Study on Horn ホルンの知識 その2 右手とナチュラルホルンのストップ

右手のお話」で右手を使う重要性にふれました。

ここでは実際の右手の使い方(ハンド・テクニック)についてわたしなりの解説を試みたいと思います。間違ったこともあるかと思いますので、なにかご意見・訂正などのある方はぜひメールや掲示板からお知らせください。

1)ナチュラルホルン 自然倍音

下の譜面はホルンinFで開放(ナチュラル)で出る自然倍音16個のをあらわしたものです。これらの音はまったく右手を使わなくても出すことができます。しかしいくつかの音は正しい音程、あるいは自然な音色では出ません。それらは便宜上四分音符で黒く表記してあります。

それぞれ倍音には「第なになに倍音」と呼ばれ、ト音記号のEsであれば「第7倍音」と呼ばれます。

カリソン ナチュラルホルン(小林氏所有)

Es管を取り付けた状態

Cor d'Orchestre

いわゆるストップ(ゲシュトップ)の状態。譜面上では音符の上に「+」の記号が付けられる。

ベルに手のひらの付け根をしっかり密着させ、指の表側もベルに密着させる。(もちろん多少のスキマはできます)

音色ははっきりと変わり金属質な鋭い音質に変わります。音量も塞ぐ分小さくなります。その音質はストレート・ミュートをつけたものと異なり、ホルンしか出せないホルン独特のものとして古くから作曲家に使用されています。

右手に関しては「完全に塞ぐ」(ゲシュトップ)は「短2度」(半音)分「短くする」ことと同じ効果があります。つまりゲシュトップではF管が半音上がることになるということです。つまり上の譜面はinFからin Fisへと「移調」されるわけです。

これはいわゆるハーフ・ミュート、あるいは3/4ミュートの状態です。

1/2は手の甲側にスキマがあり、手のひらはベルに密着させません。かなり塞いでいるために「こもった音色」がします。

3/4ではハーフと同じですが、手のひらをベルに密着というほどではありませんがつけるときもあります。

ゲシュトップではとにかく手を奥まで突っ込むのですが、ハーフミュートでは、手の大きさや形によってまちまちです。あくまで写真は参考程度と思ってください。

これはベルを手で覆うことによって、およそ「短2度」「長2度」あるいは「短3度」ほど音を下げることができます。(別に1/2が長2度、3/4が短3度というわけではありません)。つまり管を「長くする」効果があります。たとえばF管がE管になったりEs管になったりD管になったり。音を変えるために中音域ではしっかりとしたふさぎの変化が必要ですが、高音域では倍音が密集していますから、それほど大きな動きでなくても音程は簡単に変化します。低音域にいくにつれ、動かす音程の幅は大きくなりますから、右手での変化とともに唇による修正がかなり必要となります。音程の維持も大変難しいものになります。

このように開放・ストップ・ハーフ(3/4)の組み合わせをすれば半音階も含めて音域内のほぼすべての音が使えるようになります。

2)ストップによる音階や音の変化

上記の譜面は一応基本的な右手のふさぎ方を示したものです。注意して頂きたいのは結構「およそ」であるということです。たとえば「0」といってもその右手の位置は音域や倍音の「クセ」によって少々調整します。(上記の譜面で四分音符のハイDは「0」ではなく「+」あるいは3/4です。すいません・・・)

また半音階についてはもっと「てきとう」になります。ようするに「あと半音」下がればよいのです。それには唇や息の圧力・スピードの調整が重要になります。

この「てきとう」を実現するためにはソルフェージュとまでいかないけれど、頭の中に音高のイメージを持っていれば、よりコントロールは簡単なものになります。

わたしがナチュラルホルンを吹くときには、ひざに楽器を置きます。もちろんひざに置かないで吹くこともできるし、立奏もできます。というのはナチュラルホルンは非常に軽い。このため左手で楽器を保持するだけで、右手は自由に使えます。ダブルホルンでは重量もあるし、バルブのバランスもあり左手で楽器を支える必要があるので、右手の位置や形をある程度決めておかないと、少しの音程調整や音色の調整もやりにくいのです。
これはひざにポタロをのせているところ。哺乳瓶は子猫用のものです。もちろんですがまだ歩けません。
3)ナチュラルで曲を吹く

これらの右手の形を変えながら実際に曲を吹くわけですが、モーツァルトの協奏曲、ベートーベンのソナタなどは最初の段階で練習するには難しすぎるのではないかと思います。曲ならばサンサーンスの「ロマンスへ長調」などが取っつきやすいのではないでしょうか?

