始まりは一本の電話だった。
「清麿君、明日、会えない…?」
二人
「待ち合わせは、ここ、だよな…?」
ポケットからメモを取り出し確認する。
事の起こりは昨日の夜。
突然、恵から電話があったのだ。
待ち合わせ場所と時間を告げると切れてしまったが。
と言っても、時間より10分も早く来てしまった清麿だった。
「清麿君。」
不意に、後ろから肩をたたかれた。
振り返ると、サングラスで顔を隠した恵がいる。
「恵さっ、むぐ…」
「わわ、しーしー!!」
名前を呼ぼうとした清麿の口をあわててふさぐ。
「むぐ…、で、どうしたの突然?」
「あの、えっとね…」
もじもじと何かを隠しているような、後一歩が踏み出せないでいるような。
赤くなって、バッグを探っている恵。
「えっと、これ!」
意を決したようにバッグからきれいにラッピングされた箱が取り出される。
「…俺に?」
突然のことに戸惑う清麿。
「うん、ティオが清麿君、今日誕生日だって言ってたから…」
「あ…」
そういえば、二、三日前にティオに伝えた気がする。
しかし、まさか、恵から誕生日プレゼントを貰うとは思わなかった。
あの国民的アイドルから、である。
「恵さんありがとう。開けてもいい?」
一体何をくれたのか。その事が気になって仕方がない。
恵の了承を得、包みを解く。
そこに入っていたのは、細い銀のチェーンに、星のあしらわれたネックレスだった。
「気に入ってくれた…?」
「うん、ありがとう。」
「そう、よかったぁ。いらないって言われたらどうしようって思ってたんだ。」
ほっと胸をなでおろす。
「あ、つけてあげるね。」
すっと近づき、首に手を回し、ネックレスを清麿にかける。
遠巻きに見れば抱きついているように見えなくもない。
実際に抱きついているわけではないので、すっと離れたが。
「恵さん、これからどうするの?」
清麿の問いに、
「仕事があるから東京に戻らなきゃ。」
残念そうに答える。
「そっか。じゃあ、駅まで送るよ。」
そういって歩き出した。
さりげなく、手を差し出す。
恵はうれしそうに腕を組む。
照れたように頬を掻きながら、清麿は拒むことなく歩いて行った。
しかし、事はまだ終わらなかった。
翌日の学校。
清麿が教室に入ると、わっと人が集まってきた。
あっという間に囲まれる。
「な、なんだよ。」
総じて、みんながニヤニヤしている。
「高嶺ぇ、お前にも春が来たんだな。」
「はぁ?何だよ突然。」
「とぼけないでよ、昨日公園で抱き合ってたんでしょ。」
「はい?」
「だーかーらー、とぼけんなって。その後、腕組んで歩いてたの、部活帰りの山中が見てんだぜ。な、山中?」
「!!」
「おう!この山中様の目にかけて、あれは高嶺だった!間違いない!!」
「(しまった…見られてたのか…。)」
「どうなんだぁ?高嶺ぇ。」
クラスメイトの追求は激しくなる。
その時ちょうどチャイムが鳴った。
それを境に、我先に席へ戻る生徒たち。
ちょうど、学担も入ってきた。
「ほい、席につけよー。」
学担の登場でこの場は丸く収まった。かに見えた。
そして、あっという間に放課後。
放課後、清麿がうちに帰ると、ティオが遊びに来ていた。
「清麿ー、恵に何もらったの?」
部屋に入ったとたんに投げられた疑問に、清麿は首を傾げる。
「何もらったのって、ティオ聞いてないのか?」
ティオは、その疑問にふくれっつらで答える。
「だーって、清麿にばらしそうだからって、教えてくれなかったんだもん!!」
ブーブーと不満を並べるティオ。
隠されたことがよほど悔しいらしい。
「分かったよ。ほら、これだよ。」
シャツの首元から昨日のネックレスを引っ張り出す。
「へー、きれいね。でも清麿、これ学校にしてったの?」
少し清麿が赤くなる。
「ああ、なんか外しとくのがもったいなくてさ。シャツの下なら誰も気づかないだろうと思って。」
