第三章:取り憑かれた……

 

 

「なんで……そんな……よりによってあなたがナバールのシーフだなんて……。騙したんですか!?いったい何のつもりだったんです!?」
「違う、リース!」
「来ないで!!」
ドアを後ろ手に閉め、リースが部屋を飛び出していく。

後に残ったのは、頬にもみじを咲かせたホークアイだけ。

「……いきなりすぎたか。でも、いつかは言わなきゃならない。当然の反応だよな。こりゃ完璧に嫌われた。」

ぐったりとベットに背を預けるホークアイ。

分かっていたとはいえ、悔やまれることは仕方がなかった。

彼らは、夜のジャドを抜け出して、ラビの森を抜けてから夜明けごろにこのアストリアにたどり着いた。

とりあえず先に宿をとろう、ということになって、宿を取ったまではよかったのだが。

問題は話がホークアイの身の上に及んだこと。ホークアイが自身のことを語っていないことに気づいたのだ。

始めは答えを渋っていたホークアイも、いつかはバレることだから、と素性を口にして、先ほどに繋がる。

ホークアイは考えるのをやめて、目を閉じた。

 

 

「はあ……はあ……はあ……。やっぱりアルマは正しかった。あの人が、ナバールのシーフなんて……。明日ウェンデルに向けて発ちましょう。」

外に出てきていたリースも、宿の扉にもたれかかって座り込んでいた。

そこへ、老婆が寄ってきた。

「ちょっとお嬢さん。」

「私ですか?」

寄ってきた老婆に、不思議そうに問いかける。

それに対して老婆は、仕方ない、という風にため息をついた。

「そうよ。あなた以外に誰がいるの?」
「……そうですね。何か?」
「ウェンデルに行きたいそうだね。」
「はい。」
「やめときな。無理だよ。」
こともなく言い切る老婆。

あまりに簡単な、そして思わぬところからの否定にリースは声を上げる。

「そんな……何故ですか!?」
「司祭様が結界を張って、滝の洞窟には入れないからさ。」
その言葉通り、洞窟には結界が張られていた。獣人たちの侵攻を察知した光の司祭による物だったが、それにより司祭は体調を崩したという。

ちなみにホークアイとリースも、結界に阻まれてアストリアに立ち寄ったのだ。

「解く方法は?」
「知らないよ。それに知ってても教えないよ。司祭様に考えがあっての事だ。それは司祭様に背く事になるからね。」
「そうですか……」
「早く帰りな。ここはさびれゆく町だ。」
諦めきれないリースを、老婆は冷たく突き放す。

うなだれるリースを後ろに、老婆はさびしそうに去っていった。

 


「どうしよう、ウェンデルに行けなきゃ司祭様にお知恵をお借りできない。困りましたね……」
どうしようか悩んでいるリースの耳に、男の声が響く。

何人かが集まって、だれかを取りまいていた。どうも、誰かが力説しているようだ。
「本当だって!俺は見たんだ!不思議な光を!!今夜も現れるかもしれないんだって!!」
「不思議な光……。ううん、結界をどうにかしてウェンデルへ行くのが先です。」
しかしその後に、協力して、という言葉は続かなかった。
宿に戻ったリースをベッドに座ったホークアイが迎える。
「リース……」
「……ウェンデルには、滝の洞窟に結界が張ってあって行けないそうです。」
リースはつき放つように言い放った。
「そしてこの辺の夜には、不思議な光が出るそうです。」
わざと会話を終わらせるように。
「そうか。」
ホークアイは短い返事だけで何も言わない。

「……では、私は寝ますから起こさないで下さい。」
「……」

「あ、変な事しようとしたら、串刺しですからね。」
「……はい……」
扉を開けて隣の部屋へ行ってしまうリース。

扉が閉められて、ホークアイはため息をついた。

「話す余裕もくれないってか。侵攻の時は捕まってて、参加してないんだが、な……」



その夜遅く。
昼間の青年の主張どおり怪しげな光の玉が出現した。
ラビの森のほうから入ってきた光球は、なぜか宿屋の周りをくるくると回り、留まって、また回る、を繰り返している。
当然光は差し込み、ホークアイがもぞもぞと目を覚ました。

