EPISODE:02 【富士の樹海に眠る者】
永劫に近い時の流れの中をただ存在していた者はその時をひどく待ちわびていた。
「目覚めの時が近付いている、目覚めの時が・・・。」
あるいは・・・
大型のコンテナが現場に運び込まれてた。
大型重器すらすっぽり入ってしまいそうな程のサイズである。
「山下さ〜ん、これ、頼んでおいた例の重器ですか〜?」
発掘現場に似つかわしくない若い女性の声が通る。
「いや、軍の連中が置いていった物だ。オペレーターを一人置いていったから聴いてみな。」
そのまま煙草をくわえると作業現場へと向かって行った。
「テントの方かな?・・・行ってみよう。」
テントとは呼んでいるが発掘作業のベースとなる仮説宿舎である。
「福沢主任。」
会議室として使っている一室にかけ込んだ。
「ああ、蘇芳君、丁度良かった。紹介しよう、統合軍の三村伍長だ。」
そういって隣に立つ野戦服の男を示す。紹介されたその男は真奈美に向かって簡単なお辞儀をする。
「えっと・・・?」(あれ?この人、どこかで・・・)
困惑する真奈美。
「立て続けに超獣機の発掘現場が『クアム』に襲われている事は知っているだろう。」
「・・・はい。」
「事態を重く見た統合軍は超獣機の発掘に関わる総てに護衛を付けたのだ。
最も僅か20人足らずのうちのチームに派遣されたのは彼一人、そしてあのコンテナ車一台だけだ。
まあ、気楽に考えてくれ。」
あっはっは、と高笑いを加えて話を終える。
「蘇芳 真奈美です、宜しくお願いします。」
目線を合わせようと見上げる形で握手を求める。
「あぁ・・・。」
言って真奈美の倍はありそうな大きな手を差し出す。
(やっぱり私、この人の事を知ってる?)その大きな手をとりながら確信に近い感覚を得る。
「案内しますね。」
現場を案内しようとする真奈美。
「いや、必要無い。施設は既に把握している。」
握手したままの手を引いて外へ出ようとする真奈美を制止する。
「奴らが狙うとすれば出土品か『君』だ。オレはそいつを守る為に此処に居る。それ以上の事は無い。」
手を振り解くでも無く、肯定でも否定でも無く、只自身の意志を示す。
「あっ、その・・・ごめんなさい。私、えと・・・。」
伍長のその態度を拒絶と感じた真奈美は握っていた手から力を抜いた。
「謝る事は無い。」
感情の見えない声で無機質に答える。
「あーっと、蘇芳君、作業に戻って良いぞ。」
気まずい空気を察してか真奈美に助け船を出す福沢。
「はい、戻ります。」
それだけ言い残して部屋を後にする真奈美。
「伍長、ああいった真似は謹んで貰いたいのだがな。」
目の前の若き軍人を嗜めた。正直な話、福沢自身も伍長の存在は好ましくない。
「可能な限りは。」
同様に無感情に答える。
「出来ればあのコンテナの中身も教えておいて貰いたいのだが?」
駄目元で聴いてみる。
「軍規に触れますのでお答え出来ません。」
語気を全く変えずに答える。この男に感情があるのかどうかも怪しくなってきた。
「では君も自分の仕事に就きたまえ。」
ほぼ想像通りの答えに当たり前の言葉を返す。
「・・・失礼します。」
略礼を行うと部屋を後にした。
「いつまでそうしているつもりなの?」
不意に話しかけられる。
「これがオレの仕事だ。」
休めの姿勢のまま壁を背に現場全体に目を向けている、真奈美の接近にも気付いていたようだ、驚いた風も無い。
「見てるだけなら手伝って。」
悪意も他意も無い、唯、現場にいる以上早く馴染んで貰いたいと思って言った一言である。
見ようによっては現場を監視しているようでもある、他の作業員達も事情を知っていてもいい気はしないだろう。
「・・・何をすれば良い?」
姿勢を崩して真奈美に近付く。
「・・・どうしよっか?」
そこまで考えていなかったらしく首を傾げる。
「そこらの重機なら一通り扱える。単純作業でいいなら、だが。」
数機の重機を目線で示す。現に重機が行っているのは土砂の運び出しや崩落を支えるといった単純作業が多い。
「じゃあ、えっと・・・山下さ〜ん、代わって貰って良いですかー?」
パワーアームを使って梁を張るまでの間、崩落を支えているワークス・モジュール(以後WM)の
元へ駆け寄る真奈美、なにやら話し合っているようだ。
「にーちゃん、ワークスを扱った経験は?」
WMの操縦席から声をかけてくる山下と呼ばれた男。
「アームズ・モジュール(以後AM)での戦闘経験なら有る、問題ない。」
山下と入れ替わるように操縦席に乗り込む。その動作には全く隙が無い、
それはAM乗りの動作そのものなのだが幸いと言うべきかそれに気が付く者はその場にいない。
動作のロック(車で言う所のサイドブレーキ)を確認すると手早くコンソールをチェックを終える。
ロックを解除し、姿勢をニュートラルに戻す(直立不動)とバッテリ残量とモータと駆動系のチェックも終えた。
その間僅か1分足らず、どんなに優れた作業員でもこうは行かない、
最も慣れた作業員はオペレータを交代する度に再起動などしないものだが。
(想像以上にメンテナンスが悪いな、これは)
発掘現場で派手に酷使されている事を考慮に入れてもなお、である。
(騙し騙しやるしかないか・・・。)
ウォンッ、フィー・・・モーターの駆動音が低く唸る。
「支えを入れる間、岩盤を支えていれば良いんだな?」
外部スピーカーで話しかけながらも
大型トラックの荷台より丸太を取ると手前に押し立てると同時に岩盤を支えに入る。
「大したモンだな、あのにーちゃん。」
先ほど三村伍長にWMのシートを空け渡した山下が真奈美に声をかける。
「そうなんですか?」
山下の作業は何度も見ている真奈美から見て
伍長に変わったからといって作業がスムーズに進んでいるようには見えない。
「あぁ、たいしたもんだ。モーターの駆動音が静かになってる、機械に無理をさせない『力加減』ってもんが
解ってんだよ。オレじゃあ、ああ上手くは行かねぇ。バッテリーの消耗も抑えられる筈だ。」
