第二章:出逢い・・・

 

 

城塞都市ジャド

砂の都サルタンから、定期船に乗ったホークアイは、ウェンデルへの海の玄関となっている、この町へ降り立った。

しかし、普段はウェンデルへの参拝客で賑っているはずの街が、今は何故か静か過ぎるくらいだ。

不審に思いながら港を出ると、原因はすぐに判明した。

「ここは我々ビースト軍が占領した!我らの目的は、ウェンデルだ!おとなしくしていれば危害は加えない!!」

頭上から響く、拡声器を使ったような大声。

ウェンデルへの足がかりに、ジャドは獣人たちに占拠されてしまっていた。

「くっそー、獣人たちが港を封鎖しちまった。おかげで全便欠航だ〜。」

船員は嘆く。が、どうしようもない。

ホークアイも、疲れからか本音をこぼしてしまった。

「あー、長い船旅で疲れてるってのにこんなに獣人がいたら暑苦しいじゃねぇか。」

「シィッ!あんたそんな事言ってたら獣人に捕まるよ。」

「ああ、うん、忠告ありがと。じゃね。」

親切なおばちゃんが忠告してくれる。

軽く礼を言って、ホークアイは頭を掻きながら去っていった。

 

 

「んー、とりあえず武器か防具、だよなぁ。」

占領下で武器防具取り上げないのはまずない。しないのは、ただの自信家だけである。

ダメ元で武器屋に行くと、見た目から筋肉質で、真面目そうな男がうなっていた。

「おい、どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもねぇよ、武器屋に武器置いてなくて、どこに置くんだ!」

おそらくは剣士なのだろう、腰の剣を揺らし、つかみかからんばかりの勢いでホークアイに寄ってきた。

「あははは、そうだね。あ、俺用事あるから。じゃあな!」

触らぬ神にたたりなし、とばかりにホークアイはきびすを返す。

閉めたドアの向こうからは、それでも男のうなり声のようなものが聞こえてきた。

「ふー、ああいう輩はほっとくに限る。まあ、逃げて正解だろ。」

腕を組んで伸びをしながら、ホークアイはあくびをかみ殺す。

占領下にあるわりに、この街を包む意外とのんびりとした空気はなんなのだろうか。

ホークアイは、首の骨を鳴らしてアイテム屋に足を向けた。

「うーん、やっぱり武器は獣人が持ってったか。となると防具もないな。せめてアイテムくらい買いたいんだが……」

そんな考えでアイテム屋に行くと、少年が窓から外をのぞいている。

何かを探しているような、怯えているような、隠れているような。何がしたいのかよく分からない。

ホークアイは、店内に入って後ろから声をかけた。

「おい、なにやってんだ?」

「うわあっ!」

軽く肩に手を置いただけで、半ば叫び声のような声を上げられて手を払われる。

過剰なまでの反応に、声をかけた側であるホークアイも驚かされた。

「う、あ、び、びっくりしたあ。」

「……びっくりしたのはこっちだよ。一体ここで何やってんだ?」

ホークアイの姿を確認して何故か安心した少年は、たどたどしい言葉で話し出す。

「う、あ、うう、おいら、確かに獣人。でも、外の奴らとちがう! おいらウェンデル攻めるの止めに来た。ここで捕まるわけにいかない!だから、おいらがここにいること黙ってて!」

