吹き飛ばされて、壁に叩きつけられたリナリー。それでも何とか目を開ければ、そこにあったのは、絶望。

 

帰りて

 

(……もうだめ、アレンくん!!)

振り上げられるアクマの武器を、自分の最期を目の前に、遠く、大陸で別れた、ここにいるはずのない少年を呼んでいた。

「哀れなアクマに、魂の救済を。」

ぎゅっと目をつぶったリナリーに届いたのは、凛と響いた、声。

その声におどろいて目を開ければ、走る白い閃光が映りこむ。

その白い軌跡も、響いた声も。そのどちらも、本来はここにあるはずのないもので。

あの時、はぐれてしまって、そのまま聞けなく、見れなくなってしまった、それでも、もう一度聞きたい、一緒に居られたら、と切に願った少年のもの。

「嘘……」

思わず、口元に手をやる。

諦めていた。大陸を出港したときに。

でも、諦め切れなかった。ブックマンの話を聞いて。もう一度会いたい、彼に触れたい、その声が聞きたい、自分に触れて欲しい、あの笑顔を見せて欲しい。

否、もう一度会う。そう、決めていた。

それでも、心のどこかでは諦めていた。

ヘブラスカの預言といっても、必ず当たるわけではない。さらに、ティムキャンピーの映像でも、彼はイノセンスを砕かれていた。

ウォンも、彼とはお別れだ、と。

信じたくなくても、これが真実。そう、自分に言い訳して。

なのに彼は。

「呼びましたか、リナリー?」

彼は、あの時と変わらない笑顔で、いつものようにやさしく自分に手を差し伸べた。

闇に映える白い髪。血のように赤い、左目の上の逆さ五芒星。それも変わらない。

驚きで動けないリナリー。アレンには、言いたいことがたくさんある。それこそ、不安や不満が、山ほど。

しかし、それらが胸のうちに渦巻きすぎて何も言えない。言っていいか、分からない。

ただ、涙だけが後から後からこぼれてきた。

「ちょ、ど、どうしたんですか?」

その涙に、アレンが慌てる。しゃがみこんで、リナリーと目線をあわせた。

「……おかえりなさい、アレンくん。」

その様子が嬉しくて、おかしくて。リナリーは、ようやくそれだけ言うと、アレンに抱きついた。

もうはなさぬように、離れなくてすむように、強く、強く。

「……ただいま、リナリー。」

アレンもそれに、リナリーの艶やかな黒髪をなでることで答えた。

一枚の絵画のように動かない二人。

ただ、アレンの団服だけが、涙をじわじわと吸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、思いつき、アレン帰還シーンです。ぶっちゃけアレリナ理想、みたいな?

自転車こいでるときに浮かんできたのですよ。

                                        Fisher man