言われて耳を澄ます。
いつもは他の音をかき消す程の音を出しているWMのモーター駆動音が他の音に紛れて聞き取れなかった。
「あっ、ホントだ・・・。」
そして、その日の作業後、
「一度きちんとした整備をした方が良い。」
宿舎に戻るなり福沢にそう話しかける。
「しかしだな・・・」
突然の事に驚く福沢主任、まさか現場の不備を指摘されるとは思わなかった。
「事故が起きるのも時間の問題だぞ。」
相手の態度に構わず言葉を続ける伍長。
「しかし、ここは統合軍の演習場の一部だ。期限が来たら引き払わねばならない。
作業機械の点検などと言う悠長な事をしている時間は無いのだ。」
思い切った風にそう言葉を紡ぎ出す福沢。
「忠告はした、オレの用件は以上だ。」
あくまで冷静な態度で答える伍長。
「・・・ならば出て行きたまえ。」
その言葉をうけ、無言で部屋を後にする伍長。その足で真奈美の姿を求めて食堂へ向かった。
整っているとは言えない狭い食堂は作業員達を一同にそろえ、それなりの賑わいを見せている。
「はい、どうぞ。」
不意にかけられた真奈美の声に振り返ると
一人分の食事を載せたトレイを持った真奈美がそのトレイを伍長に差し出している。
「給仕までやらされているのか?」
トレイを受け取りながら訪ねる。
「ん?手伝ってるだけだよ。」
不思議そうにそう答える真奈美。
「食事は済んだのか?」
真奈美に目線を合わせる為、やや腰を落とす。
「まだだよ、私は大体、最後かな?」
顎に指を当て軽く首を傾げてそう答える真奈美。
「君はクライアント側の人間の筈だろ?」
やや感情的な声になる。
「・・・うん、そうなるの・・・かな?」
しばしの沈黙、食堂全体を見回すと食事を終えて雑談と食後の一服を楽しんでいるテーブルに
真奈美の手を引きながら一直線に向かう。
「ちょ、と、え?あの・・・」
突然手を引かれ困惑する真奈美を余所に
「食事が終わっているなら席を空けて貰いたいのだがな。」
低く威圧的な声でそういうと席を空けたとたんにトレイを置きその前に真奈美を座らせる。
自身はきびすを返して自分の食事を取りに行く。戻るなり真奈美の隣に座ると
「冷める前に喰おう」
とだけ言うと食事を始めた。
「え、と・・・その・・・」
困惑したままの真奈美だったが伍長に合わせるように食事を始めた。
「あ、あの、経験は長いの?」
間が持たずに思わず口を開く真奈美。
「・・・5年程になる。こういう任務に就いたのは3年位前だ。」
殆ど終わった食事の手を止めて答える。
「いえ、あの、ワークスの操縦の事、なんだけど・・・。」
ばつの悪そうにそう続ける真奈美。
「似たような機械なら20年近く前から使ってる。」
変わらない態度で答える伍長。
「?!結構、お歳なんですね。私、伍長は30前だとおもっていたのに。」
声に驚きの風が混じる。つられて言葉が敬語になっている。
「そんな歳じゃない、オレはまだ24だ。」
否定する為、少し語気が上がる。
「?え?だって20年って・・・」
驚きが混乱に変わった。
「4つか5つ位からあの手の機械は扱ってる・・・コロニーの農業プラントの出でね。」
その言葉を受けて混乱しながら指折り数える真奈美。
「食事を続けるべきだと思うが?」
そんな伍長の言葉も耳に届いていないようだ。
「・・・あの、15年くらい前って何処に居ましたか?」
意を決したような口調で伍長に再び訪ねる。
「!?・・・中国だ、家族の事情でね。」
嘘は言っていない、時期を明言しなかったのは真奈美の方だ。正確には中国にいたのは14年前数ヶ月程なのだが、
「その前は?」
なおも食い下がる。
「プラントだ・・・もう良いか?」
心情を悟られまいと口調が堅くなる。
「え、えっと、ごめんなさい、その後は?」
伍長の口調を拒絶と取ったのか遠慮がちに質問を続ける。
「チベットだ。その後は軍に入って今に至る。」
口調が元に戻っている、最も真奈美は気が付いていないが。
「そう、なんだ・・・。」
声にあからさまに落胆の色が混ざる。
「・・・あぁ。」
こちらは僅かな安堵を含んだ声を出す。
「さてと、今度はこちらから質問をさせて貰おうか。」
真奈美が食事を終えるのを待ってからそう切り出す。
「ん・・・?」
不思議そうな表情で伍長の言葉に顔を上げる。
「聴きたい事って何?」
ふと小首を傾げる。
「この現場で信用出来る人間はいるか?」
声を潜めて問いかける。
「・・・質問の意味がよく解らないよ?」
ますます困惑する真奈美。
「聞き方が悪かった。・・・ここに来る以前より知っている人間はいるか?」
「山下さんは父の古い友人で何度か電話で見た事があるよ」
「他は?」
「えぇっと・・・」
「いないのか?」
「・・・うん。」
「あの福沢という男にも面識は無かった?」
「うん」
「じゃあ、あとは明日だ」
会話を終わらせると食堂を後にする。
しっかりと真奈美の自室の入り口まで送った。
「出来るだけ部屋から出るな。どうしても出る用事があるならこれで俺を呼んでくれ」
そういって革製の黒いケースに入った端末らしきものを手渡す。
「ケータイ電話?」
それにしてはやや大きい。
「軍用無線だ、その端末だが」
その端末にはスイッチが一つしかない。
「スイッチを押して話しかければオレの持っている無線機に音声が伝わる。送信と受信は同時に出来無い。
オープンチャンネルと専用周波の音声しか聞こえない事以外の使い方は普通の無線機と同じだ」
操作パネルの付いた自分の無線を見せながら説明をする。
「えっと、チャンネルスイッチは?」
電源を入れると送受信の切り替えスイッチを何度か切り替える。
「アンテナの軸が回転するだろう、それが対一のチャンネルになる八番に設定しておいてくれ」
自分の無線を設定しながら答える。
「はい、えっと・・・『これでいい?』」
声の聞こえる範囲ではあるが確認の為、無線を通じて話す。
『良好だ、問題ない。どうぞ』
