「アレンくん、違うよ、その本はこっちだよ。」

「はいはーい!」

資料庫でごそごそと走り回る。

 

罰ゲーム

 

事の起こりはアレンたちが食堂で鉢合わせたこと。

ぴりぴりとした雰囲気をかもし出す神田とアレンを抑えるように、ラビがトランプを提案したことに端を発する。

なし崩し的にラビの部屋に連れて行かれ、ポーカー大会(罰ゲーム付)となった。

もちろんアレンのイカサマを防ぐためにティムが監視につけられる。

しかも、そのティムがいちいち手札に反応するため、アレンの負けは約束されたようなものだった。

そのほかは運勝負。

結果、日頃の行いの賜物か、リナリーが一位を獲得し、ラビ、神田と続いた。

そして、厳正なる抽選の結果、アレンへの罰ゲームは「一位の言うことを聞く。」だった。

「えーっと、じゃあ、明日一日手伝って?アレンくんお休みでしょ?」

それが、前日の夜。

そして翌日、アレンは資料庫にいた。

科学班の人たちが返した本をカートに載せ、元の本棚へ返していく。

さながら図書館の司書だった。

「いったいどれくらいあるんですか…」

借りるついでに元の場所に返しに行く時もあるので、すべての本、というわけではなかったが、それでもかなりのものがある。

愚痴をこぼさずにはいられないアレンだった。

それに比べてリナリーは元気なもの。

何度もしているせいか、大体の本の場所が分かるようで、すいすいと動いている。

「ほらアレンくん、これ終わったらお茶にしよう?」

ただ、かれこれ昼食に休憩を取ってからでも2時間か3時間も続けていて、なおかつアレンより仕事をこなしている彼女が、疲れた様子一つ見せないのは何故だろうか。

なんにせよ、お茶(=休憩)、という励ましに作業能率がアップするアレン。

正直本が嫌いになりそうだった彼には、効果が大きかったようだ。

「この作業やってる事務員の人には本当に同情します…」

それでもやはり、愚痴はとまらなかった。

 

 

それから一時間もすればカートの本もなくなり、無事に作業も終わる。

「お疲れ様、じゃ、お茶にしようか。」

そう言って連れてこられたのは彼女の部屋。

「!」

いくら親しい友人とはいえ、女の子の部屋に入るとあって緊張気味のアレン。

ベットにでも座ってて、といわれたものの、目のやり場に困って、視線は宙をさまよってしまう。

「アレンくんも紅茶でよかったよね?ってどうしたの?もしかして私の部屋、なんか変かな?」

それが、カチャカチャとカップを揺らしながらやってきたリナリーにはじろじろ見回していたように見えたようだ。

慌てて両手を振って否定する。

「い、いえ、そんなことないです!ただ、女の子の部屋って初めてなので…」

その言葉に、はっと赤くなるリナリー。

互いの間を、なんともいえない沈黙が支配した。

ポットやカップは目の前に引いた椅子の上においたものの、隣に座ったリナリーとの間には微妙な距離がある。

(っと、ミルク入れようか。)

頭を振って思考を切り替え、ミルクに手を伸ばしたアレン。

しかし、偶然か、リナリーも同じことを考えていたようで。そうなると結果は一つ。

「「あ」」

ミルクの持ち手のところで触れ合う二人の指。

先ほどの気まずい空気も手伝ってか、慌てて互いの手を引く。

再びの沈黙。なんともいえない気恥ずかしい時間。

しかし、それを破ったのはふわふわと浮かぶティムキャンピーだった。

ふよふよとゆっくり落下していく。

それをなんとなしに目で追った二人の視線がぶつかって、どちらからともなく笑い声が起こった。

「…フ、フフフフ…」

「…アハハハハハ…」

ひとしきり笑った後、アレンが口を開いた。

「今日は、楽しかったですよ?」

「ん。なら良かった。」

リナリーの満面の笑み。なんとなく恥ずかしくて、アレンは目線をはずす。

「あんまり、罰ゲームにならなかったですね。」

「いいんじゃない?私も楽しかったんだし、私へのご褒美ってことにすれば。」

なるほど、と手を打ったアレン。くい、と紅茶を飲み干す。

「じゃ、ご馳走様でした。ティム、行くよ…ってティムキャンピー?」

いない。さっきはふわふわと場を和ませてくれたというのに。

ドアは閉まっていたから部屋からは出ていないとして…。

二人でぐるぐると部屋を見渡してみる。

「あ、いた。そこってわっ!」

リナリーがアレンをはさんで向こう側にティムを見つけたまでは良かった。

が、飛び立とうとしたティムに、捕まえようとリナリーは手を伸ばしてしまう。

その手は届かず、前のめりに倒れるリナリー。

さらに偶然は重なるもの。

寄りかかってきたリナリーの体重にアレンが振り向く。

「え、わ、リナ…」

その先は言えなかった。

何が起こったか理解できない。

二人が自分たちのしていることに気づくまで約2秒。

互いの唇は繋がったままだった。

「……あ、あの、失礼しました!!」

離れるなり、部屋を出て行くアレン。

リナリーはその場で動けずにいた。

今彼らに共通していること、それは二人とも、顔が赤く染まっていたということ。

 

 

ちなみに、置いていかれたティムキャンピーは、室長室に来ない妹の様子を見に来た兄によって捕獲される運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、Fisher manです。ちょっとギャグテイスト。執筆時間、3時間。意外に短い。

ではでは〜。

 

                                                Fisher man