第五章:神殿と真相
「ふざけんな! 俺はいかねぇぞ!」
聖都ウェンデル。数多くの悩み人がいつも光の神殿に救いを求めて訪れる。
その神殿の奥、司祭の間から、怒声が響いていた。
「マナの剣だかバカの剣だかしらねぇが、俺には関係ねぇ!」
そもそも、荘厳な雰囲気であるべきこの場所から、何故このような怒声が響いているのか。
それは、ここから数十分前、ホークアイとリースがフェアリーを伴って聖都ウェンデルにたどり着いたところまで遡る。
「あ、シャルロット様! 一体何処に行ってらしたんです!?」
「うわー、ばれちゃったでちー!じゃあ、ホークアイしゃん、リースしゃん、バイビーでち!」
フェアリーに結界を解いてもらって、無事に侵入した滝の洞窟で助けたシャルロットが、駆けていく。
あっという間に見えなくなって、その後ろを神官が必死になって追いかけていた。
「……司祭の孫ってのも嘘じゃなかったみたいだな。」
「そうですね。さ、神殿に向かいましょう。」
そうして、司祭の間に向かった二人だったが、その相談に対する司祭の答えは、どちらも芳しくないものだった。
「死の首輪じゃと!? しかし……古代呪法であるそれでは……儂にも手が出せん……」
「そんな!」
背後の女神像を拝む司祭に、どうにもならないのか、とすがるホークアイ。
司祭は、すまない、とだけ呟く。いや、呟く事しかできなかった。
続いて肩を落としたホークアイの背後から、リースも悲痛に相談事を投げる。
「ローラントが……しかし、滅んだ国を再興するなど……女神様におすがりするしか……」
「そう、ですか……」
悔しそうに俯くリース。
司祭もホークアイも同様に沈み込む。
「待って、私に話をさせて!」
その陰鬱な空気を割り裂いて、フェアリーが叫び、同時に実体化する。
本来ならこのようなところにいるはずがないフェアリーに、司祭は驚いて、目を瞬いた。
「なんと……」
それ以上言葉が続かない司祭。それを気にも留めず、フェアリーは一方的にまくし立てた。
「司祭様、私は聖域からきました、フェアリーと申します。実は、今回のマナの減少により、聖域のマナの木が枯れ始めています……」
「なんじゃと!? そんな事になれば、神獣たちの封印が解かれ、この世は滅んでしまう!!」
衝撃の内容に、司祭は天を仰ぐ。フェアリーも俯いたまま何も言わない。
しばらくして、司祭はホークアイに目線を移し、再び天を仰いだ。
「……何だよ?」
不審げに司祭を見るホークアイに、司祭はやれやれとため息をついた。
「……他人ごとではないのじゃぞ? お主が聖域に行ってマナの剣を抜かねばならんのじゃからの。」
「なんだと! 聞いてないぞ!」
いつの間にやら妙な事に巻き込まれている。
ホークアイは、憤慨してフェアリーをにらみつけた。
フェアリーはその視線を受けて、すまなさそうに目を伏せる。
「ごめんなさい。マナの減少が激しくて、私にはもう、誰かにとりつくしか方法がなかったの……」
「じゃあ、もういいだろ。どっかその辺の夢見がちな勇者志望にでもとり憑いてくれ。」
やれやれとため息をつくホークアイ。
しかし、その態度に司祭がもう一度ため息をついた。
「何を言うとんのじゃ。フェアリーは宿主を決めたらその者が死ぬまで離れられんのじゃぞ?」
「ふざけんな! 俺はいかねぇぞ! マナの剣だかバカの剣だかしらねぇが、俺には関係ねぇ!」
机を叩いて、ホークアイは司祭に迫る。
その剣幕に、司祭は少し後ずさった。
「でも、マナの剣があれば、死の首輪だってはずせるし、イザベラだって倒せるんだよ?」
少し意地悪な声で、フェアリーが話す。
その言葉に、憤慨するホークアイ。
「てめぇ、俺の頭ん中覗きやがったな! ……待て、マナの剣ってのは一体なんなんだ?」
その質問に答えたのは、司祭だった。
「マナの剣、それは古の力の象徴……」
とうとうと、読み上げるように語る司祭。
