説明

通常、脊髄には空洞も髄液もありません。
その脊髄に空洞ができ、髄液が溜まってしまい
神経を傷つけていく。
それが「脊髄空洞症」です。

私たちの体は脳が出した命令によって動いています。
脳が、「手を動かせ、足を動かせ」と言っているので
物を取ったり、歩いたり出来るわけです。

脳が言った事を伝える役目をするのが神経です。

神経は脳が
「右足をだして」と言えば右足に
「左足をだして」と言えば左足に命令を伝えにいきます。
そうすることによって足が動き、歩くことが出来ます。

神経には
右足に伝える係
左足に伝える係
右手に伝える係
左手に伝える係
   ・
   ・
   ・
と、とにかく細かく役割が決まっています。

他にも
手が物に触れたら、物に触れた感触を伝えたり、
やけどをしたら、熱い!という
温度の情報を脳に伝えたりもします。
「外」から受けた情報を神経を使って脳に伝えることにより
体は色々なことを感じることが出来ます。

その神経がたくさん集まっているのが脊髄です。
脊髄は脳と繋がっていて、背骨の真ん中を束になって通っています。
そこから体のあちこちに枝分かれしていて、
「あれやって、これやって」と命令を伝えています。

その大切な神経が傷ついたり、切れてしまうと
脳からの命令や
体から受けた情報を脳に伝えることが出来なくなってしまいます。
「あれやって、これやって」が出来なくなるわけです。
そのため、体が動かすことが難しくなります。
また、物に触ったこという情報も脳に伝えることが出来なくなるので
物に触れたことや、その温度が分からなくなったりします。


本来の脊髄はたくさんの神経が1本の棒のようになっています。
その棒に穴が空いて筒のようになってしまうのが空洞症です。

どうして脊髄に空洞が出来てしまうのか分かっていません。
脳や脊髄の周りには髄液というものが流れていて、
保護、栄養、代謝などの役割をしています。
その髄液が通る道を何かに邪魔をされて
(キアリ奇形により、脳が下がっているなど)
流れなくなってしまうと空洞ができると考えられています。

「脊髄=神経」の束に穴が空いてしまうのですから
当然、神経そのものが傷ついてしまいます。

次に脊髄の周りを流れることが出来なかった髄液が
どこからか脊髄の空洞に入ってきてしまいます。

道をふさがれた髄液は流れることが出来ず、
どんどん空洞に溜まっていってしまいます。

脊髄は背骨の中にあります。
空洞の周りは神経、その周りには骨があるので
空洞内に髄液が溜まっていくと、
髄液と骨に挟まれた神経はどんどん圧迫されていきます。
そうすることによって神経は傷ついていきます。

空洞の出来た場所や傷ついた神経、
どれくらいの期間どれくらいの圧迫を受けたかによって
症状もさまざまです。
足を動かす神経を傷つけられた人は足に、
手を動かす神経を傷つけられた人は手に、
たくさん傷つけられた場合は症状も多くでます。

空洞の大きさと症状は人によって違います。
症状の出る年齢も様々です。

現在の治療方法は、外科的手術しかありません。
空洞症の原因によって違いますが
キアリ奇形の場合は、後頭部の骨を削ることにより小脳をあげる手術を、
そのほかの場合は脊髄にチューブを入れて直接外に流す方法を行います。

いつ手術を行うかですが
空洞が大きくても症状の軽い人もいますし、
空洞が小さくても症状の重い人もいます。
決め手になるものが明白にあるわけではありません。

どんな小さな手術でもいつも100%成功なんてことはありえません。
空洞症の手術というのは
神経のすぐ近くを手術したり、
延髄(傷つけると命に関わります)の近くも手術します。
症状の進み方も人によって違います。
空洞があっても、ずっと症状も出ない人もいれば
小さな空洞であっても、症状がたくさんで出る人もいます。

この病気には「完治」というものはありません。
手術はあくまで病気の進行を 止める予防でしかありません。

その事を十分考えた上で決断することが必要です。

 


詳しい説明

 

