さてさて、こう書いて、こう書いて、こう。

で、こっちにはコレ、あっちもコレで、そっちはアレ。

しっかし、こんな馬鹿でかいの書くのしんどいですねぇ。まあ、仕方ないですけど。

さて、皆さんが来るまであともうちょっとですか。もうひとがんばりいたしましょう。

 

 

観察者、試す。

 

 

学校裏の公園。

「おーい、きたぞー?」

アタシの作業が、ちょうど終わりかけたとき、皆さんがそろってやってきてくれました。

雄真サンを中心に、春姫サン、杏璃サン。小雪サンが少し後ろに控えて、すももサンから少し逃げるように伊吹サンがいて。

上条姉妹は一歩引いた位置に、あら、音羽サンと御薙先生まで。

……ところで、ハチサンが準サンに関節技かけられてるのは、どうしてでしょ、いえ、気にしちゃ駄目ですか、そうですか。

「ああ、よく来てくださいました。」

アタシも、作業の仕上げをしてから、大きく息を吐き出します。

アタシが雄真サンたちに接触してから、約一、二週間。彼らはとても良くしてくださいました。

休日遊びに誘ってくれたり、食事に誘ってくれたり。本当に、ありがたかったのです。

ですけど。

「けど、いったいどうしたんだ、こんなトコに呼び出して。しかも皆そろって、なんて。」

アタシは使命を果たさねばなりません。それが、御薙氏の望みであり、アタシの生活のため。ひいては、雄真ハーレムのためなんですから。

「いえいえ、ちょっとした用事、なのですよ。」

 

 