「ふーん、ご馳走様。後ね、今日恵がヌージックポートに出るから見てねって。」
さらっと冷やかし、用件を伝えるティオ。
ちなみにヌージックポートとは生放送の歌番組で、それなりにプライベートなこともトークする番組である。
私生活やら、恋愛関係などを差し支えのない程度に。
「…生放送ってことは、その時間もティオはうちにいるってことじゃないのか?」
清麿の素朴な疑問に、
「ああ、そっか。」
ぽんと手を打つティオ。
そしてガッシュはよせばいいのに、
「ウヌゥ、ティオは忘れておったのだな。」
一言漏らす。
分かっていることでも改めて人に言われると、悪いことなら特に、人間(?)腹の立つものである。
当然のごとくティオの手がガッシュの首に伸びる。
「うっ、うるさいわねぇぇぇ…。」
「ウヌゥゥゥゥ…」
ギリギリと、実際音を立てて首が絞まっている。
いつものことではあるが、やはり清麿もひやひやするのか、止めに入る。
「コ、コラ、ティオ、その辺にしとけ。ガッシュだって悪気はねーんだし。」
「…そうね」
パッと手を離す。
「ウ、ウヌゥ、死ぬかと思ったのだ……」
「余計な事言うからだ。」
「ウヌ、次からは、気をつけるのだ…。」
切れ切れの息ながら、ガッシュは少し賢くなったようだ。
そして夕食後。
八時からヌージックポートは始まった。
ゲスト紹介で、恵が出てくる。
とその時、
「うわ、すっげーな。今日のゲスト豪華だぞ…。ESNAPに、CRYに、青年画像とか。やっぱ恵さん凄いんだな…」
清麿が盛大に感心している。
その物言いにティオは少し驚いたようだ。
「へー、清麿もそんなこと知ってるんだ。ちょっと意外だな。」
だが清麿は笑って否定する。
「そうでもないよ。ニュースになるようなグループしか知らないから。」
もちろん、一人ガッシュはついていけてない。
「ヌ?清麿、えすなっぷとか、くらいとか、せいねんがぞうとか、一体何なのだ?カマキリジョーより強いのか?」
二人は何も答えない。
無視して話が進んでいる。
「ウヌゥ、ひどいではないか!」
ふてくされたガッシュだが、
「お、恵さんだ。」
「ヌ?」
声に反応してテレビに向き直った。
「こんにちはー。」
「ハイこんにちはー。」
ナノリとアシスタントのアナウンサーと挨拶を交わす。
「はい、今日の恵ちゃんは、まあ、きれいな衣装に身を包んで。」
「ああ、ありがとうございます。」
「この星のネックレスなんか、結構きれいだね。」
カメラが話題にあわせたのか、少し恵の胸元による。
と、その時ティオと清麿が同時に声を上げた。
「ヌ、どうしたのだ?」
一人相変わらず取り残されているガッシュは無視される。
「このネックレス…」
「清麿のと同じ!」
そう、恵の首には清麿と同じ星にネックレスが輝いていたのだ。
さらにテレビは続ける。
「ええ、ありがとうございます。」
「で、何?このネックレス彼氏に貰ったの?」
よくあるあの、白状しなさいよ的口調で、ナノリが聞く。
「いえ、彼氏だなんてそんな…。」
恵は少し赤くなって笑う。
「何言ってんの、赤くなっちゃって怪しいな。」
さらに追求。
「これは自分で買ったんです。ある人への誕生日プレゼントとペアで。」
勢いあまったか、言わなくてもいい事を口走ってしまう恵。
慌てて口をふさぐが、この番組は生放送で、全国ネット。
とどめる間もなく全国に流れる。
「ああ、ここでもう時間だね。もう少し聞きたかったけど、歌のほうよろしくお願いしまーす。」
ナノリにうながされ、恵は席を立った。
清麿はテレビの前で、ネックレスを眺め固まっていた。
はてさて一体これからどうなるのでしょうか。
この続きはまたの機会に。
はい、やってしまいました。あまりにも前回の出来が後悔されたのでリベンジ作品です。
本当は一話完結の予定だったんですが、続き物になっちゃいました。
続き楽しみにしててください。
Fisherman