それによれば、マナの剣は、女神が世界創造に使ったとされる黄金の杖の仮の姿であり、それを手にしたものは世界を支配できるという代物である。
そしてそれは、今なおマナの樹の根元で眠っているという。
「へぇ……厄介な代物だねぇ。」
感心するホークアイ。
司祭は首を振りながら続ける。
「しかしのぅ、古代ではマナストーンのエネルギーを自在にコントロールできたらしいが、一度戦争になってから、禁呪として封印され、今ではその方法を知るものはおらん。聖域に行くにも、扉の開きようがないんじゃよ……。」
「お手上げかよ……」
ホークアイは顔に手をやって天を仰ぐ。
ここで、司祭に説明を任せていたフェアリーが口を挟んだ。
「一つだけ方法があるの。世界各地のマナストーンのそばには、その属性を象徴する精霊たちがいるはず。だから、彼らの力を借りれれば、残ったマナでも聖域の扉を開けられるかもしれないの。」
「その手があったか!」
その提案に、食いついたのは何故か司祭だった。
「幸い、おぬしたちの通ってきた滝の洞窟では、光の精霊・ウィスプの目撃例が多発しているのじゃ。まずは、そのチラかを借りられるとよかろう。」
「……まあ、しゃーねぇか。」
やれやれ、と大きなため息をつくホークアイ。その顔には呆れの笑みが浮かんでいる。
その笑みを消して、今までダンマリだったリースに振り向いた。
「リースは、どうする?」
出来れば来て欲しい、とホークアイは心の中で呟く。
司祭、フェアリーの視線も自然とそちらを向いていた。
「私も、お手伝いします。」
向けられた三対の視線を受けつつ、リースは毅然と答える。
「国が復興しても、世界が滅ぶのではまったく意味がありませんから。」
その答えに、ホークアイは小さく安堵のため息をつき、フェアリーの表情がぱっと華やいだ。
「ありがとう、リース! 女神様がお目覚めになったらきっとローラントの復興に手を貸してくれるわ!」
「そうですね……」
フェアリーは、リースの手に抱きついて、リースはそれを少し困ったように見ている。
ホークアイは、司祭に軽く頭を下げて、リースとフェアリーを促した。
「彼らにマナの祝福があらんことを……」
小さくなる背中に、司祭は目を閉じて呟いた。
フェアリーとしては、すぐにでも滝の洞窟に向かいたいところだったのだが、日が暮れ始めていたことと、体力の事も考慮して、宿で一泊してからウィスプ探索に向かう事になった。
ベッドに横になってホークアイは天井を眺めている。
そこへ、ドアを開けてリースが帰ってきた。
「まだ、起きてらしたんですね。」
風呂上りの湿った髪を下ろし、シャンプーや石鹸の匂いを連れてホークアイの目の前を横切る。
「うん。リースの寝顔を見なきゃ、もったいないかなぁ、と。」
顔だけリースに向けて、笑うホークアイ。そこへ、枕が一つ飛んできた。
「手厳しいねぇ。」
笑って枕を投げ返すと、リースは無表情にこちらを見ていた。
「リースが。」
それを見て、ホークアイも顔を引き締める。
「リースが手伝ってくれるとは思わなかった。」
「目の前で、世界がどうの、なんて話をされて、断れるようなひどい人じゃないですよ、私。」
「……そうだね。」
軽く笑うホークアイ。
リースは、背を向けて部屋の窓から外に目を向けていた。
薄ぼんやりとした沈黙が、部屋の空気を支配する。
外は、軽い雨が降っていた。
「……寝ましょうか。明日は早くなりそうですし。」
「……そうしようか。」
言ってベッドにもぐりこむリースと、答えてそのままリースのほうを見ているホークアイ。
「……どうかしましたか?」
「リースの寝顔を見せてもらおうあだっ!?」
「早く寝てくださいね。」
今度は枕ではなく枕元にあったメモ帳がホークアイの額に命中し、ホークアイは苦笑いしながらベッドにもぐりこむのであった。
なんともよく分からないできの作品。ゲームの台詞引用みたいなところが多くてややうんざりしたような書き易かったような。
まあ。最後の宿のところは何がしたかったんでしょうねぇ。
Fisher man