「さて、まあ、お話の前に、飴玉なんてどうでしょ? ちょうど全員分あるんです。」

傍野がそう言って懐から巾着を取り出す。

その中をがさがさとまさぐって、ピンクの紙で包んだ飴を配っていった。

その後、新たに取り出した1個むいて、自分の口に含む。

「で、話って?」

口をもごもごさせながら問いかけてくる準。

何も言わず、傍野が笑い返していると、突然誰かが咳き込む音が聞こえた。

皆がそちらを向くと、その先には、音羽が。

口元を抑え、もがくように体を曲げている。

その手の隙間から覗くのは、赤い、液体。

「音羽!」

「鈴莉ちゃん……」

揺らいだ音羽を抱きとめながら、鈴莉が、傍野を睨む。

口々に呼び、音羽を囲みながら、皆もそれぞれの視線を向けていた。

疑惑、詰問、困惑、怒り。それらの視線全てを受け止め、それでも薄く笑っていた。

「待ってなさい音羽。私の研究室なら何とかできるでしょうから!」

有無を言わせぬ鬼気迫った口調で、鈴莉は音羽を抱き上げる。

雄真に、後は頼む、と言い残し、一瞬だけ悲しそうなすまなさそうな表情を向けてから、その場から転移していった。

それを見届けて、皆は、傍野に振り向く。受けて彼は、それでも微笑んでいた。

「おまえ今、何をやった!」

音が出るほど強く傍野を睨む雄真。

「いえいえ別に? ただ、飴を差し上げただけですよ、少しばかり有害なものですけどね。」

「お前!?」

軽やかなバックステップ。傍野は、一歩分だけ距離を置いてつま先で地面を二度叩いた。

瞬間、世界が切り替わる。ぞわぞわと駆け抜ける寒気を連れて、桜色のドームが形成され、同時に地面に複雑な文様の魔方陣が浮かび上がった。

「こ、これは?」

体にのしかかる重圧を感じながら、誰とも無く呟いた言葉に、傍野が薄く笑って答えた。

「ああ、ちょっと特殊な魔法陣です。効果は、後のお楽しみってコトで。」

開いた扇子で口元を隠し、二三歩歩み寄る。

それに皆が警戒する様子を見止め、そこで止まった。

「さて、お話でもしましょうか。」

「ふざけるな!」

今にも殴りかかりそうな雄真を、小雪が押し止め、首を振る。

小雪の顔を見据え、雄真が悔しそうに、踏みとどまった。

「賢明です。さて、皆様。アタクシ、情報屋を営んでいる、と言いました。覚えてますか?」

どっかりと地面に腰を下ろし、マジックワンドである扇子を二本とも両脇の地面に突き刺す。

少し困惑しながら皆が首を振るのをみて、鷹揚に頷いた。

「結構。ですから、アタクシ、知ってるって話もしましたよね、二月のアレに端を発する四月の事件。」

真意がつかめない。そんな風に戸惑いながらも全員が頷く。

「ああ、違います。今はそのことを話題にしようとしているわけじゃありません。」

怪訝そうな春姫と杏璃たち。どこかぎくりとしたような顔の雄真。

「正解です雄真サン。あの事件でもう一つ明らかになったことがあるでしょう? ねぇ、小日向……いえ、御薙雄真サン。」

式守の秘宝をめぐり、今この場にいる者が二つの陣営に分かれて戦った。

そしてその終結間際。雄真が御薙鈴莉の息子である事が判明したのである。

改めて突きつけられた事実に、視線が雄真に集まる。つばを飲み込み、雄真が搾るように声を出す。

「……それが、どうした。」

「大問題です。あなたはご自分の立場を理解していない。」

大げさにため息をつく傍野。顔を上げたとき、その眉は、しかめられていた。

「何のことだよ?」

「いえいえ、人を疑わないのはよいことだなぁ、と思っただけですよ。」

息を抜くように笑う。立ち上がり、尻についた砂をはたいた。地面の扇子を両手に収め、一度広げて、再び閉じる。

「言い忘れてました。先ほどの飴、音羽サンに差し上げたものと同じです。皆さんの分は少し解けにくくコーティングしてありますけど。」

「なんだと!?」

その言葉に、一斉に飴を吐き出そうとするが、口の中に張り付いたようにどれも出てこない。

「ああ、もちろん吐き出せないように仕掛けはしてありますよ?」

「おい!」

怒鳴るハチ。

その言葉の後、傍野の姿が掻き消えた。

否、身をかがめてタックルでハチの足を刈っていたのだ。

「うおっ!?」

「ハチッ!?」

そのまま押し倒すのではなく、ハチを担ぎ上げ、高々と跳びあがる。

準の声が消えるころには最高点、約五、六メートルくらいだろうか、に達していた。

そこで、担いでいたハチを正面に振り出し、両足でわきの下を踏む。

「52の殺人技が一つ、疾風迅雷落とし!」

そのまま勢いよく落下。激突した地面では、頭部の埋まったハチが、段階を追って倒れていた。

「さて、ゲームをしましょう。アタシの頭の上に風船を設置します。少々強引ですがコレを破れれば雄真サンたちの勝ち。それまでに飴のコーティングが溶ければアタシの勝ち、です。」

呆然とする皆の視線を気にせず、ハチのことなど無かったようにパタパタと手を叩き、風船つきの帽子をかぶった。

「さて、スタートです。」

遅れて、皆もそれぞれに構えだす。

困惑と怒りの中、ゴングがなろうとしていた。

 

 

