黒の教団本部・食堂
相変わらず自分の姿を埋めてしまうほどの食料に囲まれて、アレンは食事をすすめていた。
彼の食欲は、本当にとどまることを知らないのかもしれない。
「…アレンくん」
目の前に、あっけにとられた様子のリナリーが立っていた。
「あ、いあいー。」
「こら、口に物入れたまま話さないの。相席いい?」
どうぞ、と手で合図すると、リナリーは向かいに座った。
「それにしてもよく食べるよね。いつ見てもびっくりしちゃう。」
感心したようにため息をひとつ。
「…おなかがすくんですよ。ただそれだけです。」
「分かる分かる。ジェリーさんの料理もおいしいしね。」
口いっぱいにほおばり続けるアレンに、リナリーは少し苦笑した。
しばらくたわいのない話を続けながら、リナリーが半分ほど食べ終わった頃。アレンが食事を終える。
しかし、なぜか片付けようとはせず、じっとリナリーを見つめていた。
「どうしたの?」
さすがに不思議になって、尋ねてみる。
「……」
返事はない。再度名前を呼ぶと、驚いたように返事が返ってきた。
「どうしたの?」
「いえ…リナリー、あの、今度、僕に、料理作ってくれません?」
何の前触れもない、突然のお願い。驚きで、間の抜けた返事しか返せなかった
。「…どうして、急に?」
「あの、リナリーって、手きれいだし、料理も上手そうじゃないですか。だから、食べてみたいな、って思ったんです。」
邪気のない笑み。何かしらの期待を寄せられた眼差しがまっすぐに向けられていた。
「…いいけど、別に。」
まさかあの顔にイヤとはいえない。もちろんアレンは、その答えを聞いて、予想どおりに喜んだ。
「じゃあ、約束ですよ!」
うれしそうに食堂を出て行くアレン。
その後姿に、これはめったなものは食べさせられないな、と思うリナリーだった。