みれば確かに彼も獣人独特の獣らしさが端々に現れている。

嘘をつけるようにも見えないし、本当に何か用事があるのだろう。

「分かったよ。じゃあな。」

ホークアイは後ろ手に手を振って店を出て行った。

「……あれ、あいつ、何しに来た?おいらの話聞いて出て行った。ま、いいか。」

何の買い物もせずに。

「あーっ、アイテム屋行ったのになんも買ってねえ……!」

その事実に気づいたのは店を離れてしばらく。

「っちゃー、また戻るのもなぁ、あの少年に悪そうだし。仕方ねぇ。まずは宿でも取ってくるか。」

頭をかきつつ、足を宿に向ける。

宿は港の隣に建っていた。ウェンデルの玄関口だけあって、多くの人が利用するのだろう、そこそこに大きな建物だった。

扉を開けると、カウンターで支配人のような男が、辛気臭そうな顔でため息をついていた。

「おっちゃん、部屋空いてる?」

「……相部屋しかないぞ。いろんな奴が足止めくらって泊まってるからな。稼ぎ時なんだが、獣人とグルになってるみたいでよ。タダでいいさ。」

「サンキュ。あんまため息ばっかついてちゃ、いいことないぜ?」

部屋番を伝えてから、そしてホークアイの言葉を聞いてからもう一つため息。だいぶ気が滅入っているようだ。

「つきたくもなるさ。こんだけ大勢泊まってりゃ、トラブルも多い。嫌になってくる……」

言いながらまた一つため息。

「まあいいさ。どの部屋もベッドの数だけ相部屋になると思っててくれ。空いてりゃ多分これから増えるさ。」

「おう。」

教えられたとおりに廊下を歩き、目的の部屋へたどり着く。

一応ノックはしたが、返事はなく、鍵は開いていた。

少し躊躇したものの、ホークアイは扉を開ける。

「ああ、同室に……って寝てんのかよ。」

それではノックに返事が帰ってくるはずはない。見れば、三つあるベッドのうち一つが膨らんでいた。

「う……ん……」

やがてふくらみが、もぞもぞと動き出す。布団からはみ出る紫の髪は、明らかに女性のものだった。

「あ、やべ、起きる?」

慌てるホークアイをよそに、言葉通り紫の髪が起き上がる。

「ん……っ!誰!?」

「わっ!」

少女にしてみれば、目覚めてすぐに知らない男が部屋にいたのだ。

意識は迷いなく覚醒状態に持っていかれる。

「なに?あんた誰よ!私に何する気だったのよ!?」

「ご、誤解だ!ただ挨拶しようと思っただけ!」

扉を開けた途端に起きられ、この言いがかり。ホークアイにとってはいい迷惑である。

ただこの少女、何をやらかすかが分からない。そんな雰囲気をびしびしと放っていた。

「嘘!変な事する気だったんでしょう!」

「違うって言ってんだろ!だいたい……」

加えて、やたらと自意識過剰でこちらの言い分を聞こうとしない。

まったくもって災難である。

「男がつべこべうるさいわねぇ……」

さらには埒が明かないことを感じつつも言い返すホークアイの言葉を遮って、走る一閃。

その一撃でホークアイは、窓を突き破って外に放りだされ、その意識を刈り取られた。

 

 

