5章:復活
走り続けているナネル。その後ろをつかず離れず、グロストが追いかけていた。
「魔法陣展開!!火炎魔法・スルト=ガードル!!」
グロストの足元から、幾条もの炎の帯が伸びる。
「っ燃えろぉ!!」
ボンと音を立て、捕らえたグロストと共に帯が爆砕し、煙が上がる。
「っはぁっはぁ、これでどう…?」
よほど魔法を乱発したのだろう、かなり息があがり、顔中汗だらけだ。
そんなナネルの期待も空しく、立ち込める煙の中に人影が。
「っくっ!!」
再び走り出すナネル。
もう、幾度繰り返しただろうか。魔法を唱え、仕掛け、喰らわせる。
大方の戦闘員はそれで倒れたのに、それでも倒れないグロストから逃げ、また唱える。
どこをどう走っているかなどとうに忘れてしまった。
自分はどこにいるのか。
高く生い茂る木々に閉ざされ、港のほうに向かっているのか、ダレンの家のほうに向かっているのかさえ分からない。
周りには木々がそびえ、後ろからはグロスト。もはや、八方ふさがりか。
とその時、ナネルの目に光が見えた。
「出口…なの…?」
残り少ない体力を振り絞ってそこへ走る。
しかし、その先にあったのはダレンの家、では無く、港。それも、戦闘員とデロンが待ち構えていた。
「ようやく連れてきたかグロスト。よくやった。ご苦労だったな。」
「嘘…」
顔から色が失せ、ガクリとひざを折る。
「あれほど走って、魔法を唱えたんです。もう抵抗する気力も無いでしょう。」
後ろからはグロストが。
さらに戦闘員が周りを囲み、再び森へ逃げ込むことも出来ない。
「…はぁ、はぁ…」
何よりナネルに気力が無い。絶体絶命、である。
「さて、セレートを渡してもらおうか。」
じりじりとデロンが詰め寄る。
それに合わせて、あとずさるナネル。
だが、戦闘員はそんなにたくさんいない。つまり、必然的に円は小さくなる。
ナネルの背中はすぐにグロストの足にぶつかった。
「いいかげんに、あきらめたらどうです?」
グロストがナネルをつかみ上げ、デロンが高笑いしながら近づいてくる。
(ここまで、か…)
ナネルが観念した時だった。
どこかから声が響く。
「風虎剣術、風切(かざきり)!!」
その声と共に、幾つもの風の刃が降り注ぐ。
「なっ!!」
慌てて飛びのくデロン。
そのまま風の刃はグロストの周りに突き刺さり、砂煙を上げる。
「くっ!誰だ!!」
砂煙で視界が遮られ、何も見えない。
「くそっ、どこだ!!」
突然、砂煙から人影が飛び出してきた。
「ちっ、後ろか!!」
振り返らずにかわすが、
「ぐぁ!」
かわしきれず、ナネルをつかんでいた右手首を叩かれる。思わずつかんでいた手を緩めてしまった。
「しまった!」
「きゃぁ!」
ナネルが落下し、しりもちをつく。
と、人影はナネルを拾って背負い、大きく高く飛んだ。
「ナネル!落ちないようにしっかりしがみついて!!」
どうしてこの人が、自分の名前を知っているのか不思議に思いながらも、言葉に従う。
しがみつくときにチラリと顔が見えた。その顔は、
「ダレン!?」
だった。
「え、嘘!?何で!」
色々聞きたかったナネルだったが、
「話は後!」
それは遮られた。
そして、ダレンは剣を上段に構え、
「炎鳳(えんおう)剣術、軻遇突智(カグヅチ)!!」
剣を振り下ろす。それと共に、まるで火炎放射のごとく炎が一直線に噴き出し、グロスト目掛けて伸びていく。
「ハッ、ただ真っ直ぐ伸びてくるだけの攻撃をかわせないとお思いですか!」
グロストは造作もなくかわした。
かわされた炎がその隣に突き刺さった。
「なっ!?」
文字通り突き刺さった炎を見て、グロストの顔がゆがむ。
「残念。ただ真っ直ぐ伸びるだけじゃないんでね!!」
着地したダレンがニヤリと笑い、