無線で返す。
「はい、じゃあ、お休みなさい、伍長」
無線では無く面と向かって挨拶をする真奈美。
「あぁ」
素っ気無い返事で返す伍長。
翌朝、食堂で朝食を終え、会議室にてミーティングを行った後
(重機の点検については触れられなかった)発掘現場に向かう最中である。
「伍長、昨日はよく眠れた?」
食堂からこっちほぼ常に半径5m以内にいる康喜に向かって気軽に話しかける。
見かけほど気難しくも冷たくも無い、最も愛想は無いが。
「あぁ」
相変わらず素っ気無い返事を返す。
「そういえばどこで寝ていたの?」
部屋に空きなど無かった筈だし、そもそもそういった話も聞いていない。
答えるようにちょうど脇を抜ける軍用トレーラーを軽くノックした。
それが答えだと理解して認識するまで若干のタイムラグを要した。
「車の中!?」
驚いた声を上げる。
「あぁ、問題ない、風雨はしのげる」
何事も無いかのように振る舞う伍長。
実際、彼からすれば屋根のある所で眠れる℃魔ヘそれだけで好待遇と言える。
「お布団足りてる?」
心配そうに目線を送る真奈美。
「不足はない」
全く使っていないのだが、今は一番日照時間の長い季節だ。
そもそも彼からすればこの地方で屋内で眠るのに寝具は要らない。
そんな取り留めのない話をしながら現場に到着した。
「石畳の一部は発見されているんです」
休憩時間に発掘状況を説明されている。
「あそこからが人工的に造られた箇所でそっちが溶岩で埋もれている部分です」
指さして説明されてもサッパリ解らない。第一その溶岩と切り出した石の差が解らない。
有り体に言って全部溶岩に見える。此処は富士の樹海、足下は基本的に溶岩だ。
そもそもこんな所に人工物がある事が信じられない。此処にあるのは風と炎が造り出した自然の難所だけだ。
WMを操りながら周囲の作業員を観察する。作業になれている者が4名、これは本来の発掘作業員達であろう。
どう見ても作業になれていない者が6名、これは体の捌きや目配りを見ても軍人だろう。
残りは単純作業に従事しているので作業の練度は解らない。
「何で、富士なんだ」
この話を聞いた時から疑問に思っていた事をそれと無しに聞いてみる事にした。
「えっと・・・」
返答に困っているようだ。
「答え辛いのなら良いのだが」
なにかの機密事項に触れる事だったようだ。
「ん〜と、富士の樹海に古代文明の痕跡があったのは超考古学界では常識だよ」
どうやら質問の内容が初歩的過ぎたようである。
「・・・その『超考古学』というのは?」
考古学なら聞いた事もあるがそんなモノがあるとは初耳だ。
「えっとね、超獣機に関する遺跡には明らかに現代科学では解明出来ない遺品があるの。
それらを解明、現代に連なる古代史とは違う『失われた文明』に対する研究、又はそれに従事する学問の事、かなぁ」
いちいち考えながら話している所を見るとわざわざ康喜に解りやすくする為に言葉を選んでいるのだろう。
「・・・大旨、把握した」
短く言葉を返す。
「ホント?ちゃんと理解した?面倒臭くなって適当な事言ってない?」
グイ、と詰め寄る真奈美。尚、現在伍長はWMの操縦を行っているので非常に危険と言える。
「わかったから離れてくれ、プロフェッサー、危ない」
操縦桿を操作し続ける事は難しく無いが前が見えない。
「じゃあ、説明して」
サブシートに戻って振り返る。
「要するに此処を掘るだけの確たる根拠があるって事だろう?それだけわかれば十分だ」
納得した様子の伍長
「う〜・・・間違ってないけどぉ・・・」
眉をひそめる真奈美。
「其処にいるのは構わないが君は発掘隊に指示を出すべきではないか?」
平然と言葉を続ける。ちなみにこのサブシートは無理矢理後付けしたものだ。当然、設置は甘く安定性も悪い。
手摺等も付いてはいるが脚を置く場所がないので据わりが悪い。
さらに重量バランスも(ごく僅かではあるのだが)狂うので出来ればじっとしていて欲しい。
「う〜〜・・・『石質が変わったら言って下さ〜い』」
真奈美の言葉に何人かの作業員が手を振って答える。
彼らの様子を見ようと発掘現場を一望するとなにか違和感≠感じた。
正体を見極めようと目を凝らすが何も見えては来なかった。しかし、違和感は消えない。
『・・・覚め・と・・・』
「つっ・・・」
次は幻聴だった。更に幻聴と関係があるのか一瞬、頭痛が走った。
「どうした?」
いち早く真奈美の異変に気が付く、最も単に距離が近いだけだったが。
「ん、平気・・・何か聞こえなかった?」
頭痛の残滓を振り払おうと軽く頭を振る。
「変わった事は無いが、何かしらの音はずっとしている」
操作の合間に真奈美の様子を覗う。それなりに気にはなっているようだ。
『適格者よ、目覚めの時は来た』
目を閉じたとたんにハッキリと聞こえた≠サの声は明らかに真奈美に語りかけている。
「三村伍長?」
言葉の中に苦痛が見て取れる。
「『全員、作業中断してくれ』プロフェッサー、どうした?」
WMを止めて真奈美を見る。最も抱きかかえてWMを降りる程の思い切りは持てないのだが。
「私は平気、でも、作業を止めてここから出た方が良さそうだね」
サブシートに身を預けながら伍長に顔を向ける。
「あぁ、わかった。『済まないが作業中止だ、一旦外に出てくれ』」
通常はやらない降着形態をとらせるとハッチを開けて地面に降りる。
「プロフェッサー」
真奈美の目線にまで手を差し伸べる。
「うん・・・」
伍長の手を取り力無く立ち上がる。
「済まん」
突然震動≠感知した伍長は無理矢理、真奈美を引き寄せる。
「・・・ふにっ!!?」
伍長の前触れのない行動に思わず驚きの声を上げる。
見ようによってはシートから落ちた真奈美を伍長が抱きとめたようにも見える。
力加減はしてあるのだろうが伍長の分厚い胸板に顔を埋める形になってしまった。
胸ポケットや内ポケットの中に金属的な感触を感じた、けっこう痛かった。
ゴ、ゴ、ゴ、・・・バンッ!
