資料
 ■  高槻市個人審査会答申
高個査答申第30号
平成10年11月13日
高槻市長 江村利雄様
                     高槻個人情報保護審査会
                      会長 山中永之佑

   異議申立てに対する決定について(答申)

第一 審査会の結論

 高槻市長(以下「実施機関」という。)は、本件異議申立人から請求のあった各人にかかる「@勤務評定報告書、A勤務評定整理票、B勤務成績報告書、C勤務成績計算結果リスト」を開示すべきである。

第二 事実の経過

  (省略)

第三 当審査会の判断理由

1条例の基本的な考え方

(1)条例は、「個人情報の保護に関する市、事業者及び市民の責務を明らかにするとともに、個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定め、かつ、自己の個人情報に対する開示請求等の権利を保障することにより、公正な市政と個人の尊厳を確保し、もって市民の基本的人権の擁護に資すること」を目的としている。
 この目的を達成するために、条例は、実施機関に対し、個人情報の収集、保管及び利用を行うときは、この条例の趣旨を十分に遵守し、あらゆる施策を通じて個人情報の保護に努めなければならない、との責務を一般的に課している。そのうえで、それを具体化するための措置として、実施機関による個人情報の収集、保管及び利用についての制限と、自己情報の開示・訂正・削除・中止の請求という個人によるチェックのための制度を詳細に定めている。                                  

(2)この自己情報の開示請求などは、プライバシー権の積極的側面といわれる本人の自己情報コントロール権を保障しようとするものであり、実施機関の公文書に自己情報が記鏡された「何人」に対しても保障されている(条例第13条第1項)。市の公文書に記録された情報であれば、市の職員であっても、原則としてその個人情報につき自己情報のコントロール権が保障されていると解するのが相当である。
 もっとも、条例第13条第2項各号が定めるように、自己情報であっても本人に開示しなくてよいものがある。しかし、これはあくまでも例外であることに留意する必要がある。市の職員の個人情報のうち、市がその職員に関する事務のために取り扱うものについては、個人情報保護条例の適用外であると明記する立法例もあるが、本条例にはかかる規定はおかれていない。自己情報コントロール権という新しい現代的権利を承認したものと評価できる本条例の解釈に当たっては、例外である非開示を認めることには慎重でなければなるまい。実施機関が本件文書を非開示とするためには、同項各号のいずれかに該当する自己情報であることを明確に示す必要があるといわなければならない。
  以下、個別に検討する。


2 条例第13条第2項第2号該当性について

(1)実施機関は、本件文書につき、「条例第13条第2項第2号に規定する個人の評価、診断、判定等に関する情報であって、本人に開示することによって、評定者の公正な評価をなし得なくなるおそれがあるばかりでなく、運用要綱による平等・公正を旨とする勤務評定制度の実施という公正な行政目的の達成をも損なうおそれがある。」と主張する。

(2)同号の適用に当たっては、本号が、たんに「個人の評価、診断、判定等に関する情報」とするのでなく、さらにそれに加え、それらの情報であって、かつ、「本人に知らせないことが正当であると認められるもの」と規定していることに注意する必要がある。また、本件文書には、「個人の評価、判定等に関する」とはいえない客観的な事実に関する情報も含まれているところ、同号該当性があるとしても、それだけで客観的な事実に関する情報まで非開示とすることは許されない。そのような情報については部分開示の可能性を追求しなければならないのである。

(3)学校の内申書や指導要録の本人開示問題でも見られたことであるが、本人に開示することになれば、公正な評価・判定ができなくなる、とよくいわれる。その理由は、主とし て、本人に知らせるのであれば本人に不利益な評価・判定を控えることになり、評価が一面的で偏ったものになってしまうということであろう。他人の弱点を面と向かって指摘し批判すると人間関係をギクシヤクしたものにしてしまいがちだということで、どうしても避けてしまう。これでは、公正・平等な評価・判定ができないので、本人に不利益な評価・判定をも行わせるためには、評価・判定全体を秘密にする必要があるというわけである。本人からすれば最も知る必要のある不利益な評価・判定を本人に隠して行うということである。しかし、これでは、「依らしむべし、知らしむべからず」と同じレベルの扱いであるといわれてもやむをえまい。