「う、うん、なんだありゃ?おいリース!」

呼びかけて隣の部屋に耳を済ませてみても動く気配はない。

「寝てるのか。しかたねえ、一人で追っかけてみるか。」
ホークアイは枕元においておいたダガーをつかんで扉を開けた。
「うわ、まぶし!」

飛び出すと、タイミングを計ったかのようにすぐそこに光球が浮かんでいる。
目がくらんでいるうちに、光球は動き出してしまった。
「あ、まて!」
慌てて、ホークアイは光球を追う。
「ふう、行きましたね。気まずくて話せないのですが、一緒に行けばよかったのかしら?」
その後姿を、窓からリースが見つめていた。

その頃……
「ただいまから、ウェンデル侵攻を開始する!まずはアストリアだ!!」
「うおおおぉぉぉ・・・」

「くそ、ふわふわと飛びやがって!追いつけねえじゃねえか!」
置いて行かれそうなホークアイ。
「待ちやがれーーー。」
光球は待つどころか高度を上げ、木々や川を飛び越えていく。

まるで見失えといわんばかりの嫌がらせである。
それでもなんとか追いかける事数十分。光球は飛ぶ力を失ったのか、失速していった。
そうしてついに墜落してしまう。
「はあ、はあ、はあ、やっと追いついた。ってあれ?」
そこで、ホークアイは辺りを見回して、もう一度正面に視線を戻す。

そう、光球は消滅していた。
かわりに掌に、すっぽり収まるような、羽の生えた小人が横たわっていたのだ。
「……なんだこりゃあ?」
ホークアイはその小人の羽を掴んで持ち上げた。
「う、ん……ここは?あ、それよりも、ウェンデルに行かなきゃ。」
その小人は、羽を動かそうとした。が、ホークアイが羽を掴んでいる。

羽に触覚は通っていないのか、羽が動かないことでつかまれていることに気づいた小人は。

「あなた誰!?って言うか離してよ!!」

先ほどの弱った様子は一切見せずに、ホークアイを怒鳴りつける。
近々と頭に響く声に平行して、ホークアイは羽を離しながら聞き返した。

「へいへい。お前こそ何者だ?」
「先に質問に応えなさい。」

あくまで小人の態度は大きい。

折れるが吉と感じたか、ホークアイがため息をついて答える。
「分かったよ。俺はナバールのホークアイ。訳あって聖都に行くところだ。」
「私はフェアリー。んー、この際仕方ない。あなた、私をウェンデルに連れてって。時間がないの!早くしないと……」
フェアリーの言葉を遮るように、倒壊音と遠吠えが響く。
みれば、湖畔が赤々と燃えていた。
「おい、アストリアの方角じゃないか!」
「行って見ましょう!私は姿が見えなくなるけど安心して!」
「おい!ちょ、ちょっと!?」
ホークアイの周りをくるくると飛び回ったかと思うと、フェアリーは消えてしまった。

それに加えて。
《アストリアに行くんでしょう?急がないと!》

頭の中から、声がする。
「うっへぇ、頭ン中から声がする・・・。変な感じぃ。」
気持ち悪そうに舌を出すホークアイに、フェアリーはそれが見えているかのように彼をせかす。

《早く!!》
「ちっ、分かったよ!!」
残してきたリースを心配しながら、来た道を駆け戻るホークアイだった。


ホークアイは知らなかった。このフェアリーを取り憑かせた事が、この後の運命を変えてしまうことを。

そして彼に大変な使命が降りかかる事を。



アストリアに帰り着いたホークアイの目に映ったのは、獣人から、町の人を守りながら必死に戦うリースの姿だった。

 

 

 

 

もう、何も語りません。自分の進歩が感じられてよかったと思います。

                                  Fisher man