真っ先に動いたのは杏璃だった。

「いっくわよー!」

力のこもった掛け声とともに、高々と詠唱を行う。

「……エルートラス・レオラー!!」

その完成と同時に、杏璃のワンド・パエリアから、数個の光弾が飛び出した。

勢いよく迫る光弾に、しかし、傍野は驚きもしない。

軽く首を傾けて、それだけで全てを避けていた。

「なっ!?」

ばかな、と漏らす暇も無い。

「……アダファルス!」

続けざまに、こっそり詠唱していた、春姫の炎を模した魔法弾が飛ぶ。

しかし、それも。

魔法を使うことなくかわされたのである。

「……こんなもん、っスか」

がっかりだ、と言わんばかりに傍野は大げさに肩をすくめる。

「瑞穂坂一、二ってのもたいした事ないんスね。」

続けて、大げさなほどのため息。

「むっきー! なんなのよアイツ!」

「あ、杏璃ちゃん、落ち着いて……」

そこまで言われて、杏璃が黙っているはずは無かった。

なだめようとした春姫にまで食って掛かる始末で、さらに、傍野はそれを笑っている。

と、別方向からも笑いが漏れた。

「まったく。騒がしいな、柊。」

式杖・ビサイムを構えた伊吹。

そのちいさな背で、すももと準をかばい、けれども、大きな態度で笑っていた。

「ならば、コレでどうだ? 柊や神坂よりは手ごたえが……」

「ええ、分かってますよ。」

伊吹の言葉尻を、その目前で引き取る傍野。

「なっ!?」

一瞬で詰められた距離は約5メートルほどか。

そこで急な方向転換をしたのか、伊吹は眼前で傍野を見失った。

「伊吹様!?」

沙耶が叫んだときには既に遅く。

「ぬ!?」

「糸・禁・描・縄・縛・空・封」

小さく呟かれた詠唱。それによって傍野のワンド・夕霧と薫の先に光が灯る。

「きゃ!?」

そのまま描いた曲線が光のロープとなり、伊吹とすもも、準を縛り上げていく。

「式守次期当主、伊吹サンの力は重々承知してますから。この結界でも抑えられるかわかんないんで、大人しくしててもらいます。」

「く、しまった……」

歯噛みして腕に力をこめる伊吹だったが、ロープは軋むだけで緩む事もなかった。魔法も使えない。

そして、その手からビサイムを奪い念入りに縛り上げていく。

「このワンドにも要注意、でしょ?」

「クッ……」

傍野は笑って、ビサイムを伊吹の手の届かないところに置いた。

式守の式杖ビサイムは、簡単なものなら単独で魔法行使も可能なのだ。

さすがに、ここまで念入りにぐるぐる巻きにされてしまえばそれも出来ないだろうが。

「きっさまー!」

そこへ、後ろから信哉が飛び掛る。

体重を乗せた唐竹割りだ。が、傍野は、それが見えているかのように身を翻した。

「やれやれ、不意打ちで叫ぶお馬鹿が何処にいますか♪」

笑いすら含んで、楽しそうに信哉の一撃を受け流し、延髄へ一撃。

声にならないうめきをあげて、だが、信哉はそれでも倒れずに踏みとどまった。

「いやいや……おとなしくオチてくださいよ……」

傍野の驚愕に、信哉は不敵に笑って答える。

「……それは出来ない相談だな。」

再び裂帛の気合を伴って大上段から木刀・風神雷神を振り下ろしてきた。

気圧されたのか、傍野はとっさに二本の扇子を交差させて正面から受け止める形になる。

ギリギリと押し合いながら、均衡を保っていた。

「ひゅー、ここまでやるとは、さすが信哉サン。鍛えてますねぇ……」

「戯言を……!」

軽口を叩くような傍野の台詞に、信哉は一層の力を込めた。

「幻想詩 第三楽章 天命の矢」

そこへ、圧倒的な質量の光線が降り注いでくる。

着弾の寸前、信哉は傍野を蹴り、反動で射程を脱していた。

「兄様!」

「うむ、見事だ、沙耶。」

立ち上る煙を見ながら、信哉は征服についた埃を叩く。

駆け寄ってきた雄真たちも、感嘆のため息をついている。

「さすがねぇ。合図なしでもぴったり息が合うかぁ。」

「当然だ。俺たちの絆を舐めてもらっては困る。」

「兄様の考えは、何となく分かりますから。」