気が付くとそこは宿屋でもなく、宿の外でもなかった。

「お、にーちゃん、目ぇ覚めたか。」

「ああ、ここは……?」

「酒場の二階だよ。」

ベッドから身を起こし、体に異常がないかを確認する。

贅沢を言えば、寝()起きは酒場の主人じゃなくて美女がよかった、などと内心思いながら、ホークアイは主人に手を振った。

「ああ、何か食べてくかい?」

「そうだな、そうさせてもらおうか。」

主人について階段を下りる途中に、上ってきた少女とすれ違う。

決してグラマラスではないが整ったスタイルに、流れるような金髪。

憂いを含んだ蒼眼が印象的だった。

「ねえマスター、さっきの女の子、誰?」

思わず立ち止まって見送り、見えなくなってから主人に聞く。

「ああ、あの娘かい?さあねえ、船で着いてからずっとあの部屋にいってことしか。」

「そっか。」

それを聞いたホークアイは、振り返って階段を上っていく。

「ちょっとあんた、何処行くんだい?」

「あの娘のところさ。なんとなくひっかかんだよ。」

ひらひらと手を振って、軽い足取りで部屋の前に立った。

普通にノックするのが妥当か、と一瞬躊躇してから軽く扉を叩く。

「はい?」

無用心にも、目当ての人物はすぐに出てきてくれた。

「誰ですか?」

「初めまして。」

無難に挨拶から始める。

しかし、相手はただ怪訝そうに眉をひそめただけだった。そのまま最初の問いを繰り返される。

「ですから、誰ですか?」

「俺?俺はホークアイ。君は?」

しかし、ホークアイは気にした風もなく軽くかわす

「私はリースといいます。で、そのホークアイさんが何の用ですか?」

そしてこのリースという少女、かなり律儀なようだ。彼女にしてみれば、ホークアイは見知らぬ不審者であるのにきちんと名乗り返す。

世間知らずか、誇り高いだけだろうか、その全てか。

「何の用かって言うと、さっきすれ違った時君が物凄く悩んでた顔してたから。そんなに悩んでると、綺麗なお顔が台無しだよ?」

加えて初心であった。頬を染めてうつむいている姿はかわいらしい。

ホークアイは心配そうに問いかける。

「で、何で悩んでんの?俺でよかったら相談に乗るよ?」

「……そうですね、一応あなたにも聞いておきましょうか。実は」

まだ顔の赤みは引いていないが、それでも顔を上げてホークアイに問いかけようとするが、

「ちょっとストップ。」

ホークアイはそれを遮った。

「……どうしました?」

「ちょっと寒くてさ。入れてくれるとありがたい。」

なんとも情けない言い分であるが、軽く身震いするホークアイに、リースは少し慌てて扉を開いた。

「で、どうしたの?」

暖炉に手をかざしつつ、話を再開させる。

「実は……弟が行方不明なんです。」

「弟?」

「はい。実は……」

リースの話によると、リースは風の国ローラントの王女。

イザベラは、ホークアイが投獄されていた間にローラントに侵攻、ジョスター王の殺害、エリオット王子の誘拐などを、眠りの花粉を撒き散らし、無抵抗にしてから行い、結果、ローラントは滅亡したという。

