「ごめんね、待たせたでしょ。」

少し息を乱しながら恵が走ってくる。

「いいですよ。今来たとこですから。」

軽く笑顔で返す清麿。

いつものやり取りである。たとえ何分待っていても、恵が時間通りに来ようと。

まったでしょ?いいえ。のやり取りは変わらない。

「じゃ、いこっか。」

「はい。」

そのまま近くの喫茶店に入っていった。

 やはり昼時をはずしたのがよかったようだ。店内は意外と空いており、すんなりと座席に案内される。

「急に呼び出したりしてごめんね?」

「いいですよ。ちょうど予定もなかったんですから。それに…」

赤面して口篭もる清麿。

恵は飲んでいた水をテーブルに置き、いたずらっぽく笑いかける。

「それに?」

「…なんでもないです。」

ごまかすように、清麿はコップを口に運んだ。

その様子に、恵はクスリと笑って清麿が言わんとしていた言葉を口にする。

「私は、清麿君に会えて嬉しかったんだけどなぁ。」

ますます赤くなる清麿。その反応は恵にとって十分な確認だった。

「…お待たせしましたー。」

ウェイトレスが、会話の途切れを狙ったように料理を運んでくる。

未だ頬の赤みがひかない清麿は、それをごまかすようにもくもくと手を動かした。

それを楽しそうに見つめる恵。

そのまま四分の一ほど食べ進んだ頃。

「恵さん。」

「どうしたの?」

少し口篭もる清麿。

「今度は、久しぶりに恵さんの手料理が食べたいです。」

恵の顔がぱっと輝く。

「…うん!もちろん、いーっぱい食べてもらわないとね!」

つないだきっかけは消えたけれど。

それがつないだ絆は消えない。

ずっと、ずっと…。