「伊達に双子をやってないんだね。」

少し悔しそうな杏璃と、素直に賞賛する春姫。

信哉は当然のように、沙耶は少し恥ずかしそうに受け取った。

「結局、アイツ、何がしたかったんだろうな。」

今なお立ち込める煙を眺めて、雄真がぼそりと呟く。

「さあな。説明自体いまいち要領を得ぬものであったし、不思議な奴だった。っと、そうだ、伊吹様!」

思い出したように、縛られた伊吹のほうへ、駆け寄る信哉。

「!? 信哉!」

「ぐぁ!?」

それを、横合いから蹴り飛ばすものがあった。

「はいはーい。幕引きにはまだ早いッスよー!」

完全な不意打ちで入ったドロップキック。不吉なまでに体を折り曲げ、信哉はゴムマリのように跳ね飛ぶ。

口々に信哉を呼ぶ声の中、着地した傍野は、額を腕でぬぐうと大きく息をついた。

「いやー。びっくりしましたねー。威力はたいした事なかったけど、タイミングが絶妙。」

「お、おのれ……」

木刀を支えに、かろうじて起き上がる信哉。

「だから、まあ、眠っていてくださいな。」

が、無造作に放たれた傍野の一撃で、意識を刈り取られた。。

そうして、傍野は動かない信哉を縛り上げて、伊吹の隣に転がす。

乱れた髪を整えて、パタパタと手を叩き、扇子で口元を覆った。

「どうします? 飴が溶けるまではもう少し時間がかかりますけど。」

圧倒的。そんな言葉がよく似合う状況だった。

残りは、雄真、春姫、杏璃、沙耶。

対して傍野はほぼ無傷。沙耶の攻撃魔法が直撃したはずなのに、せいぜい埃をかぶっている程度である。

「降参……はしませんよね。」

「あ、当たり前じゃない!」

杏璃たちは圧されていた。相手はただ立っているだけなのに。

「では、仕方ありません、か。――浮・吸・弾・翔」

ため息をつく傍野。クルリ、と手首を使って扇子で宙に円を描き、その軌跡から球が起こる。

それを何度か繰り返し、いくつかの球体を作り出し。

「飛・瓢!」

扇子を振りぬいた動きに合わせて、それらを放った。

一直線に雄真たちに向かう球体。

「ディ・ラティル・アムレスト!」

「幻想詩 第一楽章 混迷の森」

とっさに防御魔法を編む春姫たちだったが。

「傀・糸・沈」

衝突寸前、追加された詠唱によって球体は沈み、地面を穿った。

立ち込める土煙。

個々に遮蔽された視界の中、手がかりは無い。

張り詰めた神経。口内が渇く。

「何処から……!?」

小さな音を捉えて振り向けば。

「はずれ、です。」

軽やかな声は頭上から降る。

音も無く着地し、沙耶に足払い。縛り上げて、転がす。

「――エル・アダファルス!」

「――エルートラス・レオラー!」

そこへ、声を頼りに放ったのか、煙を割り裂いて魔法弾が飛んできた。

特に難があるわけでもなく、傍野はステップでかわす。

「まだまだ!」

続けざまに更なる魔法弾を放ってくる杏璃と春姫。

交互に、速射砲のような隙を埋める形での連携。

それを、傍野は足を止めることなく動き続けて回避を続ける。

「アデムント・アス・ルーエント!」

が、突然、そのうちの一個が春姫の追加詠唱によって複数に割れた。

「んなっ?」

しかし、それは傍野の体を避けるように分割して通り過ぎていく。

「何処を……」

不思議に思ったが、それによって足を緩めれば連射の餌食になるのは目に見えている。

傍野が再び意識をそちらに戻したとき。

春姫たちの顔は、笑っていた。

まさか、と思う暇も無い。ガラスが割れるような音に振り向けば、先ほどの魔法弾が返ってきていた。

「コレが狙いですか……!」

通り過ぎた魔法弾を、展開した春姫のシールドに反射させて戻す。

魔法弾の維持にも魔力を取られるが、それ以上に、小盾の維持、操作に魔力を喰われる、難度の高い技である。

「この結界の中で……! そこはよく出来ました、と褒めておきます。ですが!」

完全に虚を疲れていたはずの傍野は。

それすら、回避した。限界以上に体をひねり、杏璃の連射の軌道からも無理矢理に脱する。