唐突に壁面に亀裂が走り、爆ぜた。弾丸の如き速度で跳んできた岩石を叩き落とす。
前方にあったWMはほぼ全滅だ、今乗っていたWMも岩石の雨霰を受けて半壊状態である。
「大丈夫か?プロフェッサー」
肩を掴んで立たせると惚けたような表情をした顔を覗き込む。
「う、うん、平気・・・大、丈夫、だよ・・・」
周囲を見回しながら慌てて答える。
「済まんがアレがなんだか解るか?」
爆発の中心を指し示す、そこに岩壁から生えるようにあったものは
「鳥?」
嘴から頭頂部までが5m、頭部の直径が3m程の紅い鳥の頭である。
「それは判る。・・・あれは『超獣機』なのか?」
真奈美を庇うようにして紅い鳥を観察する。
ほぼ無意識的に懐からリボルバー式の拳銃を取り出す。
オートマティックの拳銃がもう一丁とマガジン3、ボウィナイフが二振り、
スローナイフが半ダース、手榴弾が四つ、C4が6kg・・・同時に手持ちの武器を確認する。
殆どが対人用の武器であることに自分の用意の悪さを省みた。
「うん、大丈夫だよ、ずっと此処で待っていたんだよね」
歩み寄り、手を伸ばしてその紅い鳳の嘴に触れる。
紅い鳳の方に反応は無い。停止した機械の如く微動だにしなかった。
「ほら、平気だよ」
康喜の方に向き直る。
「なら、此処を出よう、みんなも心配しているだろう」
言って真奈美を出口へ促す。
「うん、でも・・・」
振り返り『超獣機』を視る。
「気持ちは判らんでも無いが何かあってからでは」
そこまで言って言葉を切る。
「プロフェッサー、あのWMの操縦席に入ってじっとしているんだ。又、揺れるかも知れない。」
比較的ましなWMを指して真奈美を促す。
真奈美が操縦席に入ったのを確認すると注意深く気配を探る。
潜むようにしてこちらに向かう気配が・・・多分、5。
手近なプラスチックライトに歩み寄り電源を抜く。繋がっていた部屋中のライトも一斉に消えた。
通路から覗く僅かな光を頼りに闇に潜む。
「クソッ、照明が」「急げ、本隊が来るぞ」
照明を片手に散り散りになる、動きが素人臭い。
「クアムか・・・」
離れた一人に目を付けると無音で歩み寄る。首筋にナイフを当てて口を塞ぐ。
「喋るな、肯くだけでいい、解るな?」
相手が従う動きを見せた所で言葉を続ける。
「クアムだな?」
肯いた瞬間速やかに無力化≠オて次に当たる。
ボウィナイフを放ると同時にスローナイフを3本投擲、移動しながら拳銃を三点射
最も手近な一人に近づき拳の一撃で制した。
「これで5人」
照明を付けずに5人を拘束すると通路近くに集める。
「遅いぞ」
通路に向かい話し掛ける。
「言いたい放題だな、特務兵」
答えたのは福沢と名乗った現場主任である。
「自分の仕事をしろと言っているだけだ。コイツらから聞いた。
クアムの戦闘部隊が来るそうだ。調査員の保護を任せるぞ」
その正体に驚きもしない。実際の所、見当は付いていた訳だが
「フン、ま、良いだろう」
肯く福沢以下3名、見た所装備は軽い。
「使え、こっちは用済みだ」
手榴弾とリボルバー拳銃、予備弾とリローダを渡す。
「あぁ、それで蘇芳教授は?」
受け取りつつ答える。
「奧だ。急な話だが調査の必要が出来た。オレは護衛に回る」
小型のマグライトを取り出し奧へと向かう。
「そっちは任せたぞ」
「勝手にするさ」
直接明かりを当てないようにして周囲を照らす。
「大丈夫か?プロフェッサー」
ハッチを開き中を覗き込む。
「うん、平気だよ。・・・どうするの?」
伍長の手を取り操縦席から降りる。
「状況的に良くない。出来れば逃げ出すべきだが、そうも行かない以上調査を終了させる必要がある」
ライトを構え先ほどの紅い鳥の頭に向ける。
「アイツが此処にある以上奴らは絶対に諦めない」
感情を感じさせなかった筈の伍長の声が一瞬、怒りを含んだように響いた。
「でも・・・」
不安そうな表情の真奈美に
「だからその不安を取り除く」
力強く断言した。
「多くの場合、超獣機は乗り手がいれば完全な任意で機動が可能だ。言い換えると乗り手が居なければ
ただの機械と大差無い。此奴が動くという事は乗り手が居ると推測出来るが、どうなんだ?」
伍長の指摘は間違いでは無い。しかし、
「でも、この子は違うみたいよ」
紅い鳥を見上げる真奈美。
「・・・そうか、どうすればいい?」
鳥形超獣機の通った後だろうか、その空洞を見ながら周囲を探る。
「きっとこの奧に待っているの・・・その確証は無いけど・・・。」
自信なさげに言葉を切る。
「ならば行こう」
妙な熱気の残る風洞を指し示す。
「いいの?」
「構わない。さっきも言ったがそれが奴らに対する手になる」
言うなり振り返り小型の作業機を移動させる。荒れ地に対応する為に大きな車輪を持った輸送台の一種である。
発掘品がない為、出番が無く崩落の被害を殆ど受けていない。
「この方が早い。荷台で悪いが」
一人乗りのカートの様なモノだ。運転席と荷台しかない。
「うん、大丈夫」
伍長の手を借りて発掘品を傷付けないようにサスの効いた荷台によじ登る。
「では行こう」
外付けのプラスチックライトはあったのだがこちらは崩落の衝撃で割れている。
暗闇の中を車内灯の僅かな明かりを頼りに進む。モーターの音以外殆ど聞こえない。
想像以上に安定した通路を進むと急にカートを止める。
「どうしたの?三村伍長」
「・・・誰か居る、離れないでくれ」
その言葉に応えるように運転席のシートにしがみつく真奈美。
「・・・やあ、元気そうじゃないか、康喜」
人の声がした。考えられない事だが
「竜珠か、生きていたんだな。7年ぶりか」
伍長は声の主に覚えがあるようだが姿は見えない。
「誰にこのボクを殺せるって言うんだい」
不敵な声に静かな迫力が宿る。益々人物像が掴めない。真奈美は性別すらも推測出来ずにいた。
「さぁな」
受け答えは素っ気無い。
「まぁ、いいや、気を付けなよ。もしかすると明日には君は世界を救う勇者になっているかも知れないんだし」
「それはどんな冗談だ?」
