「清麿くん、デートしよう。」
「……はい?」
突然恵がたずねてきた、日曜の朝。
以心伝心
そんな、突然の来訪によって引っ張り出された清麿。
つかむものだけを引っつかんで、朝食を食べる間があるはずもない。
「どうしたんです、こんな朝早くから。」
「んーん、別に?ただ、清麿くんに会いたいなぁって。」
理由を尋ねた清麿に、返ってきたのはいつもの答え。
ガッシュたちが魔界に帰ってから、恵が、清麿の下宿に来る理由はほとんどそれだったため、清麿も何も言わない。
それに、なんとなくで会いたくなってくれるということは、清麿が恵の相当深いところにいるわけで。
ということで正確には、言えない、かも知れない。
「じゃあ、どこ行くんですか?」
「お弁当持ってきたから一緒に食べよう!」
そこでようやく清麿は、恵が手に持った大きな包みに気づく。
慌てて、持ちます、と手を出したが、だめー、と笑ってかわされる。
そうこうしているうちに、いつもの公園にたどり着いた。
「学校とか、どう?」
ここで説明しておくと、清麿は中学を出た後、清太郎の勧めで東京の進学校に進んでいた。
教師たちも、学校の名が上がるということで誰一人反対するものはおらず、むしろ、その教師それぞれの形ではあったが、全面的なバックアップもしてくれた。
恵も、同居を持ちかけたが、そこは高校生、さすがに校則に触れるだろうということで、何とか辞退した。
……ただ清麿が、恵のご機嫌取りに奔走したことだけは伝えておく。
「……まあ、東京に出てきたのは地元じゃ一人ですからね。それでも、今では友人と呼べるやつもいますし、何とかなってますよ。」
何かいろいろと思うところがあるのか、苦笑する清麿。
恵も笑って、弁当の包みをほどいた。
中には色とりどりのおかずが並んでいた。
「……いつ見ても、おいしそうですよね。」
毎度のことではあるが、弁当の豪華さになんとなく気圧される清麿。
「いただきます。」
「フフッ、めしあがれ。」
箸を伸ばして、適当につつく。どれを見ても清麿の好物なあたりが、付き合いの長さを感じさせる。
「やっぱり、おいしいです。」
「ん、ありがとう。」
もちろん、お礼を言う間も箸は止めない。
と、しばらく食べ進んだとき、清麿の箸が止まった。
「どうしたの?」
「……お茶もらえます?詰まったみたいです……」
とんとん、と胸を叩き、息も絶え絶えな清麿。
恵は慌ててコップにお茶を注ぎ、手渡した。
「ふぅ……」
「そんなに慌てて食べなくたって、誰も取らないよ。」
クスクスと笑われて、清麿は少し頬を染める。
「……それだけ恵さんの料理が上手なんです。」
言い返された言葉に頬を染めるのは恵の番。照れ隠しに、もう、とだけ言って、それから二人して笑いあった。
「ご馳走様でした。」
「お粗末さまでした。」
清麿の箸を恵が受け取り、重箱を再び包んで脇によせる。
コップのお茶を飲み干して、一息ついた清麿が、真剣そうに口を開いた。
「……なんか、ありましたね?」
その言葉に、ビクッと肩を震わす恵。
「……どうして、分かったの?」
「弁当の味です。ほんの少しだけ、迷いが感じられたって言うか、なんていうか。」
そのまま言い切ればかっこいいものを、尻すぼみに答える清麿。
「……やっぱりわかっちゃうかぁ。」
ふぅ、とため息。肩の力を抜いて、苦笑する。
「さすが清麿くんだね。私のこと良く分かってる。」
言われて赤く染めた頬を、人差し指で掻く清麿。何かを言おうとして、やめた。
「うん、今度、ドラマでキスシーンがあるんだ。」
「……」
「……」
「……それだけですか?」
うなずく恵。それ以上は何も言わない。
清麿は待っているようだったが、恵はそれで充分だと感じていたから。
流れる沈黙。
「ふぅ。」
それを破ったため息は、一体どちらのものだったか。
不意に清麿が、恵の肩を引き寄せ。
「んむっ。」
少し長めの、キス。
唇を合わせるだけだったが、それでも、言いたい事は充分に伝わったようだ。
「……正解、清麿くん。」
うれしそうに満面の笑みを向けられ、頬を染めてそっぽを向く清麿。
「キスシーンの前に、キスしたかったんだ。」
そういう恵も、どこかあてられたような、とろんとした笑みである。
どうやら、思ったとおりのことが伝わってうれしかったらしい。
それか、キスして、とねだるのが、それともドラマをキスの口実にするのが嫌だったのか。
あるいはそのどれもか。
「あふ……」
恵が、口元に手を持っていく。
「眠いんですか?」
その声で清麿が振り向いた。
「……そう見える?収録ちょっと遅くまでかかっちゃって。」
そう言って清麿の口を手で塞ぐ。
先を制された形になって、口をまごつかせる清麿。
「だめだよ、私は清麿くんに会いたかったんだから。清麿くんは会いたくなかった?」
それを言われれば、もう清麿の言うことは一つしかない。
「……俺も会いたかったに決まってるじゃないですか。」
大きくため息。満足そうに笑う恵。清麿はその頭をつかむと、自分の膝に持っていった。
「えっ、わ、清麿くん?」
突然のことに慌てる恵。みあげる形になった清麿の顔に、驚きの視線を向ける。
「やられっぱなしは性に合いません。だから、おとなしく俺の膝枕で寝てください。」
少し、してやったり、見たいな笑みを浮かべる清麿だったが。
「……はーい。」
そのままおとなしく眠ってしまった恵に拍子抜けしてしまう。
数分後には、規則正しい寝息が漏れていた。どうやら、本当に疲れていたらしい。
「お疲れ様です、恵さん」
そっとその髪をなでる。
穏やかな日差しが、優しく二人を見守っていた。
はい、Fisher manです。久しぶりにキヨメグに手をつけました。すっごい久々です。
そういうわけで。なんとなくブランク感じるんですが、フライ様、もらってやってくださいな。
Fisher man