かわされた魔法弾が向かったのはその軌道の先にいる春姫たち。

「危ない!」

伊吹たちからもれた叫び。

回避に成功した、と傍野が春姫たちに視線を戻せば、しかし、春姫たちの顔から笑みは消えていなかった。

命中する、と見ていた誰もが思った瞬間。

再びガラスの割れるような音がした。

「なっ!?」

声が重なる。

そう、春姫たちは回避されることも見越して、シールドを自分たちの前にも展開していたのである。

無理矢理の動きの後に、すぐ動けるはずも無い。続けざまに着弾していく魔法弾。

「ぬわーーーーーー!」

不可思議な叫びを上げて、傍野は魔法弾を数発、その身で味わう事になった。

「杏璃ちゃん、いくよ!」

「もちろん!」

さらに、そこから新たに呪文を詠唱する。

しかも、先ほどまでのスピード重視の連射型でなく、威力重視のパワー型。

「――エルートラス・レオラー!!」

「――エル・アダファルス!!」

よろけた傍野の、頭の風船目掛けて、二つの魔法弾が迫る。

それが、風船を叩き割る、と見えた瞬間。

「本当、この結界の中でここまでやるとは思いませんでしたよ。」

体勢を立て直した傍野が、二つの魔法弾を受け止めた。

扇子を持った右手で春姫の、杏璃の魔法弾は空手の左手で。

「うそっ……」

「あんた、やっぱり何者なのよ……」

ガクリと膝を折る杏璃と春姫。

雄真とつないでいた手も解け、音をたてて倒れた。

「なるほど、コレは雄真サンが協力してたんですね。」

杏璃の魔法弾を握りつぶし、腰に挿していたもう一本の扇子を左手で広げて春姫の魔法弾をお手玉する。

「いや、でも、協調は結構高等技術だと思うんですが……ココでやっちゃうのはやっぱり愛の力なんでしょうか……」

一人でぶつくさ言う傍野を睨みつけ、雄真は二人をかばうように前に出た。

「お前、一体何がしたいんだよ。」

「そうですね。力試し、とでも言っておきましょうか。」

春姫の魔法弾を丸く成形しなおしている傍野が飄々と言い放つ。

その人を食ったような態度に、雄真の困惑とイラつきは募っていく。

「さて、雄真サン。」

お手玉していた魔法弾を結界の天井に投げつけて霧散させ、傍野は、細い目をさらに細めた。

「飴玉が溶け出すまで、後もうそんなにありません。後は、雄真サンがアタシの風船撃ちぬかないと負けですよ?」

しかし、雄真は何も言わず、ただじっと、傍野を睨んでいる。

傍野もその視線に答えるように見つめ返す。

周りの人間には少し息苦しい沈黙。

「……もしかして、まだ、アタシのこと友達だと思ってます?」

傍野が口を開く。

雄真は、口を引き結んで答えなかった。

傍野はため息をつく。

「やっぱりですか。多分、皆さんもそう思ってらっしゃったんでしょうね。沙耶サンや春姫サン、杏璃サンの魔法弾。予想していたよりもずっと威力が抑えられてましたし。……まあ、信哉サンは割と本気だったのかもしれませんけど。」

少し、悲しそうに笑った。

「それは、アタシには、とっても嬉しい事です。」

目を覆い、かっぱりと口をあけて。

「ですが、つくづく、甘い。」

顔をぬぐって、扇子を握り締める。

笑いを拭い去ったような、つりあがった顔で、雄真を見据えた。

その眼光に、少し押されたように後ずさる雄真。

「まあ、お話はコレくらいにしましょう。あなた方が、あなたがアタシをまだ友達だと思っていたとしても。アタシを痛めつけなきゃ風船は割れないんですよ。」

つばを飲む。喉元がひりつく。それだけのプレッシャーを傍野は放っていた。

「雄真サン。そんなに気負う事じゃないでしょう? 昔春姫サンを助けたあのときと、同じ状況です。いじめられてる子を守るため、いじめてる子に魔法を使う。ただそれだけのことです。」

もちろん、それだけのことではないことは、雄真の態度が一番に物語っている。

幼少時のトラウマ。得意げに魔法を使った自分、耳を切り裂く悲鳴、涙や鼻水でぐしゃぐしゃに崩れたいじめっ子の顔、友人、母、近所の人々の視線、立ち話、悪意、害意、敵意。

