「今日は特別に、あなたにお休みをあげましょう。パティ、どこへでも行っていいですよ。」
負けない!!
「こんにちは〜。ガッシュいますか〜?」
「ウヌゥ!ウヌゥ!」
奥から奇妙な声がし、姿を現さない。おかしい。
いつもは、おばさんが出てこなくても、ガッシュが出てこないことは無かった。
「ちょっとガッシュ!?入るわよ!?」
何かある。そう思ったティオは、奥からガッシュの声がすることから、留守ではないと判断し、靴を脱いだ。
「お邪魔しま〜す、ってちょっとガッシュ?アンタ何やってんの…?」
リビングに入り、ティオがみたもの。
それは、物干し竿につるされたバルカンと、それに必死に飛びつくガッシュだった。
「ウヌゥ!ウヌゥ!」
よほど真剣なようで、ティオが入ってきたことにまったく気づかない。
「ちょっとガッシュ!?」
後ろから肩をつかむ。そのことで、ようやくティオに気づいたガッシュ。
「ヌ?ティオ、いいところに来てくれたのだ。バルカンをおろすのを手伝ってはくれぬか?」
「え?」
よほど長いことやっていたのだろう、額にうっすらと汗がにじんでいる。
「バルカンが清麿につるされてしまったのだ。私がどんなにジャンプしても届かないのだ。」
清麿はおそらく、届かないことを見越して物干し竿につるしたのだろう。そしてガッシュが、ジャンプでとろうとすることも。
悔しそうなガッシュに、ティオはため息一つ。
「椅子にでも登ってとったらいいじゃない。」
「ウヌ、その手があったか!ティオは賢いの。」
椅子を取りに行き、やすやすとバルカンをおろすガッシュ。
「ウヌ、ティオ、ありがとうの。」
「いや、このくらい言われなくてもやってよ…」
「ヌ、バルカンからも礼を言うのだ。あ・り・が・と・う。」
ティオのぼやきも聞き流し、バルカンの口をパクパクさせるガッシュ。
「で、今日は何をするかの。何かしたいことはあるかの?」
「そうね…」
「ヌ、とりあえず清麿の部屋に行くのだ。何をするにしても道具はすべてあそこだからの。」
階段を上がる二人。
それを、窓からのぞく影が一つあった。
「きぃぃ!!何よあの女!!私のガッシュちゃんと馴れ馴れしくしてんじゃないわよ!!」
斜めに太く延びた2本の髪の束。胸で大きく存在感をアピールするハート。そして、その体を包むまがまがしいオーラ。
そう。パティだ。ガミガミと爪を噛みながら、2階へ移るため電柱に登り、清麿の部屋の窓のところに飛び移る。
上手く渡れたことにほっと、いや、髪の先ほど、一息。
その安心も、中から聞こえた
「ちょ、ちょっとガッシュ!?きゃあっ!」
「ヌオッ!?」
という声にかき消される。
はやる気持ちを抑え、見つからないようにこっそりと中をうかがう。
窓から見えたのは、ガッシュに覆いかぶさるティオだった。
「きぃぃ!!私のガッシュちゃんになにやってんのよ、怨怒霊(おんどれ)ェェェェェ!!」
見えたものに逆上し、何も考えずにガッシャァァンと窓ガラスを叩き割りながら、緊急脱出のごとく部屋に飛び込む。
「ヌォ!?」
「きゃっ!」
破片の中に降り立つパティ、否、もののけ娘。
「パパパ、パティ!!」
「怨怒霊(おんどれ)ェ!誰に断って、私のガッシュちゃんを押し倒してんのよ!?私ですらまだそんなことしてないのに!!」
「わ、私のって、あなた一体ガッシュの何よ!!」
いきなり現れたパティに、怯えるガッシュと、対抗するティオ。押し倒す形になっていたガッシュを、慌てて突き飛ばす。
「きぃぃ!!私ですら呼び捨てで呼んだことないのに!!まぁいいわ、教えてあげる。私はガッシュちゃんの恋人よ!!」
「こ、恋人!?」
ティオが驚きに染まる。
ガッシュは頭をぶつけて唸っている。
「そうよ。思い出すわぁ…あの魔界での熱い日々…」
うっとりと陶酔するパティ。いつの間にか元に戻っていた。
ティオはガッシュを問い詰める。
「ガッシュ……それは、本当なの…?」
ティオの顔がゆがんでいく。
「ヌ!?ち、違うのだ!!あの者は私の恋人ではないし、魔界での熱い日々など知らぬのだ〜!!」