文脈の繋がらない言葉を残して竜珠と呼ばれた者はいつの間にか姿を消していた。
「伍長?」
「なんです?」
「差し出がましいようですが、あの人は一体」
「チベットにいた頃、世話になったオレの格闘技の師匠だよ。
仙人か魔人みたいな人でな。自称300年以上生きてるそうだ。」
平然と語る、その間も、カートは進む。
「さんっ!?そんな長生きできる訳無いじゃないですか!」
「本当にそれぐらいの事はやりかねん程、非常識な人でな。とにかく信じられない位に強かった」
驚く真奈美に言葉を返す。
「深く考えない方が良い。あの人のやる事をいちいち気にかけていたら身が保たない」
「そう、なんですか?」
この暗い中を平然と運転できる伍長もある意味、非常識だよと思いながら適当な相づちを打った。
カートはなおも進む。
「着いたようだな」
カートを止めると先に降り真奈美の手を差し伸べる。
「ありがとう」
手を取り下に降りると伍長がマグライトで照らす先を見た。
「あれって・・・」
「あぁ、どうやらプロフェッサーのカンが正しかったようだ」
見上げた先には蒼い龍と金色の獅子、二機の超獣機がそびえ立っていた。
「巨きい・・・」
「確かに、現状確認されている中でもおそらく最大サイズだろう。だからこそ、奴らに・・・」
そこまで言うと無線に言葉を遮られた。
『こちら福沢、きこえるか?特務兵』
「どうした?」
即座に返事をする。
『機動兵器が出て来た。こちらの装備では歯が立たん、作業員の撤収に専念する』
「肯定だ、そのまま行け」
短く返すと真奈美に向き変える。
「プロフェッサー、ちょっと離れる。済まないが此処で待っていてくれ」
言ってマグライトを手渡す。
「うん、解った。カートは・・・」
「必要無い」
答えるなり駆け出していた。視界から完全に消え去るまで全力疾走のままだった。
確かにあれならカートより速いかも知れない。
目指すは自身の持ち込んだコンテナ車、その中で最小の機人兵装が出番を待っている。
コンテナ車の運転席では無く、コンテナの前部に当たるハッチを開くと素早く滑り込んだ。
シートに座るとヘッドマウントディスプレイを被り気密服と接続、手早くCPUを起動させていく。
起動作業が終了すると後部パネルの炸裂ボルトが弾け跳び、後部パネルが脱板する。
滑るようにしてコンテナより一回り小さい角張った鋼の塊が姿を現す。
40tクラスのコンテナ車に収まる特殊な変形機構を備えた
軽量級の強襲用アームズ・モジュール(以後AM)カスミ≠ナある。降着形態から戦闘形態に移行。
脚部のHP(ハードポイント)に備えた対AM狙撃銃≠いつでも使えるように腕部マニュピレータで保持した。
弾数とバッテリ残量を確認する。
ケミカル&リニアハイブリットキャノンの為、内部電力を消耗するがプラズマキャノン程ではない。
最も実弾兵器ゆえに弾数に限りがある。
ディスプレイに残弾数を常に表示するように設定(12と表示された)バッテリ残量の表示はバーゲージのみとする。
両腕に格闘用のヒートブレード、左肩に対AM用ショットガン。そして右肩にとっておき≠備える。
相手はメクトロン社製の重AMゴリアテ≠サれも3機、正面からやり合ったら勝ち目など無い。
「警告する、此処は現在統合軍の管理下にある。直ちに身分を明かさぬ場合は発砲もあり得る。繰り返す・・・」
オープンチャンネルで呼びかけた、外部スピーカでは居場所を悟られる畏れがあったからだ。
通信を聞きゴリアテ達に警戒の色が走る。
「・・・乱れた!」
狙撃銃を構えると照準をオートからフリーに設定、
ヘッドマウントディスプレイで視線入力しながらガントリガーを握り込む。
「くれてやる。全弾持って行け!!」
電磁加速された銃弾が空気を切り裂く。一般にリニアカノンの銃弾は小さい、
その上、銃身その物が銃弾を加速してくれるので反動はインパクトキャノンのそれに比べて圧倒的に小さい。
故にインパクト兵器の様にライフリング特有の弾軌道を描く事無くリニアカノンの銃弾は一直線に目標に突き刺さる。
プラズマ兵器のように空気中で減退する事も無い。
インパクト兵器とプラズマ兵器の利点を兼ね備えた優れた兵器と言えるだろう。
同時に幾つかの弱点もある。その最たるはバレルの長さである。
インパクト兵器を超える弾速を持たせようとすれば最低でも5m以上のバレルを持って加速しなければならない。
その上、バレルであるリニアレールは極めてデリケートに出来ていて歪みや曲がりに非常に弱い。
又、射出された銃弾はともかくリニアレールは磁気異常に弱い。
通常の磁場ほどでは問題ないがそれを目的とした磁場異常やスクラップ工場や
超伝導リニアホイール型発電機等の周辺ではまともに機能しない。
故にリニアレールガンを相手にしたらまずそのバレルを狙う。
破砕出来なくともバレルが歪んでしまえばリニアレールガンは沈黙する。
特徴的なロングバレルは良い的だ。故にリニアカノンは敵前に晒すものでは無い。
此処で全弾使い切っても何ら問題は無い。今しか使わないからだ。
降り注ぐ計12発の弾丸は3機のゴリアテを撃ち抜いた。
1機沈黙、1機中破、1機損傷軽微といった所だ。こちらはレールガンが弾切れ、先制攻撃としては上出来だ。
バッテリの消耗は殆ど無い。接近戦に備えて左下腕部内のヒートブレードを赤熱化させる。
熱探知で発見される危険性は増すが接近してからヒートブレードを赤熱化していたのでは間に合わない。
リニアレールガンをその場に残し、左肩からショットガンを引き抜く。
ヒートブレードが赤熱化する前にポンプアクションを起こし初弾を装填する。
次弾を撃つつもりは無い。沈黙した1機を庇うように周囲を探る2機のゴリアテ。しかし、
「隙だらけだぜ。」
滑り込むと同時にショットガン発射、中破していた2機目を沈黙させる。
左のヒートブレードを使い接近戦に持ち込むと同時に、ショットガンを腰にマウントし
右のヒートブレードをセットアップする。これで終わる、その筈だった。