時代的にナチュラルホルンを想定された曲を吹く場合、やはり倍音中心で書かれた曲ですからそれほど右手のテクニックは難しいわけではありません。またナチュラルホルンはモダンホルンの細ベルに比べ、もっと細いので(もちろん時代・制作者によります)、右手を置く位置はかなりベルの外側になります。

コンチェルトなどソロ作品を練習する場合、音色の統一・音の粒立ちのことを考えて、つまり違和感なく音楽が聞こえるようにオープンではふさぎ気味、ゲシュトップは柔らかくなるように右手はこころもちベルの奥の方に置くのだと思います。つまりストップ音=金属音のしないレベルで音量を調節するわけですから、それほど大きな音で吹かないということです。私見ですがストップ奏法が当たり前の時代はホルンのサウンドは「こもった音色」だったのではないかと思うのです。しかしながらそのこもった音はベルの右手が深いからではなく、発音にあるのだと思います。(しかしそのこもった「感じ」は昔のシートメタルのマウスピースを使うことでかなり変わってくるはず、というご意見をotto先生から頂きました)

4)モダンホルンの右手の位置

現在のバルブホルンはバルブを装着することによって「明るい音」を手に入れたのではなく「クリア」に吹く、ということを実現した楽器なのだと考えています。バルブ発明時のサウンドに近いのは当然ながらウィンナホルンでしょう。ウィーン・フィルのホルン奏者たちは必ずしも「明るい音」を追求していないと感じます。ウィーンのホルン奏者たちの音色は暗いといっているのではなく、むしろクリアな音の追求が先にあったと思います。それが「明るい音」への追求となっていったのではないでしょうか?

ではクリアなサウンド追求はホルン演奏にどのような影響を与えたのでしょうか?まずバルブを採用することによって均質な音色を手に入れることができました。しかしそれは必ずしも「完璧」な音程を手に入れることではありません。バルブシステムは管の全長を調節するシステムです。バルブは組み合わせで使うため、実際に必要な長さより短めに作られています。ですからバルブを多く押さえるあるいは長く押さえる場合、常に必要な長さより短い目になるため、音程は高くなります。さらに自然倍音の譜例のところでもふれたように、倍音はその序数によって高くなったり低くなったり、音色が変わったりします。このため右手による修正は必須だったはずです。右手による修正は1/2や3/4ほど大きく塞ぐわけでなく、こころもち手のひらに当てたり、指の開きを変えるという程度で、ナチュラルホルンで「0」(開放)で出る自然倍音を修正する右手の動きに相当するでしょう。

そして20世紀の後半にはいるとオーケストラの編成が大きくなりホルンも音量が求められるようになり(ffという意味ではなく、どのダイナミクスでも響く音色)、ベルの直径が大きくなりました。今でもウィンナ・ホルンのベルの直径は以前のままで、ウィーンフィルのホルンセクションのffは独特の鳴り(割れに近い)を聴くことができますが、彼らの音色イメージもさることながら、これはベルの大きさが関係しているのだと思います。しかし彼らの音は非常に明るい!指使いも特殊なようです。

ベル経が大きくなれば「遠鳴り」が以前より実現することになりました。ベルフレアが大きくなるということは、同じ位置なら右手の位置が与える音色・音程への影響が以前より減じるということです。おそらくこの頃から、右手は「右手修正」の役割から「音色作り」に重点をおく方法に関心が移っていったと思われます。右手はオープンな位置でかつ息の流れに影響を与えられる位置に置かれるようになったのでしょう。

このため「ベルの中へ手を入れる」のではなく、「ベルの内部を覆う位置」に手を置く、と考えることが有効です。わたしの場合は親指に付け根に軽い障害があるので、あまり親指を使わないスタイルで音の修正をしますが、親指を動かせば手のひらのお椀型の形が容易に変わります。ただ右手の形にはフランス式とドイツ式があり、わたしが実際に採用しているのはその折衷型です。

6)音程と音色への影響

この音色作りには音程を安定させるという働きがあります。たとえば高音域ではその高次倍音が正しい音程で鳴るためにはベルフレアのまでの管より長い距離が必要です。つまりオープンな状態で高音域を鳴らすと非常に高い音程が鳴り「あさって」なように聞こえてしまいます。このため管の長さを補うためには「塞ぐ」ことで管を細くして「長く」してやる必要があります。高音域ではある程度塞いで管長を補正すればちゃんと鳴ってくれるものです。

この現象はもちろんホルン音色の倍音成分のコントロールにもつながります。オープンであると倍音構成は管長の長さの、その調のみに通じる倍音構成になり、純正調的な響きになります。このため他の楽器ととけ合うことのない、硬質な響きとして聞こえます。つまり右手でコントロールすると基音の音程だけでなく、倍音成分である高次倍音が整理され不安定な倍音バランスが修正されます。

このような音程の修正・音色の修正のに使う手の動きは、手のひらをベルに近づけ塞ぎ目にして音程を下げたり、少し開け加減にし少々高い目のツボをねらうなどがあり、きわめてわずかな動きながらホールでの響きに大きな影響を与えることができます。

このような補正のことを考えればある程度音程に影響の与えることができる位置に右手を置く必要があることがわかります。その位置については「右手の話」で写真解説してありますが、再掲します。

以上の論考に対して意見や感想があれば、メールや掲示板でおたずねください。

なんといっても経験だけしかないアマチュアのいうことですから間違いもあるでしょうし、説明不足は否めません。皆さんよろしくお願い致します。

2004.10.30

しみつ99

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