一度は自分が魔法を捨てた原因と、再び向き合う雄真。

「さあ、雄真サン!」

厳しい口調で促す傍野。雄真は俯いたまま動かない。

「……まだ、魔法の使用に抵抗が? いや、人を攻撃することに抵抗があるんですかね、この場合は。」

「……」

図星だったらしく、雄真の肩が震えた。頬を汗が伝う。

「それでも時間はないんです。このままだと、春姫サンと杏璃サンなんて、とける前に死にますよ?」

雄真の足元で呼吸も荒く倒れこんでいる春姫と杏璃。額に汗を浮かべ、目も開けていられないようだ。

それだけではない。捕らえられているすももや沙耶、準も徐々に苦しそうに顔をゆがめはじめている。

伊吹はまだ苦しげな素振りは見せなかったが、ハチや信哉に至っては気絶している。

飴のコーティングが溶け始めたのだろうか。傍野の言うとおり、もう時間が無いのだろう。

「……くそっ!」

一度手を前にかざそうとして、苦しそうに振り下ろす雄真。踏ん切りがつかないのだろう。

小さい頃に捨てた魔法。成長してから使っていないわけではなかった。

秘宝事件のときに、沙耶を助けて一度、伊吹を救うときにもう一度、雄真は魔法を使っている。

加えて雄真自身、魔法科編入のために母・鈴莉や春姫たちの協力の元、魔法の練習は行っていた。

それでも。

それが人を傷つける。人を攻撃する。その意味を持って魔法式を編んだ事はなく、暴発の危険もなかったため実際に誰も怪我をしなかった。

あえて鈴莉が意図的に避けていた、人を傷つけるために攻撃魔法を放つと言う事。

それを今、雄真は求められているのだ。

もう一度魔法を使おうとして、固まる雄真。

傍野は、大きくため息をついた。

「……仕方がありません。決断を、迫りましょう。」

手にした扇子を、二本とも閉じ、傍野は姿勢を低く構えた。

「簡単に、生か死か。今からアタシは回避も防御もなく、ただ一撃、攻撃します。それをくらう前に風船を割れれば生、割れなきゃ死にます。もちろん、飴が溶ける前にアタシの手で、ね。」

「やめよ、傍野! 出来るわけがなかろう!」

伊吹が声を上げるが、傍野はそれを耳に入らなかったように無視する。

雄真が、ゆっくりと頷いて、手をかざした。

春姫たちを巻き込まないようにと言う配慮か、少し場所を移す。

「それでいいんスよ、雄真サン。大丈夫、自分を、皆を信じてください。」

何故か、アドバイスを送る傍野。その顔は、微笑んでいた。

「それじゃ、いきます。」

「……エル・アムダルト・リ・エルス……」

雄真の詠唱が結界内に朗々と響く。

次々浮かび上がる魔法弾はゆっくりと増える。

伊吹は息を呑んでそれを見つめていた。

「疾っ!」

「……カルティエ・エル・アダファルス!」

それが完成するより少しだけ速く、傍野が地を蹴る。

一つ目の魔法弾が着弾。

その寸前で、傍野は方向を変える。

それを追うように、二発目が飛ぶ。

背後から傍野を急襲したそれは、かがんだ傍野の頭上を通り過ぎた。

その際、傍野の扇子をつきたてられて、爆散する。

「コレで、終わりっスか!?」

「まさか!」

体勢を直して雄真に突っ込む傍野を、正面から三発目が襲った。

「芸が、ないっスね!」

それを、傍野は正面から叩き割ろうとまっすぐに扇子を振り下ろす。

「エル・ディ・リリ・ティル・ルーエント」

瞬間、その軌道通りに魔法弾が割れた。

雄真は小声での詠唱の後、突き出した手を思い切り引っ張る。

あわせて、見えない糸に引かれたように、割れたはずの魔法弾が風船めがけて跳ねた。

割った魔法弾の間をすり抜けている傍野はそれに気付いてもどうしようもない。そのまま雄真へ向かうスピードを上げた。

くりだされる雄真の額を貫かんばかりの一撃。

それが命中する一歩手前で、風船が大きな音をたてて割れた。

同時に、よく響く鈴のような音をたてて、桜色の結界が崩れ去る。

扇子を突き立てる状態で傍野は止まっていた。

「……よく出来ました、雄真サン。トラウマの克服、加えてちょっとした機転。充分に合格です。」

それだけ呟いた傍野は、口の端を吊り上げて笑い、雄真の横をすり抜けるように倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちわー。大分ゆっくりの更新になりました。

読む分に必要な結論は、雄真が傍野に試されて、雄真はそれに合格した、その一点のみです。

大分難産でしたし。大分無理をした気がします。事実、観察者シリーズのコンセプトに反して、傍野が目立っているし文体も三人称。

それでもこのシーンは必要だったと思ったんです。シーンの性質上、コンセプトに反してしまう事も、仕方なかった、と。

お気に召さなかったらすいません。

あ、大事な事を忘れてました。それでもコレを書いていて、私は楽しかったです。それだけ。

                                                                                                                                                  Fisher man

 

 

今回のネタ。

疾風迅雷落とし→キン肉マンの48の殺人技+1キン肉ドライバーの事。

 52、と言うのは、48にキン肉ドライバー、マッスルスパーク、ミレニアム、グラビティを加えたから。

不意打ちで叫ぶお馬鹿がトコにいますか。→うたわれるもののベナウィが稽古中、オボロに言った言葉。

   ホントはもっとむっつりした感じの台詞で、間違っても♪はつかない。

ぬわーーーーー!→ドラクエ5、パパス王最後の台詞。PS2版になって、演出は派手になったし、死体の焼け焦げ残るし。地味にリアル。

 

今回はネタ少な目か。

忘れてるの見つけたら、連絡よろしくおねがいします。