「恵殿の手紙を受け取ってからずっとだぞ?」

電車の中で

 

日曜日の朝6時半。

「ガッシュ、準備は出来たか?」

「ウヌ!はやく行くのだ!」

身支度を整え、玄関を出る清麿とガッシュ。

なぜこんな時間から二人は出かけているのか。

その理由は一通の手紙からだった。

「拝啓 高嶺清麿様

お久しぶりです。お元気でしょうか?こちらは仕事に追われて忙しい毎日です。

…なんて、堅苦しいのはここまでにして、本題です。

この間モチノキ町の近くに、ドームが出来たでしょ?サクラドームだったかな?

そこで、ライブがあるの。チケット同封してるから、(もちろん二枚ね。)見に来ない?

返事はティオに伝えてね。待ってます。

                                          敬具    大海恵」

その手紙が来たのが一週間前。慌てて予定を確認し、何も入ってないことにほっとした。

ティオに伝えたのはその翌日。その後、待ち合わせを決めたり、当日の持ち物を確認したりした。

そんなことを電車の中で思い出して苦笑する清麿。

ガッシュは、座席にひざ立ちになり、過ぎていく景色を眺めている。

「のう、清麿。」

それまでずっと外を眺めていたガッシュが、不意に声をかけた。

「今日は、らいぶ、というやつなのだろ?うまくいけば私もテレビに映れるかの?」

ワクワクと目を輝かせている。その様子に清麿は苦笑した。

「バカ、俺達は客席から見てるだけ。映ったとしても一瞬だよ。」

「ヌゥ、そうか、残念だの。」

うなだれるガッシュ。

と、その時、車内アナウンスが、あの独特の鼻にかかった声で、聞こえた。

「つぎは、サクラドーム、サクラドーム前です。サクラドームに御用の方は、ここでおおり下さい。」

「ガッシュ、降りるぞ。」

荷物をつかみながら言う清麿。しかしガッシュは少しニヤリと笑った。

「ヌ、しかし清麿、なんだか嬉しそうだのう。」

「そ、そうか?」

確かに嬉しそうだ。その証拠に、少し頬が緩んでいる。

「ウヌ、確か手紙を受け取ってからずっとだぞ。」

どうもこのうれしげな様子は、一週間も続いていたらしい。

「恵殿に会えるから浮かれておるのだな?」

「そ、そんなことは…」

清麿は語尾を濁すが、

「ヌゥ?本当にそうか?」

などと、ガッシュの追求は続く。

そのうちに、電車がホームに滑り込んだ。

これ幸いと、駆け出す清麿。

「ヌ!待つのだ清麿!!」

そのあとを、ガッシュは慌てておいかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Fisher manです。これは、YOU様に差し上げた、『キモチ、そして始まり』の冒頭部分として書いたものでした。

だらだら長く没になったものから、一部抜粋して、アップしたものです。

ところで、サクラドーム。もう駅が出来ているなんておかしいだろうとお思いの方もいることでしょう。

これには、わけがあります。実は、サクラドームのところには、元々駅があったのです。

『サクラ広場』という駅が。しかし、そこにサクラドームがたち、この際だから駅の名前も変えちまおうと画策して、『サクラドーム前』になったんです。

そんなのありえるか!って人もいるでしょう。しかし、これと似たようなことが管理人の故郷であったのです。

かの有名な『坊○〇○スタジアム』、あそこは元々、『市○』という駅でした。

しかし今では車内アナウンスも、駅の看板も『○坪野球(のぼーる)』になったのです。

まあ、別にどうでもいいんですが。実際あったっていう報告です。

ではまた。

                                                             Fisher man