その瞬間ヴォン<vラズマ粒子が空気を焼く独特の音と光が辺りに広がる。
ヒートブレードとブラズマソードは共に装甲を焼き切る能力を持つ。が、撃ち合えば勝つのはプラズマソードの方だ。
ヒートブレードは難なくプラズマソードに焼き切られてしまう、その分バッテリの消耗は段違いに低いのだが。
音も無く切断されるヒートブレード、とっさに体を引いて腕ごと切断されるのを防いだ。
「・・・ちっ」
退きながら右肩から『とっておき』を引き抜く。パンツァーファウスト、使い捨てのロケットランチャーである。
当然、弾数は1。外せば次弾は無いし、いかに至近距離といえど当たり所が悪ければ敵機の停止には至らない。
「黙ってやられるよりマシ、か」
ろくに狙いも定めずに速射する。この距離でじっくり狙うなど莫迦のする事だ。
結果、直撃。損傷は殆ど無いが武装の7割を使い切ってしまった。敵機に援軍がいれば勝ち目は薄い。
そもそもこのAMカスミ≠ヘ潜伏→強襲→破棄→撤収を目的とした果てしなく使い捨てに近い兵器だ。
現在の武装では超獣機どころかジオ・アーマード(以後TA)1機でも勝てそうにない。
最もAMでTAと戦うのは基本的に無理があるのだが。
ピー・ピー・ピー、いつ聞いても神経を逆立てる電子警報が狭いコクピット内に響き渡った。
即座にディスプレイを確認する。認識不明、数1、熱量からTAと推測する。
「拙いか・・・」
舌打ちこそ出なかったがこの事態は本気で拙い。只の任務ならとっくに逃げ出している所だ。
「・・・伍長、三村伍長、きこえますか?」
不意に無線が入る。不測の事態を考慮して軍用無線の端末を預けておいたのだが連絡が入るとは思っていなかった。
場合によっては即座に戻らねばならない。なにしろあそこにはヤツらの欲しがる物がまとまっている。
「あぁ、聞こえている。そっちは大丈夫か?プロフェッサー」
泣きそうな声で声をかけてきた真奈美に出来るだけ状況を悟られないように答えを返す。
こちらが状況不利だと知ったら本当に泣き出しかねない。
「えっと、あの、邪魔しちゃ悪いと思ったんだけど、このままじゃ伍長が危ないとも思って・・・」
言ってまた口ごもる。
「プロフェッサー、もしかしてこちらの状況が判るのか!?」
驚きと共に疑問を口に出す、まさかそんな訳がないという憶測も混ざっているが。そして意外な返事が返ってくる。
「はい、どういう訳か判ります。まるで空から見ているように今ここに伍長の緑のロボットが映っています」
AMカスミは真奈美どころか現場の人間、誰にも見せなかった。
間違いない。そもそも映っている≠ニはどういう意味だ?
「そうか、まあ君が悪い訳ではない。気にするな・・・それより他に何か見えないか?
オレの、その『緑のロボット』以外のロボット、例えば3倍ほどあるロボットとか」
言うと同時にカメラを上に向ける。『何か』がここを監視している可能性があったからだ。
「んと、伍長の右、えぇっと多分50mくらいの所に大きな赤いロボットが」
右とは多分、真奈美から見て右だろう。自分の視界を右に巡らせても意味はない。
50mも間違いだ。センサーは300m先に敵機の姿を捕らえている。
恐らくカスミを人間サイズとみて推し量ったのだろう。
「なにか特徴的な姿をしていないか?」
間違いは指摘しない、している時間もない。とにかく今は情報入手が先だ。
「えっと、背中にもう一対の腕があるように見えます。えっと、その腕ではないようです。それから、え〜と・・・」
彼女なりになんとか役に立とうと努力しているのだろうが、TAの見分けなど素人の一般人が出来る訳がない。
相手が長距離タイプの大口径プラズマカノンを2門装備したTAだとわかっただけで十分だ。
「ありがとう、助かる。それだけ教えて貰えば十分だ」
出来るだけ穏やかな言葉を選んで返事をする。
この娘が出来る限りの事を、いやそれ以上の事をしているのは知っている。これ以上負担を増やしたくない。
「はい・・・あの、伍長。帰ってきて下さいね」
遠慮がちにささやかな自分の願いを口にする。
「あぁ、やってみよう」
殆ど考えずに言葉が出た。
素直な想いだと思いたい、それがその場を切り抜けるのに最適だと判断した嘘では無いのだと。
この樹海の中では頭頂高18mに達するTAはひどく目立つ。
そしてAMの中でも特に小柄なこのカスミなら森の中に隠れる事も可能だ。
「見えた」
北大路重工製のTAカブキ¢S長18m強、全幅約8mとTAの中でも大きく、言ってみれば派手な°@体だ。
カタログカラーのままの赤い機体を隠す気もない。背部のロングレンジプラズマカノンもデフォルト装備のままだ。
機体の特徴といえば大型ハイパワーのプラズマドライブを装備、動力に用いたプラズマ粒子をそのまま
プラズマカノンに流入させ、出力可能な点だろう。動力直結のプラズマカノンは厄介だ。
たしかにカブキは出力も高く手強い相手だと言える、此処が何も無い荒野であればの話だが。
目視出来る距離まで詰めておいて悩んでいる暇など無い。
射程限界からショットガンを撃ち込むとそのまま接近する。
ヒートソード起動、ショットガンの次弾装填、未だ戦える。
対AM用のショットガンではTAに対してろくにダメージを与えてはいない。
せめてパンツァーファウストがもう一本あればと思うが、無い物強請りをしても仕方が無い。
今出来る事は・・・
「零距離ならどうだ!?」
クローアームをかいくぐり、ほぼ銃口と敵機の装甲を接触させるようにしてトリガーを引き絞る。
派手に湾曲する装甲、しかし、貫通には至らない。
たまらず飛び退いたがクローアームに右腕の肘から先を持って行かれた。無論、ショットガンごとだ。
これで残りの武装は左のヒートソードのみ無い≠ニ言っても過言では無い。
元々、対AM用に用途を絞って武装を選んでいる。TA相手に勝てる訳が無い。
「これならどうだ!」
迫り来るクローアームに向かってヒートソードでカウンターを仕掛ける。
