「近寄らないで!!!助けてくれたのは礼を言うわ!!でも、これ以上私に関わると迷惑がかかるの!!だから早く本を返して!!
私といても…悪いことしか起きないのよ!!!」
出会い
ある日の昼下がりだった。
大海恵は、港でロケを行っていた。
「じゃあ、恵ちゃん。情の撮影はこれで終わりだから。また今度よろしくね〜。」
「は〜い。それじゃあお先に失礼しまーす。」
スタッフに挨拶し、少し風にあたろうと波止場に出てきた時だった。
チャプンチャプンと聞こえる波の音に混ざって、小さくゴツ、ゴツ、と何かがぶつかるような音が聞こえた。
何気なく下に目を向けると、朱色の髪の子が浮かんでいるではないか。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
慌てて引き上げる。
「大丈夫!?」
揺さぶってみるも、返事は無い。
「誰か!誰か来て!!」
その声に反応して、何人かスタッフが走ってきた。
「どうしたの恵ちゃん。」
「子供が、海に浮かんでたの。意識がないみたい。」
「う、う〜ん。」
がやがやとした喧騒のせいか、少女が目を覚ました。
「!!ここは?あなたは!?」
慌てて飛び起き、離れようとする。しかし、
「痛っ!」
うずくまってしまう。
「ほら、無理しないの。すいません。今日は私が預かって帰りますから。」
その様子を見て、スタッフに告げる。
「じゃあよろしく頼むよ。」
そして、少女を抱き上げ、
「な、なにすんのよ!!」
と言った抗議は無視して、家に連れ帰った。
「ハイ、手当て終わり。」
「…」
そっぽを向いて何も言わない。
ここは、恵の借りているマンション。
あの後少女をつれてきて、風呂に入れて手当てをした。
「あなた名前は?私は恵。大海恵よ。」
「…」
何も答えない。先ほどからずっとこの繰り返しだ。
「名前聞かないと、話しにくいでしょう?」
「…ティオ。」
「ティオちゃんね。何であんなとこにいたの?」
「…」
「どこから来たの?」
「…」
「ご両親は?」
「…」
やはり何も答えない。
埒が明かない、と恵がため息を一つついたときだった。
不意にティオの提げていたカバンに目が止まる。ふたが開き、そこからは一冊の朱色の本がのぞいていた。
手に取りカバンから出すと、ティオの様子が変わる。
「だめ!!」
あまりの剣幕に一瞬静止する恵。
「だめ!!その本には触らないで!!」
「ど、どうしたの?」
ティオの方に伸ばした恵の手を思い切り払いながら叫ぶ。
「近寄らないで!!!助けてくれたのは礼を言うわ!!でも、これ以上私に関わると迷惑がかかるの!!だから早く本を返して!!
私といても…悪いことしか起きないのよ!!!」
そこで何かを思い出したのか、両目からは涙があふれていた。
「私は魔物の子。魔界の王様を決める戦いの100人の王候補の内の1人なの!
自分以外はみんな敵。そんな状況の中で戦っていかなきゃならないの…。」
「…」
「本には呪文が書いてて、それを人間が読むことで術が使える。それを使って本の燃やしあいをする。それに…」
そこでいったん言葉を切る。その先はつらいことなのか、再び涙を流した。
「それに、平然と人を傷つける子だっているのよ!だから私がここにいるとあなたにも迷惑がかかるの!!」
「…」
「私は…関係ない人を傷つけたくないの…。だからお願い!本を返して!!」
俯いて泣き崩れる。
恵は、ティオに近づき、優しく微笑んだ。
「…ティオちゃん…この本ってだれにでも読めるの?」
「ううん。一人だけ。」
「じゃあ、これを私が読めたら、関係ない人じゃなくなるわね。」
そう言って、ぱらぱらとページをめくっていく。
「えっ…ちょっと、だめ!やめて!!」
「あった。ここなら読める…。第一の術…」
「だめ!!読んだら術が出るって言ったでしょ!」
本をひったくる。
「あ、ごめんなさい。でもこれで私は関係ない人じゃなくなったわね?」
「…分かったわよ…。でも、本当にいいのね?どんな大怪我するかも分からないし、最悪死ぬかもしれないのよ?」
「それでも、あなたの本は私しか読めないんでしょ?」
「…うっ。」
「だったらやるしかないじゃない。ね、ティオちゃん。」
ぱちりと一つウインク。
ティオは潤んだ目を見られないよう向こうを向いてしまった。
「馬鹿、ティオでいいわよ。あなた私のパートナーでしょ。私も恵って呼ぶから。」
鼻声で精一杯それを隠して。
その様子に、恵は自然と笑みをこぼした。
「はいはい。」
こうして、朱色の少女の長い戦いが始まった。
がんばりました。いつの間にか打ち解けちゃったのが少し残念です。4巻の扉と、8巻の外伝を参考にしました。
『出会い』というお題で、ガッシュの出会いは書かれてるからと考えて、最初に浮かんだのがティオでした。
出来は悪くないってトコですかね?感想、掲示板によろしくお願いします。
Fisher man