6章:決意
「殺したの?」
離れていたナネルが寄ってきた。
「いや、地下水脈に叩き落しただけだから、死んでないと思うよ。多分明日辺り、海に浮かんでるんじゃないかな。」
ナネルを安心させるように笑うダレン。
「そう…。」
ため息を一つ。それから、
「それにしても驚いたわ。ダレン、死んだとばかり思ってたのに。どうやって生き延びたの?」
生きていたことを知ると浮かんでくる疑問をぶつける。
刀身がすべて埋まるほどナイフが深く刺さったのだから、確実に心臓に達しているはずである。つまり致命傷だ。
死んでないほうが人間としておかしい。
「ああ、それは、」
答えるダレンの声に重なってもう一つ別の声が聞こえる。
「それは俺とセレートが助けたから。」
その方向を振り返ると、セイルが浮かんでいる。
と、それを見たダレン、
「セイル!!お前また出たのかよ!しつこい奴だな!!」
「何ィ!?お前命の恩人に向かってなんだその言い草は!!そもそも俺はお前の先代だぞ!?少しは敬うってことをしろよ!」
「やかましい!!」
ぎゃいぎゃいと言い争いを始めてしまった。
その横で一人驚いた顔のナネル。
「ダレン、セイルってまさか、その方ってまさか…」
よほど驚いているようだ。口元に手を当て、言葉を続けられない。それでも何とか続きを吐き出す。
「シュルズリー=セイル様なの……?」
その様子に気づき、言い争いもいったんストップする。
「様ぁ?こいつ確かにシュルズリー=セイルだけど、様つけるほど偉いの?って痛い痛い耳引っ張るなって。」
ズルズルとダレンを引っ張ってセイルから少し距離をとり、耳打ちする。
「馬鹿!!あの人はねえ、大陸戦争を終わらせて英雄で、なおかつ私のご先祖様の初代リンクス、シュルズリー=セイル様よ!!
今の平和作ったのはあの人だって言ったって過言じゃないんだから!!」
「嘘だろ!!セイル、お前そんなに偉い奴だったのか!?」
信じられないと、顔にペンキで書きなぐっている。
「そうだよ。ちっとは敬う気になったか!」
得意げに腕を組むセイル。
「全然。」
しかし、ダレンに敬う気はまったくないようだ。
「なんだと!!」
放っておくとまた言い争いになりそうなので、その前にとナネルはダレンを押しのけて話し出す。
「セイル様、命の恩人ということは…」
「ああ。ダレンが俺の後継者、2代目リンクスだ。」
「そうですか。」
そこまで話してダレンを話に引き込む。
「ダレン、選択のときよ。私と行く?それともここに残る?」
話に引き込まれ、突然聞かれた質問。あいかわらず疑問符を2、3個浮かべている。
「は?行くってどこへ?」
「私の実家。」
「なんで?あ、人探しに協力しろって言うんだろ?」
「違うわよ。」
ナネルは一旦言葉を切って、ため息を一つつく。
「私の探している人がダレンだったの。」
「は?」
「まだ行ってなかったけど、私の探してる人はセレートを使える人物、つまりアナタだったの。
探してる理由はセイル様から聞いてるわね。」
「…ああ、通りでセレートが人探しの唯一の手がかりなわけだ。」
ダレンが、いまさらのごとく、大きくうなずく。
「そう。手がかりはセレートを使えるってことだけ。どこにいるかも、どんな人かも、性別、年齢だって分からない。ましていつ見つかるかなんて…。でも行くしかなかった。世界のために。唯一の希望は自在銀(オル・メタル)がその使い手と呼び合うってことだけ。だから、必ず見つかるとは思ってたけど、まさかこんなに早く見つかるなんて思わなかった。」
言い尽くしたのか、そこで言葉を切るナネル。
そしてセイルを見て、ダレンもため息一つ。
「じゃあセイル、さっきの問いはあの白い所でやった、力が欲しいか、世界のために戦えるかって問いと一緒って事?」
「そうだよ。」
「そうか。なら答えは決まってる。行くよ。もう決めたんだ。」
さらに続ける。
「だって、俺しか出来ないんだろ?なら、俺が行くしかないじゃない。」
決意の瞳。
「アハハ、いいの?かなり過酷な旅になるわよ?世界を救う旅なんだから。それに、リタイヤは禁止よ?」
からかうように笑うナネル。
「そんなこと言っても俺以外に出来る奴いるの?」
ダレンも笑い返す。
「それもそうね。じゃあ、これからよろしくね、二代目リンクス、シーバ=ダレンさん?」
そう言って差し出された手を、
「ああ!!」
固く握り返した。
そして、いつのまにか蚊帳の外に出されていたセイルは、
(どうやら、二代目はなかなか頼もしいようだ。俺の子孫もそれなりに有能そうだし。
しかしこの先、道のりはかなり険しいだろうが協力してがんばるんだな。)
じわじわと消えて行った。