グシャアァッ!°熨ョの拉げる耳障りな音を立てて左腕が丸ごとねじ切られた。
あちらのクローアームもお釈迦だが、しかしこれはやや分の悪い取引だったようだ。
此処まで消耗してはやりたくない賭に出ざる終えない。シートの脇に固定してある賭のチップ≠引き抜く。
銃身が30cmはある異常なフォルムの拳銃。
装甲貫通弾を発射出来る唯一の拳銃アーマーマグナム£e数3、最小の対機動兵器用装備である。
カブキの背部プラズマキャノンが光の帯を放ち森を焼く。しかし、この距離まで詰めれば当たりようがない。
再び懐に飛び込むカスミ、しかし武器は無い。油断したのか一手目よりも楽に接近出来た。
肉薄したと同時に緊急脱出用のレバーを引く。爆発ボルトが弾け飛び、胸部装甲が炸裂する。
ヘッドマウントディスプレイをヘルメットごと脱ぐと手に持ったアーマーマグナムで装甲貫通弾を連続で叩き込む。
腹部のコクピットブロック目掛けて放った弾丸がパイロットの自由を奪うかは最早、運の領域である。
「止まったの、か・・・。」
習慣になっているのか手が半ばオートでリロードを行う。
これで終わらなければもう打つ手はない。そんな状態である。
その瞬間、赤い光線がカブキの胸を撃ち抜いた。
斜め上方より頭部を撃ち抜き、右肩をえぐりTAカブキをほぼ沈黙させていた。
「プラズマビーム・・・?この収束率でこの貫通力がある筈が・・・新型か?」
言いながら確認したセンサーには何の反応もない。
つまり、AMの貧相なセンサーとはいえ完全に隠蔽するだけのステルス機能を有しているか、
あるいはセンサーの範囲外から撃ってきたかだ。どちらにしてもそれが敵なら勝ち目は無い。
「伍長、無事ですか?」
蒼い龍を伴って降下してくる紅の鳳。龍の方は全長およそ70m程、鳳の方は両翼で80mを超えているだろう。
どちらも金属の光沢と生物のしなやかさを持つ太古の遺産。超獣機≠ニ呼ばれる発掘兵器である。
「プロフェッサー、そいつに乗っているのか」
驚き混じりの声で問いかける。風穴の中では全体は見えなかったのだが此処まで巨大な物だったとは思わなかった。
「えっと、はい、ずっと乗ってたんですけど、あの、伍長が危ないって思ったら、その・・・」
言葉が詰まる、どうやらそこから動くなという指示を破った事を気にしているらしい。
「いや、助かった。これではどちらが護衛なのか判らないな」
自嘲気味に呟くと無線機を持ったまま半壊したカスミを離れ、沈黙しているカブキに近付く。
「プロフェッサー、そこから出るなよ」
横倒しになったカブキの腹の辺りコクピットの強制解放レバーを引く。
「・・・はい」
真奈美の押し黙ったような返事を聞きながらコクピットの反応を確かめる。
熟練の兵隊なら此処で気配を消す事位造作も無い。決して油断出来る状態では無いのだ。
オートマティックの拳銃を抜くと一瞬でコクピットに踏み込む。
「Freeze」
警告と同時に発砲体制を取る。この状況で動こうとするのは余程の素人か超一流だけだ。
「・・・まぁ、珍しい事でもないか」
気絶したパイロットを手持ちの拘束帯で拘束するとそのまま転がしておいた。
ゴリアテのパイロットの方も似たようなものだった。応急手当はしたのですぐに死ぬような事はあるまい。
「さてと、やはり無理か」
露獲するつもりでカブキやゴリアテをいじってみたがどうにもなりそうもない。
「伍長、応答して下さい」
不意に真奈美から無線が入る。
「どうした?プロフェッサー」
ただならぬ雰囲気にゴリアテの残骸から飛び降り紅い鳳に駆け寄る。
「えっと、さっきの赤いロボットがその・・・たくさん来てます」
蒼い龍が飛び立ったのは見ていたがどうやら蒼い龍が見た映像は紅い鳳に送れるようだ。
(口調はのんびりしてはいるが)聡明なプロフェッサーが瞬時に
数を把握出来ないという事はその数は十や二十ではきかないだろう。
「あの蒼い龍はその上空にいるのか?」
「はい、その筈です」
「その蒼い龍は」
「蒼破です」
「蒼破はカブキに・・・その、赤いロボットに攻撃出来るのか?」
「判りません・・・やってみます」
暫くの沈黙、耳を澄ませてみると微かに声が聞こえる。
「お願いっ!」
「えいっ」
「ふみゅぅ・・・攻撃ってどうするんですか〜」
なにやら珍妙な努力をしているように聞こえる。
「プロフェッサー、無理ならいい、蒼破をこっちに戻してくれ、体制を立て直す」
やや強い口調で声を掛ける。
「はっ、はい。えっと、戻ってきて、蒼破」
慌てた様子で蒼破に指示を出す。
困惑した様子が無い所からどうやら蒼破は素直に真奈美の言う事に従っているようだ。
「プロフェッサー、さっきの三機目は動かないのか」
「はい、全く言う事を聞いてくれませんでした」
先ほどの声≠ェ呼んでいたのは真奈美一人、この紅い鳳にコクピットがあったという事は
おそらく(非常識な事だが)蒼破という蒼い龍と三機目はAI制御の無人機という事になる。
「一旦風穴まで引こう。山下さん達を放っておく訳には行かないだろう」
言いつつ紅い鳳の首辺りにしがみつく。
「はい、あの、そこで大丈夫ですか?」
心配そうな真奈美の声
「問題ない、コンテナの所まで連れて行ってくれ」
しっかりアーマーマグナムは持って来ている。愛用品というほどでも無いが捨て置く意味もない。
この状況では貴重である使用可能≠ネ武器だ。
「此処で良いんですか?」
無線から聞こえてくる真奈美の声だ。
「あぁ、プロフェッサーは戻って山下さん達を避難させてくれ。
あと念の為、蒼破は上空から様子を見ていてくれると助かる」
コンテナ車の脇に降り立つと助手席のシートを動かす。
「はい、わかりました。・・・山下さん達の避難が終わったら戻ってきますから」
振り絞るようにしてその言葉を紡ぎ出す。
「あぁプロフェッサー、此処で待っていてくれ」
シートの後ろから2m近い銃身を持った大型のライフルを取り出す。