(4)合理的な人事管理のためには、他人の長所だけでなく短所をも指摘し改善しなければならない。勤務評定はそのために制度化されたものである。評定者はいやしくも上司である。合理的な人事管理のためには、部下の弱点も公正に指摘し指導しなければならない。勤務評定制度が定着し評価者の評価力が一般的に確立し安定すれば、それも可能であるが、現状はそこまでいっていないとの弁明もあろう。けれども、恣意的な評価のおそれがあるところで、それにより不利益を被る者がそれを知ることができないというのでは、公正さに欠けることになる。また、現状では弱点を指摘すれば人間関係がギクシャクするというのであれば、現行の勤務評定制度でも上司である第1次評定者、第2次評定者及び最終評定者のうちの誰かがそれを指摘したことが明らかなわけであるから、人間関係がギクシャクすることに変わりはない。むしろ三者の内の誰だったのかという疑心暗鬼まで生むことになりかねない。勤務評定を勤勉手当てに反映させる現行制度は、職員の職務能率の発揮及び増進を図り、もって公正な人事行政を行うことを目的とする。勤勉手当てに関する成績率の減点につながる評価が職員の中に疑心暗鬼を生むようでは、人事管理に逆効果をもたらすものとなる。これでは、その制度の目的を達成するうえで支障をきたすことになろう。職場の人間関係を正常に保ちながら減点評価を含めた評価を行おうとすれば、評価者が被評価者に評価内容を示し、本人の反論権を保障しながらその納得を得るようにする必要があろう。

(5)評価・判定情報の本人開示については、すでに、内申書や指導要録の教育情報を開示した経験がある。最近では、医師のカルテについても本人開示を認めようとの動きまで出てきている。自己情報コントロール権の思想は、従来聖域視されてきた「評価、診断、判定」の領域でも、「依らしむべし、知らしむべからず」という思想を克服しつつあるというべきであろう。     、

(6)物の生産活動や売上高が明らかになる販売活動については、客観的な評価が比較的やりやすい。しかし、それら以外の精神的なサービス労働の評価を客観的に行うことは一般的にいってむづかしい。しかも、精神的な業務であればあるほど、仕事に対する本人の意欲・自発性が重要になる。本人の納得を得ることのできない評価は、そのような意欲や自発性を引き出す点で逆効果になる。本件勤務評定の実施にあたり、「勤務評定実施要領(勤務評定マニュアル)」が対象となる職員全具に配付されたという。このマニュアルは、評価の客観性、公正さを確保するために工夫を凝らしている。それでも、評価基準が 評価者毎に異なってくる可能性は残っている。評価基準自体が評価者の主観的評価に頼るものになっているからである。学力の判定方法に、客観テストと主観テストがあり、それぞれに長所と短所があるように、勤務評定においても主観的評価があって当然である。しかし、その際には主観的評価の弱点をカバーする方策が必要である。勤務評定の当初の目的を達成するには被評価者本人がその評価を信頼し納得することが必要であるところ、本人の納得を得るためには、評価過程に本人が参加すること、評価内容を本人が知り、意見を言えるようにすることが不可欠である。効率をシビアに追求する民間企業の中には、すでにこの趣旨を生かした人事評価制度を導入するところが出てきている。

(7)本件では、自己情報を開示しないことが評価に対する不信感をうみだしている。これは、勤務評定制度の目的に逆行するものである。本件非開示に正当な理由があるとは認められない。


3 条例第13条第2項第3号該当性について

(1)実施機関はさらに、「とりわけ、勤務評定報告書及び勤務評定整理票には、評定者の判断、所見等が記載され、万一これら文書が公開された場合、将来の指導に影響を及ぼし、人事の処理を事実上困難にする。」と主張する。このことが本3号に規定する「公正かつ適切な行政執行の妨げになる」というわけである。
 しかし、本人との関係では、非開示にするほうが人事の処理をむしろ難しくしてしまうおそれのあることは、上述したとおりである。
 本人に開示すると、本人を通じ自己情報がさらに一般に公表されること、すなわち、多くの職員が勤務評定の自己情報を交流し公表することも考えられる。そのことにより制度の欠陥や評価の恣意性を指摘することになるかもしれない。けれども、問題があれば、それを改善すべきなのであって、欠陥や恣意性が明らかにされるおそれがあるということは、非開示の理由にならない。       ‘


(2)なお、実施機関は、本件文書に記録された自己情報は「人事管理上高度に秘密性が要請されるもので、実施要綱でも勤務評定の結果について、非公開としているのはこのためである」と主張しているので、この点についても検討しておこう。
 まず、「高度に秘密性が要請される」という点については、被評定者への自己情報開示を認めない方がかえって「公正かつ適切な行政執行の妨げになる」ことは上述したとおりである。また、実施要綱の「非公開」という文言については、「非開示」と区別して用いられていると解すべきである。勤務評定の結果は、公務員の人事管理上の情報であり公的な性質を有するものであるが、同時にそこに含まれている個人情報はプライバシー権に関わるものという性質をも有している。少なくともプライバシー権の対象になる情報をみだりに公表すべきでないことは当然である。その意味で実施要綱が「非公開」としているのは妥当である。国家公務員について同旨の定めがあるのも、同じ趣旨であり、「非開示」とする根拠になるものではない。


4 以上により、当審査会は、「第一 審査会の結論」で述べたとおり答申する。


第四 審査会の処理経過

 当審査会の処理経過は、別表のとおりである。

  (別表、別紙は省略)