメイン・チューニングスライダーがある。

★ピストン部

ローターに慣れたホルン吹きにとってピストンは「軽すぎ・戻りの振動が嫌い」なものである。しかしピストンが他の金管楽器に採用されているのはメンテナンスが容易であることだけでなく、ローターでは難しいスムーズなスラーと速いパッセージを難なくこなすことができる点である。

またローターでは指の押さえの方に重点がおかれるのに対し、ピストンでは戻りを離さず(バネの強さによる)、軽快な指使いが要求されるのもホルン吹きに敬遠される理由ではないだろうか。                           

★ピストン

非常に長い(笑)。しかしメンテナンスが非常に楽で汚れは簡単に取れるし、ローターと違ってグリスが流れ込むことを心配しなくても良い。

残念ながら「フレンチ・コル」という楽器は滅びてしまったといって良い(悲)。なぜならフランスのプロオケでさえ、ピストン上昇システムを吹くプロはいない。そしてもうどこの楽器工房も生産をしていない。もう新しい個体が手軽に手に入ることもない(2005年現在)。今年度の国際ホルンフェスティバルでマイケル・トンプソンがラウーのピストン下降管(?)でソロを披露したらしい。F.クーシンズの「予言」は当たるのだろうか?ウィンナ・ホルン全盛だけでなくピストンの良さも復活して多様性を求めていきたいと思う。また上昇システムはともかく、ピストンの楽器は初心者にとってとても扱いやすい楽器であろう。

わたしの世代にとってテヴェ氏、バルボドゥー氏、デル・ヴェスコーヴォ氏(Pierre del Vescovo)氏の吹くオケのソロや室内楽の繊細な音は憧れだった。彼らの繊細なニュアンスに富んだフレーズ作りは徹底的ソルフェージュと声楽・器楽の融合であり、ドイツ・アメリカ系のホルン奏者とはまったく違った高い芸術感に支えられていたと思う。どうしてもヴィブラートにばかり耳がいってしまうが、声楽や弦楽器に精通している人ならば表現のための道具として使っているだけであることがわかるだろう。

しかしアンドレ・マルロー(作曲家)大臣の元、パリ音楽院管弦楽団がパリ管として再編されてから事情は変わる。ボストンで名声を果たしたシャルル・ミンシュ、ゲオルク・ショルティが指揮者に就任してからコルは迫害されるようになる。ダニエル・バレンボイムの時にクリーブランド管を引退した直後のマイロン・ブルームを主席に招き、フランスのコルの伝統は表舞台から絶たれたようだ。

またこの「コル」(ホルンにあらず!)は、ヴァルトホルンとは違い、サクスルン系の楽器であり、音程がとても良いため右手に対する考え方も違う(ベルを支えるだけ)し、楽器自体の鳴らし方もあくまでコルらしい割らない滑らかなフレーズ作りはローターの楽器ではなかなか味わえない。ギャレやマキシム・アルフォンスなどが非常に高度なエチュードを作ったのもピストン上昇管の存在と深い関係があると思う。デュカやボザ、ダマースなどの作品は明らかにコルという楽器を想定している。

この3番上昇システム・ロータリーに限っていえば、フランシス・オーヴァル氏(Francis Orval)がアレキサンダー200thモデル上昇管改を使用しているし、アレキサンダーは102Compensating double ascendant と203double ascendant を、E.Schmidもフランス・ベルギー向けにそれぞれのメーカーが受注生産をしている。他にご存じの方がいたらぜひ掲示板、メールにて情報提供をお願い致します。

このルブランの楽器はセルメル・テヴェ・モデルとは違いアメリカン・シャンクである。ベルフレアの形状も違うが紛れもなくフレンチな音が出るし、何よりもムダに響くこともないからフランス室内楽などで威力を発揮するだろう。フレンチ・バッソンとの音の融合も楽しみだ。

【参考】

「忘れざるルシアン・テーヴェ」

「マルセル・モイーズ研究室」より

★なおこの楽器は現在売りに出しています。ご興味のある方は掲示板よりしみつ99まで私信をください。所有者にお取り次ぎ致します。

【謝辞】じいさん本当にありがとう!!

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