目の幅涙を流して、精一杯否定するガッシュ。
それを聞いて安心したのか、勝ち誇るティオ。
「ほ〜ら見なさい!ガッシュは、アンタのことなんか知らないってさ!!」
「ぐっ!じゃ、じゃあアンタはガッシュちゃんの何なのよ!!」
「わ、私!?私、私は…その…」
赤くなり言葉に詰まる。
上手く言えない。もちろん、自分はガッシュが好きだ。だがガッシュはどうなのか。ガッシュは自分を好いてくれているのか。
仲間だ、とは言ってくれる。一緒にいようとも言ってくれる。だが、その先が分からない。
「ほーら見なさい。あなただってなんでもないじゃない!!」
「そ、そんなことないわよ!!」
「じゃあ、何なのか言ってみなさいよ!」
「あんたこそ!!」
額をつき合わし、睨み合う。
「ヌゥ、ケンカはやめるのだ!」
二人の間にわって入ろうとするガッシュだが、
「アンタ(ガッシュちゃん)は黙ってて!」
あまりの剣幕に押し黙る。
「むむむむむむむむむ…………………」
睨み合うこと数分。
睨み合いは、言い合いに変わっていた。
「ふん!!何よ!!あたしはガッシュちゃんの足のサイズまで知ってるわ!!ガッシュちゃんのことで知らないことなんかないわ!!」
「足のサイズが何よ!!私なんか手料理食べてくれるんだから!!しかもおいしいって言ってくれるわよ!!」
「きぃぃ!!私だって魔界にいたときは色々あげたんだから!!」
「でも、当のガッシュが覚えてないんじゃ意味ないじゃない!!」
フー、フー、と昂ぶった息をつきながら、二人の視線がガッシュに向く。
「ガッシュ(ちゃん)!!」
「ウ、ウヌ?」
「「私達のどっちが好き!!?」」
「ウヌ!?」
成り行き上は当然だが、ガッシュにとっては突然の質問。
「さあ、どっち!!」
二人が迫ってくる。
「ヌゥ……」
どうしよう…。
「どっちなの!!」
考えている間にも、二人は詰め寄ってくる。
これ以上は引き伸ばせない。そう悟ったガッシュは、とうとう、腹をくくった。
「ウヌ…それは…」
ゴクリ、と二人がつばを嚥下した、気がした。
「それは…」
「ただいまー。」
清麿が帰ってきた。これ幸いと、部屋を出て行くガッシュ。
「あっ、ガッシュ(ちゃん)!!」
しばらくドアを見つめ、睨み合う二人。
「いい?今回は引き分けってことにしといてあげるけど、ガッシュちゃんはあたしのものよ!!」
「違うわ!!ガッシュは私のよ!!」
睨み合う二人。
「「あんたなんかに、絶対負けない!!」」
パティが、足音に逃げるまで、睨み合っていた。
清麿がみたのは、窓を睨みつけるティオと、割れた窓ガラス。
「あ、お帰り〜清麿。」
声をかける前に、後ろを振り向いたティオ。
「でも早かったね。まだお昼過ぎだよ?」
「今日は職員会で半日授業だったんだ。しかし、一体何があったんだ?ガッシュに聞いても答えたがらないし。」
「なんでもないわ。」
にっこり笑って、それ以上の質問を許さない。
「そ、そうか?ならいいんだが…。」
絶対これは何かあったな。ティオの笑顔に隠れる怒りを読み取りそう思う清麿だった。
「おや、パティ。早かったですね。どうしたんです?顔が物凄いですよ?」
アフタヌーンティを楽しんでいたゾフィスの下に、パティが現れる。
「なんでもないわ。」
はき捨てる言葉に、
「そうですか。」
さも興味が無いと言った風に、ティータイムを続けるゾフィス。
どこに行き、何があったか悟ったような笑いで、パティを部屋から送り出した。
ハイお疲れ様でした。いっぺん書きたかったんです。パティvsティオ。
ホントはTDSSだけで済まそうとも思ったんですが、なんと『白の攻略本』様が、20万HIT達成間近になってるじゃないですか。
パティとキャンチョメ好きだって聞いてたし、色々と(精神的にも)お世話になっているので、お祝いを。と思ったしだいです。
ちぃかま様、20万HIT、おめでとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします。
Fisher man