第六章:小さき神官
「おやまあ、よく晴れた日だこと。」
昨晩の雨も上がり、ホークアイは日光を片手で遮って空を見上げる。
これが、精霊探しの前途を象徴してくれればいいなぁ、とロマンチストな事を胸中でぬかし、後ろのリースを振り返った。
「そうですね。」
槍を背中に背負い、ホークアイの少し後ろを歩く。
二人が目指していたのは、司祭に言われた滝の洞窟だった。
昨日抜けてきたため、多少は内部構造を把握している分、見知らぬダンジョンへ向かいよりは気が楽だが……
「まってたでちよ!」
それでも気を引き締めねばなるまい。
ホークアイはぐっ、と拳を握って、滝の洞窟へ向かう。
「まつでちよ!」
「ホークアイさん。」
そして、寸前で振り返った。
「……やっぱ無視ってワケにはいかないか。」
「あったりまえでち。このビショウジョをむししていこうなんて、100おくまんねんはじだいおくれでちよ。」
何故か洞窟の入り口で待っていて、えらそうに胸を張るシャルロットの頭に手を乗せ、ホークアイはため息をつく。
ついでにぐりぐりとかき乱す事も忘れないのだが、リースにたしなめられた。
「で、なんだよ、ビミョーニョさま?」
「ビショウジョでち! あんたしゃんたちの旅にあたちも連れてくでち。」
シャルロットの発言に、ホークアイはしばし見つめて目をそらす。
「ヒースを探しにつ」
「さ、行くよ、リース。ウィスプが何処にいるか分からないから気を引き締めていこう。」
「ホークアイさん。」
さわやかな笑顔とともにリースを振り返ったが、リースはごまかされてはくれなかった。
「あのね、シャルロットちゃん、私たちはこれから世界中を回らなきゃいけないの。ヒースさんは、私たちが見つけて必ず連れて帰るから。」
「それじゃおそいんでちよ!!」
伸ばされたリースの手を叩き落とし、シャルロットは叫ぶ。
「ヒースは、ヒースはあたしをかばってさらわれたんでち! あたしが、あたしが、おじいちゃんのいいつけさえ守ってたら……!」
シャルロットの脳裏に浮かぶのはさらわれていくヒースと、さらっていく男。その邪悪な笑みは、今思い出してもシャルロットの背筋を冷やしていた。
仮面の奥からにじみ出る気配と、身の丈以上の大鎌。まるで、ヒースが語ってくれた昔話に出てきた死に神を思い出させるものだった。
あれがヒースを見られる最後になるのでは、とシャルロットは不安と焦りに駆られていたのだ。
「だから、だから!」
自分は、行きたいのだ。会ってこの目でヒースの無事を確認したいのだ。
そうシャルロットは訴える。
「……旅の途中で、ヒースに出会う前に死んだとしてもか?」
リースになだめられながらも、しゃくりあげているシャルロットに、ホークアイは厳しい口調で詰問する。
「俺たちはそれぞれに目的があるし、お前さんを守ってる余裕なんて無い時だってあるだろうさ。もう一度言う。死ぬぞ?」
それは、猛禽を思わせる目だった。獲物を見据える鷹の目。本能的な恐怖を相手に抱かせる目だ。
「それでもシャルはいくんでち! ヒースにあうまではぜったいにしんだりしまちぇん!」
ぐしぐしと涙をふき取り、シャルロットはホークアイを見返す。
猛禽に対して一歩もひかない、希望に満ちた、決意の眼差し。そして、世間の厳しさを知らない、子供らしい眼差し。
しばらくにらみ合って、やがて、ホークアイがため息をついた。
「……お前は、何が出来る?」
「ホークアイさん!?」
驚いたのはリースだ。シャルロットをパーティに加えるかのようなホークアイの発言に、後ろを振り向いたのだが、ホークアイは軽く笑うだけだった。
「仕方ないさ、リース。ここで連れて行かなきゃ、たぶんこの娘、一人でヒースとやらを探しに行くよ。なら、俺たちが連れて行くしかないじゃないか。」
「そうですけど……!」
諦めに達しているホークアイと違って、リースは、受け入れられなかった。
いや、理解してはいたのだろう。だが、その小さな体と、明るいふわふわの金の巻き毛は、彼女に何より大切なものを思い出させてしまう。
この小さな少女に、危険なことはさせたくない。あの時のことは繰り返したくない。それがリースの本音だった。
しかし、ここで受け入れなければ彼女はもっと危険だということが、おそらく、間違いない事実であることも、リースは承知していた。
「仕方、ありませんね。」
シャルロットに根負けするようにリースは軽くため息をつく。
「いちおー、しんかんのたまごでちから、かいふくはおまかせでちよ、たぶん。」
そんなリースの胸中も知らずに胸を張るシャルロット。
「……多分って何だよ。」
「それがふまんなら、きっと、とか、おそらく、にかえるでちよ?」
「そうじゃなくて、な……」
頭に手をやり、早速後悔しているホークアイ。
「ほら、リースしゃんもいくでちよ!」
そんなホークアイを無視して、リースに手を伸ばすシャルロット。
その様子が在りし日のエリオットを思わせて、リースは軽く微笑む。
「そうね、行きましょう。」
シャルロットの手をとってリースは歩き出した。
「じゃあ、ウィスプが順調に見つかる事を祈って。」
二人を先導するようにホークアイが軽くステップを踏んで足取り軽く進んでいく。
リースは思い出したエリオットの笑顔と、シャルロットの手の温もりに誓った。
(繰り返したくないなら守ればいいんです。今度こそ、あんな事が起こらないように、この娘をヒースさんに会わせるまで……)
シャルロットの願いをかなえること、そして。
(待っていてね、エリオット。必ず、必ず……)
国の再興、弟の救出を。
さて、今回から路線改革です。ゲームであったところのうち、特に変更が無いところは書かない方向になりました。
じゃないとすすまねぇよ! そんな本音です。
その分、変わっているところにはしっかりと力を入れて書くつもりです。から許してくださいな。
……何となく、自分の文章に違和感を覚え始めています。むぅ……。
Fisher man