久方ぶりの日本、長野県前原町。
駅の裏にたたずむマンション矢吹をはじめ、その町並みは変わらない。
その変わらぬ町並みも、今は一面の銀世界。
空には二人、ジルと森写歩朗の二人が浮かんでいた。
吸血鬼のクリスマス
「ただいま〜。」
こっそりと窓を開けて入ってくる二人。
が、やはり思っていたとおりゴジラとカエルの合いの子のような鼾が聞こえる。
「やっぱり寝てるか。父さん寝るの早いからなあ。」
そうでなくても今は真夜中。大体誰でも眠っている。
「…でもダディの鼾の中で眠れるなんて、クラレンスさんも花ちゃんも凄いね。」
少し残念そうな森写歩朗に、話をそらそうとしたのだろう、ジルが感心したように言った。
「慣れればそうでもないよ。っと、これでよし。ジル、行こ?」
そう答えた森写歩朗はテーブルから顔を上げた。
「え、いいの?会わなくて。せっかく帰ったのに。」
驚いたように問うジルに、
「いいんだよ。書き置き残したから。それに今日はクリスマスだし。二人っきりのクリスマスもたまには悪くないでしょ。」
笑いかける森写歩朗。その言葉に、ジルは頬を染める。
「もう、森写歩朗ったら…。」
そんなつもりはなかったのだろう。
手で顔をはさんでイヤイヤするジルの様子に森写歩朗も赤くなる。
「と、とりあえず行こう、ジル。」
あたふた。
窓枠をけって、二人は飛び立った。
「しかし寒いなあ。やっぱこれだけ雪積もってるからかなあ。」
ほう、と白く残る息を吐き出す森写歩朗。
それを聞いたジルは何かを思いついたように笑う。
そして、
「し〜んじゃ〜ぶろ〜、そんなに寒いなら、私が暖めてあげるvv」
抱きついた。
「わ、ちょ、ちょっとジル!」
「きゃっ!」
突然のことにバランスを崩す。
何とか持ち直すと、ジルはえへへ〜vと笑った。
「えへへじゃないよ、ホントに。」
口調はきつくない。ただ本当に驚いたようだ。
「ごめん、ごめん。だって森写歩朗寒いって言ったから。」
「言ったけどさあ。」
まだぼやく森写歩朗。が、
「ゴメンネvvv」
ジルの上目遣い攻撃に黙らざるを得ない。
「と、とりあえずどっかに降りよ。」
赤くなった顔を見られないように、森写歩朗はあるビルへ降下し始めた。
「あれ、ここって…」
降り立ったビルは、なんと、
「…ああ、そうだね。懐かしいな。」
ジルが初めて森写歩朗に、吸血鬼になって。私と一緒に生きて。と迫った場所だった。
少しすまなさそうに俯くジル。
「あの時は、ごめんね、森写歩朗。」
「いいよ、もう。あの後、僕が死ぬまで何もしなかったじゃないか。
それに、あの時だって僕を助けるためだったんだから。」
俯くジルに笑いかける森写歩朗。ジルが顔を上げ、少しの間二人は見つめあう。
そして、つつつ、と体を寄せるジル。森写歩朗は何も言わず、頬をかきながら、赤くなった顔を正面の銀世界に向けた。
…沈黙が、流れる…
ジルが森写歩朗の方に顔をのせた時、森写歩朗がジルのほうを向いた。
「ジル…」
「森写歩朗…」
どちらからともなく互いの名を呼び合い、顔を近づける。
目を閉じ、二人の唇が合わさった。
それを見守るは、空の月。それを知るは、白く覆われた町並みのみ……
はい、いかがだったでしょうか?クリスマス。極甘々を目指したのですが、どう思います?
リクエスト内容は、僕血で私が苦しむくらいの甘々。季節がら、クリスマスにしたのですが。
もう少し頑張るべきだったかな〜と思っております。本当はクリスマスまでに書き上げるつもりだったんですがね…。
氷乃様物足りないでしょうが、もらってやってくださ〜い。それではまた。
Fisher man