初めに、脊髄とは、脳と繋がっていて、
脊椎(背骨)の中を通っている神経の束のことをいいます。
神経1本1本は細いですが、それがたくさん集まって太く1本の棒のようになっています。

脳から送られる命令(体を動かすなど)はこの脊髄を通り、
それぞれの神経に枝分かれして体中(命令を出した部分)に送られています。
また体の各部分から脳に送られる情報(物を触った時の感触や温度など)も、
まず脊髄を通り脳に伝わっています。

事故や病気など様々な原因により、
この脊髄が損傷(傷が付く、切れるなど)すると損傷部分から下には脳からの命令が届かなくなり、また体の各部分からの情報(感覚・温度など)も脳に届かなくなります。神経1本1本情報を伝える役目が違いますから、損傷した部分に症状が出てきます。

脊髄を損傷すると体の不自由さが出てきてしまします。
その一例として運動障害や感覚障害などがあります。
(体が動かなくなる、触った感覚がなくなる、など)

脊髄(神経の束)に空洞が出来る(脊髄に縦方向に穴があく)という事は
それだけで神経を傷をつけている、という事なのです。

また脊髄自体が中枢としての働き(命令を出す機能)を持っているので、
全身に様々な症状を引き起こします。

では、どうして脊髄に空洞ができてしまうのでしょうか?
その中に溜まってしまう髄液とは何なのでしょうか?

髄液とは脳表、脳室を満たす無色透明な液体です。
髄液(脳脊髄液)は正常時では少しずつ生産されて、
また少しずつ吸収されていきます。

脳脊髄液の役割は脊髄の保護、栄養、代謝です。
さらに神経が脳に情報を送るときにも関係していきます。
それぞれの末梢神経(体のあちこちへ張り巡らされている神経)へも循環していますので、
全身を隅々まで流れています。


この流れを邪魔をするもの(キアリ奇形・脊髄損傷など)が起きると、脊髄内部に少しずつ空洞が生じてくるといわれてます。

キアリ奇形による空洞症はルシュカおよびマジャンディー孔のあたりで小脳が下がっている状態なので、そこで髄液の流れを邪魔していることになります。

脊髄に空洞ができると、痛みを感じる神経だけがやられてしまします。

次に脊髄の空洞にどこからか入り込んでしまった髄液が溜まっていくと、その周りにある神経を圧迫していきます。(どこから髄液が入ってしまうかはわかっていません)
圧迫された神経は少しずつ傷づいてしまいます。
圧迫があまり高くなくとも(髄液があまり溜まっていなくて空洞が小さい状態でも)
何十年もたつうちに空洞周囲の組織を少しずつ損傷していきます。
その為、痛みや体の不自由が表れてきます。

神経の傷つきかたにも個々に違い、
傷ついた神経によっても症状が違います。

空洞症はMRIでしか発見することが出来ないため、
症状が出ていても発見されるまで時間が掛かることもあります。

空洞の大きさと症状の関係ですが、
空洞が大きいからからといって症状が重いわけではないし、
小さいからといって症状が軽いとも限りません。

症状も空洞の大きさも各個人違います。

現在、もっとも有効な治療法は外科的手術です。
しかし、一度出てしまった症状がなくなることは殆どありません。
それは 脊髄は他の組織と違い、一度傷つくと二度と再生しないからです。
現在、一度傷ついた脊髄を治療する方法はなく、
症状が残ってしまうというわけです。

手術により軽減するものもありますが、
手術をしても痛みが増す、
神経の働きが悪くなるなど進行が進むこともあります。

残念ながら空洞症には完治という言葉はなく、
手術は進行を止める予防でしかありません。

どんな手術にも「リスク」は付き物です。
小さな手術でもいつも100%成功とは限りません。
空洞症は神経の近くや
延髄(心臓の脈拍や呼吸運動などの反射の中枢)の近くも手術をします。

空洞があるからといって必ずしも、症状が悪化するとは限りません。
空洞が大きくなるか、そのままの状態なのかもわかりません。
空洞の大きさがそのままでも痛みや症状が出ることもあります。

その事を念頭に置き、経過観察にするのか、手術をするのか、
またその時期はいつにするのかを決断する必要があります。