「りーばーくーん、コーヒー入れてー。」

おにいちゃんは心配なのです。

 

のほほーんと寝起きのような雰囲気で、コムイがコーヒーを頼む。その足取りは危うく、よほど疲れていることが伺えた。
「無理です。今手が離せません。ご自分でどうぞ。」
しかし、化学式と格闘しているリーバーにそんなことをしている余裕などない。答えるのも億劫そうに、即答で切り捨てる。
「えー、僕はコーヒーがないと仕事が出来ないって言ってるじゃないかー!!」

この間はがーっと暴れて、めちゃくちゃにしたのに今日は幾分元気がない。
今度は、リーバーは返事すらしなかった。

「うー、めんどくさいなぁ。」
部下の無視に、ややげんなりとしながら、コムイはコーヒーポットに向かう。
「あーあ、リナリーがいてくれれば頼めたのに……」
そして、コムイの元気がない一番の原因はこれだった。
彼の愛する妹君、リナリー・リー嬢はイノセンス回収のため、時間が巻き戻る町へと出向いている。

「しかもアレンくんとなんてさ……」
嫌なことを思い出したかのように足を止め、そこらにあったメモ用紙をちぎりとって噛み始める。
かなり、重症だ。

「誰と一緒でも、あんたの態度は変わらんでしょーよ。」
大分手に負えない様子のコムイを、毎度のこと、とあきらめたようにリーバーはあしらった。目線すら向けてやらない。
その様子に、コムイはさらに怒って、むしゃむしゃと紙を食べ進めていく。
「なにさ、りーばーくん!僕が妹を心配しちゃいけないって言うのかい!?」
「んなこと言いません。ただ、室長の場合、それが度を越し過ぎてるだけです。」
リーバーの形だけの敬語からは敬意のかけらすら感じられない。
無論、いつものことなのでそんなことは意に介さないコムイ。
さすがに飲み込むことは出来ないため、ペッと紙を吐き出しながら、ぐちぐちと愚痴を並べていく。
「ぶーぶー!なんかリナリー、最近アレンくんと仲いいしさー。お兄ちゃんとしてはさー、こう、心配なんですよー。」
吐き出した紙を摘み上げて再び咀嚼。かなり手に負えない状況だ。
「こう、夜、狼になったアレンくんがさー、か弱いリナリーを……っとはいは〜い。」
そのとき、コムイの机の電話のベルが鳴る。妹君であることを期待してか、ワンコール鳴り終わらないうちに、コムイは受話器を持ち上げる。
「もしもし?あ、リナリー!!」
先ほどの様子とは打って変わって、嬉々とした声で話すコムイ。
うれしそうに、あっちの世界にトリップするコムイを尻目に、科学班の何人かがリーバーのところに集まってきた。
「室長のシスコン振りには困ったモンがあるよなー。」
「あー、あと脱走癖な。」

「大分慣れちゃいるんだけどね……」
「いい加減やめちゃくれないかな、とは思うよね。」
口々に言いたい放題。なかなかにひどいことを言われているが、裏を返せば、それは親愛の証、ということか。

「まあとりあえず、アレンにリナリー襲う度胸は……」
ないない、と満場一致で首を横に振る科学班。
「っていうかリナリーなら、誰にも襲われる心配はないよなー。」
普段の彼女を見ていれば、そして、その足にある対アクマ武器の能力、威力を考えれば、そんな心配などほとんど要らないことはすぐ分かる。
「むしろ、どっちかってーと、ねぇ?」
リーバーの呆れたような台詞に、うんうん、と再び満場一致で同意する。
「「「アレンがリナリーに襲われるほうがまだ可能性がある。なんとなくだけど。」」」

異口同音に吐かれた言葉は、幸いにもコムイ、そして電話の先のリナリーに聞こえることはなかった。

「ん、じゃ、ばいばーい。あ、アレンくんにはちゃんと気をつけるんだよ、男は狼なんだから!」

電話を切った後のコムイは、電話前とほとんど真逆といっていいほど嬉々としていた。

「……リナリー、なんて言ってたんですか?」

半分諦めの入った、聞く必要もないような、それでも鼻歌まで歌われては聞かざるを得ない質問。

それを、リーバーはため息と共に吐き出した。

「うん?これから例の町に行くんだってさー。」

わざわざ連絡して来てくれたんだよ、と大変ご満悦の様子でコーヒーをカップに注ぐ。

しかし、はいはい、などと聞き流していると、不意にコムイの動きが止まった。

「あ、でも、これから入るって事は連絡できなくなっちゃうんじゃん。どうしよう!」

気づいた事実が大きくて、さっきまでの嬉しさも吹き飛んでしまう。

しかし、そのコムイに誰も注意を払わないし、声もかけない。彼らもだいぶ順応したのだろう。

科学班は、今日もいつもどおり平和であった。

 

 

「コムイさん、なんて言ってました?」

「……な、なんでもない!」

「?リナリー?」

余談ではあるが、電話を切る前の一言を気にして、リナリーはアレンに対してギクシャクしていた。

(兄さんのバカ。気になっちゃうじゃない!)

しばらく、向き合うことが出来なかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

はい。壊れコムイさん。コムイさんは大好きです。アレリナの一要素として大好きです。マジで。

私のコムイさん観はこんな感じ。リナリー命なのですよ。結局微妙にそれが空回りするんですが。

                                               Fisher man