続いて助手席のシート下からグレネードランチャーを一門、刃渡り80cmはある大振りのコンバットナイフ二振り、
投擲式のプラズマ爆雷二基、使い捨ての二連装ミサイルランチャー一門に手榴弾一ダースを次々と取り出した。
右肩にロングライフル、左肩にグレネードランチャーを吊ると右大腿部にアーマーマグナム、
左大腿部にプラズマ爆雷を括り付け、両腰にコンバットナイフ、左肩にグレネード用の弾帯、
右肩に手榴弾を掛けると左手にミサイルランチャーを抱える。
対人用の武装は唯一、オートマティックの拳銃一丁のみ。総重量はゆうに50kgを超えるだろう。
「さて、行くか」
ガチャリと音を立てる各武装をよろけもせずに持ち上げるとまるで重さを感じさせない足取りで歩き出す。
この樹海は溶岩で出来た天然の塹壕だらけだ、アンブッシュ(潜伏)は容易い。
相手もまさか生身でTAに挑む者が居るとは思っていないだろう。
ゴリアテ三機の残骸と拘束した操縦者を転がしてあるあたりの近くに潜む。
ついでにカブキの操縦者も一緒にして置いた。
この手の機動兵器に無線のオープンチャンネルをカットする機能は付いていない。
つまり発信しないまでも受信はしていたのだ。
おそらくはこの場所を、そしていくら拘束したといっても這いずる事くらいは出来るだろうし、
カブキの通信機は生きている、此処に一旦敵機が現れる確率は高い。
「・・・こい」
『友釣り戦法』というものがある。戦略と言うより戦術の一種だ。
行動不能になった機動兵器からSOS信号を発信し続ける、場合によっては拘束された兵士の声つきで。
そして救出に来た敵機を一つ一つ吹き飛ばしていく。別に珍しくは無い、古くは紀元前からあった戦法だ。
あまりに非人道的であり、いってみれば相手の情につけ込む戦法である。
相手が血も涙もある$l間である事を何処までも利用しようというのだ。
一機目、無防備に歩み寄ってきた所をミサイルランチャーが頭に命中、カメラが乱れ、
一瞬、目盲状態になった相手にライフル弾数発を胸部コクピットに打ち込んで沈黙させた。
二機目、警戒した様子で近付いてきたが丁度地雷のように仕掛けておいた
プラズマ爆雷の近くを通ったのでリモコンで爆破、バランスを崩れ倒れた所へ
グレネード数発を叩き込み一機目同様ライフル弾でコクピットに止めをさした。
三機目、一機目の残骸に隠れるように現れたが
向こうからこちらも見えないのでありったけの手榴弾を放り投げて一機目ごと吹き飛ばす。
数発クリーンヒットしたらしく動きが鈍った所へグレネードを沈黙するまで打ち込んだ。
四機目、警戒したのか斥候の動きが読めなくなったのでゴリアテの残骸に向かってライフル弾一発を撃ち込んだ。
未だ操縦者達が生きていれば悲鳴の一つも上げた筈である。
たまらず飛び出した相手に向かってプラズマ爆雷を放り投げる。
投擲に適した形をした重量にして5kgほどの爆雷は熟練の兵士なら30mは飛ばす。
肩の付け根にぶつかり爆砕、右腕の機能を失った所へライフル弾数発を叩き込む。程なく沈黙。
五機目、ライフルの残弾が心許なくなってきたので(それでも数十発はある)グレネードのみで沈黙させた。
最もグレネードはこれで弾切れだ。心身共に疲労が蓄積してきた。
この程度の行為で罪悪感を抱く程では無いが、呼びかけるまで蒼破の映像を見ないように言っておいて良かった。
世間知らずのお嬢さまには少々刺激が強すぎる。
六、七機目、二体同時に現れた、斥候隊はさっきので終わり、本隊が迫ってきたようだ。
焦らずライフル弾を惜しみなく叩き込み沈黙させる。そろそろ引き際か、そう思う。
流石に二時間もあれば避難は終わっているだろう。
また紅い鳳にしがみつく事を考えると厳しいが命を懸けるほどでは無い。
三機目の超獣機は気になるが自分の任務はあくまで発掘隊の護衛だ。
それにAI制御らしい三機目は奴ら≠ノは使えまい。
引き上げようとライフルを手に立ち上がった所に突然、説明の出来無い嫌な予感≠ェ全身を覆った。
此処にいたら拙い。獣の如き本能が、全身の細胞がそう告げる。
ロングライフルをその場に放り捨て、全力で風穴の入り口、真奈美との合流地点まで走る。
「プロフェッサー、何処に居る!?」
走りながらなので叫ぶように軍用無線に問いかける。
「はいっ、もう入り口の所にいます」
突然の事に驚きの声を上げる真奈美。
「すぐに蒼破を呼び戻してくれ、オレが到着次第、逃げるぞ」
ノイズ混じりの返事を受けながらさらに言葉を続ける。
駆け抜ける間に溶岩で足や肩を擦ったが気になどしてはいられない。
大概の衝撃に耐えるはずの気密服が破け、皮膚も擦ったのか血が滲むがかすり傷である。
「2分で着く。すぐ飛べるようにしておいてくれ」
「わかりました」
必死で駆ける。嫌な予感は消えるどころか益々強くなる。
「着いた!」
「はい」
瞬間的に視界が塞がれた。どうやら紅い鳳に喰われた≠轤オい。正確に言うと此処は紅い鳳の口腔内だ。
「余り良い気分はしないな・・・」
薄明かりがさす程度の殆ど暗闇で目に付くのはおそらく熱線砲の発射口だ。
万一暴発したら即死どころか蒸発して遺体も残らないに違いない。
「すみません、そこが一番確実みたいなんです。それにこの子首にしがみつかれるのイヤみたいで」
わざわざ嘘をつく理由はないので本当なのだろうが、どうやらこの紅い鳳も高度なAIを装備しているようだ。
「外が見たいのだが、少しだけ嘴を開けるか?」
隙間に顔を近付ける。未だに嫌な予感が消えないのだ。
「はい、やってみます。・・・挟まれないように離れてくださいね」
僅かに開いた嘴の隙間から眼下を見下ろすと蒼破が悠々と空を泳いでいる。
そして突然、空に亀裂が入った。
亀裂から漏れ出した光は地上を焼き、続いて一条の流星を吐き出すと開いた時同様に突然、閉じた。
光に数十体のカブキが焼かれたようだ。そして流星が地面に突き刺さる。
「・・・伍長、これは・・・?」
「オレにもわからない。一体、何が起きたんだ・・・」
第2話「富士の樹海に眠る者」了