リ−スは、光の司祭にローラント再興の知恵を借りるため、エリオットを探すためにウェンデルへ向かうところだそうだ。

話を聞くにつれて、徐々にホークアイの顔色は悪くなっていった。

それに気づかずに、リースは最も聞きたかったことを聞く。

「というわけです。ところでホークアイさん。」

「な、何?」

「弟を知りませんか?」

まさか、さらったのは自分の同胞で、ナバールのアジトはここ、などというわけにもいかない。

この少女ならなりふり構わず突っ込んでいきそうだったし、いる確証もない。なにより王子の居場所を知らないのは事実であった。

「……ごめん、分からない……」

「謝らないで下さい。知らなくて当然なんですから。」

ホークアイが口ごもっているのは別の理由なのだが、リースは気づかずに取り繕う。

「……そうだ、下の酒場で何か食べない?もしかしたら、弟君の情報何か手に入るかもしれないよ?それに、思いつめたって仕方ないじゃん。」

「……分かりました。行きましょう。」

ホークアイは扉から顔だけ出して振り返り、少し悩んだがリースもそれについていった。

階段を下りてすぐ、適当な空席を見つけてリースと二人腰掛ける。

「マスター、メニュー見せて。」

「にーちゃん、もうその娘オトしたのかい?」

メニューと一緒に差し出されるのは、主人のにやけた野次。

ホークアイは軽くあしらったのだが。

「人聞きの悪い事言うなよ。」

「私、ホークアイさんにどこに落とされたんですか?」

リースは野次とすら分からなかったようで、真面目に聞き返している。

「……そういう意味じゃないって。リースお酒飲めるの?」

「飲めません。」

「そうなの。じゃ、マスター、ジュース二つ。他適当に見繕って。」

「おう。」

適当にごまかしつつ、ホークアイが注文する。

リースの反応に苦笑いするホークアイのところに、マスターがグラスを二つ運んできた。

少し納得していないようだが、リースも追及をやめる。

「はい、ジュース二つお待ち。他は後な。」

受け取ったグラスをリースに渡し、軽く鳴らしてから口をつける。

それから思い出したようにマスターに声をかけた。

「サンキュ、マスター。そうだ、リースに似た小さい男の子知らない?弟らしいんだけど」

「あー、聞かないな。」

天井をにらむように目を向けてから、マスターは首を振る。

それならば、とホークアイは質問を変えた。

「じゃ、ここを抜ける方法は?」

「……無理、だろうな、獣人たちは夜になると変身して強くなる。」

「そうか……」

この質問にもマスターの返答は鈍い。

しかし、ため息をついたホークアイを見て、皿を置いたマスターが声をかけた。

「おい、耳貸しな。」

「ん?」

といいつつ、マスターのほうが顔を寄せてくる。

「実はな、そこが狙い目さ。変身すると、血が騒ぐのか、理性を保てないらしいから、警備が手薄になる。もう、逃げるチャンスはそこだけだろうな。」

「そうか、サンキュ、マスター。」

窓を見やれば、ちょうど日が沈みかけている。

「今の話、聞いてたね。」

「はい。」

料理にむいていた目線を戻し、リースは真面目な顔で答える。

「じゃあどうする?」

「何がですか?」

「俺と一緒に行かないかってこと。」

「は?」

ホークアイの言葉に、首を傾げる。リースにとっては唐突過ぎたのだろう。

「ほらさあ、『旅は道連れ、世は情け』っていうじゃん?それに一人より二人のほうが楽じゃない?」

「……」

しかも明確な目的はなさそうだ。ますます怪しく思えてくるのだが。

「どうしたの?」

「……いえ、なんでもありません。」

しかし、それを口にすることはリースには憚られた。

「どうする?」

リースは、乳母のアルマが言っていた言葉を思い出す。

初対面から優しくしてくる男には気をつけろ、と何故か口をすっぱくして言われていたのだ。

それがアルマの実体験に基づくものなのかはリースのあずかり知ることではないが、教訓のように受け取っていた。

しかし、リースはホークアイには人を信用させる何かがあることを感じていた。

裏切られないという確信めいたものを何故か感じていたのだ。

「あの、もう少し時間をくれませんか?」

今焦って答えを出すのは得策ではない。そう感じたリースは、申し出る。

「分かった。月が昇るまで、まだ時間がある。町の入り口で待ってるから、一緒に来てくれるのなら、そこに来てくれ。」

ホークアイもその願いを聞き入れてくれ、料理を片付けた後酒場を出て行った。

 

 

「ふう、どうしようかしら……。アルマはああいう人には気をつけろって言ってたけど。」

借りた部屋のベッドに倒れこみ、天井を見つめる。

「でも、あの人が悪い人とは思えない。あの人のまとっている風も危険じゃなかった。」

浮かぶ、人懐っこいホークアイの笑顔。それは、どこかローランとの人々を思い出させるイメージがあった。

徐々に傾いていく心。

「確かに一人より二人のほうが確かに楽なのは事実だし、一人で旅をするのは少し心細い。それに、長くてウェンデルまででしょうから大丈夫でしょう。」

今はいないアルマに言い訳するように最後の言葉を呟き、リースはホークアイと行くことを決意したようだった。

 

 

……リースは知らなかった。彼、ホークアイが大きな運命の渦に巻き込まれて行くことを。

そして彼女自身もその渦に巻き込まれていくこと、大きな別れがその先にあることを。

その事に対して彼女はどんな決断をするのだろうか?その事を今は誰も知らない・・・。

 

 

 

 

ものっすごい勢いで書き直し。下手すぎて涙が出てきますね、自分。へループ。

……進歩の証ということにしときます。進歩してるとよいなぁ。

                                                                 Fisher man