「破っ!!」
掛け声と共に横一閃。
横薙ぎの炎にグロストの体は吹き飛ばされ、そのまま森へ突っ込んだ。
そして炎は、ダレンが息を吐くのに合わせて、火の粉となって霧散した。
「ところでナネル、いつまでしがみついてるの?少しずつ絞まってきてるんだけど…」
「あ、ご、ごめん。」
慌てて離れるナネル。その顔は赤く、わたわたと何かをごまかすように両手を振る。
しかし、そんな様子を気に留める余裕も無いのか、ダレンは剣を正眼に構え、真っ直ぐに正面を見据える。
その先では、デロンが感心したように手をたたきながらこっちを見ていた。
「ほお、あれで生きているとはな。たいした生命力だ。だが、運が無い。結局ここで私に殺されるのだからな。」
言うが早いかナイフを飛ばしてくる。
「ナネル離れて!」
そう言い放ち、
「喰らえ、風虎剣術、風切(かざきり)!!」
ナイフを打ち落とす。
すると、ナイフと風切が衝突した途端に爆砕した。
「むっ、俺の自慢のナイフ(ラフクレスト)を砕くとは、その剣は自在銀(オル・メタル)か。
こんな島にも俺のナイフを砕くほどの自在銀師(オル・メタラー)がいるとはな。楽しい限りだ。」
今度は間合いを詰めてきた。
「そりゃどーも。」
ダレンも一気に詰め寄って、思いっきり剣を振り下ろす。
デロンは、それを剣で受け止める。
「何!!」
「驚いたか?無理も無い。自在銀(オル・メタル)の型は自在銀師(オル・メタラー)一人につき一種類というのが通例だからな。
私の型はナイフだと思ったのだろうが、残念だったな。これが私の属性『鉄』の能力だ!!」
ダレンを押し返し、少し距離をとる。
ダレンもバランスを崩さず、踏みとどまる。
「なるほどね。あんたの特殊能力は武器の大きさを変えること。ナイフサイズも剣サイズもお手の物ってか!!」
低い姿勢で突っ込み、切り上げる。
だがデロンはニヤリと笑い、
「惜しいな。数もだ。」
もう一本同じ剣を作って、斬りつけてくる。
「なっ!」
何とかそれをはじき、そのまま何合か切り結ぶ。
が、手数の差か、徐々にダレンがおされている。
「くおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「フハハ、どうした小僧、防戦一方だぞ。お前は所詮この程度か。やはりお前には運が無い!!」
剣の柄で裁くのが精一杯のダレン。
その時、
「我、水龍リヴァイアスの名において命ずる。水よ、数多の弾丸となりて、我が敵を打ち砕け!!その身を残らず消し飛ばせ!!流水魔法・アクエリアス=ブリッド!!」
デロンに背後から、アクエリアス=ブリッドが炸裂する。
「ぐあっ…」
「私が出来るのはここまでよ。これで決めて!」
ナネルが倒れながら叫ぶ。
デロンの攻撃の手がやんだ。その隙をダレンは見逃さない。
「OK。だりゃ!」
思いっきり蹴り飛ばす。
そして自分も後ろに下がり、
「これで終わりだ!土亀剣術、衝裂山!!」
地面に剣を突き立てた。
そこから、地割れがデロン目掛けて走る。
「なめやがって!ぶっ殺してやるよ!!」
起き上がって、地割れを避け、こちらに走ってくる。
ダレンは、剣を刺したまま叫ぶ。
「開!!」
声に合わせて、地割れが広がった。
「これがどうしたと言うんだ!!」
これもかわし、ダれんのほうへ突っ込んでいく。が
「な、どこへ行った!?」
剣のところにダレンの姿が無かった。そして、
「こっちだ!」
いつの間にか背後に回ったダレンに、
「せーのっ!!」
地割れの中に叩き落された。
「閉!!」
と、ダレンが拳を打ち鳴らすのと同時に、地割れが閉じた。
「もういいよ、セレート。」
その裂け目もダレンがセレートを腕に戻すと見えなくなった。