「ほらエド、こっちだってば!」

ほぼ財布状態でウィンリィの買い物に付き合わされるエド。

アルはその後をおとなしくついて行くしか、方法が残されていない。

「あー、やっぱりセントラルは品揃えがいいなぁ!エド、これも、あれも買ってね!」

「……あー、分かりましたよ!ったくウィンリィのヤロウ……」

「なにかいったー?」

「いーえ、なーんにも!」

やけくそのように叫ぶエド。ここの上下関係は相変わらず変わらないようだ。

それを、ほほえましく見守るアル。無論、その両手は荷物で埋まっていた。

 

幼馴染

 

「クソ……、もう動けねぇぞ……」

「ははは、兄さんだらしない。」

ウィンリィに無理を言って、エドは近くにあったベンチで休んでいる。

アルはといえば、疲れ知らずの彼のこと、置ききれなかった荷物を持って、エドの前にたっていた。

「うるせぇ。ったくなんだってこんなに買いやがるんだよ。」

エドの隣には彼の座高ほどつまれた袋があった。いや、あくまでエドの座高なので、実は彼の担当分はそんなに多くないのかもしれない。

それでも、不満なものは不満であり、エドにとっては大量なのだろう。愚痴はやまなかった。

あー……と、ずいぶんとヤル気の抜けた声を出し、空を仰ぐ。まったく、小憎らしいほどの青天である。

これがまだ曇りならば、ここまで疲れることもなかったかもしれないのに。

無論、そんなことがあるはずないのは、百も承知のエドだったが、何かに責任を擦り付けたくなるほど疲れが溜まっていたようだった。

「……おせぇ。」

そして、その理不尽な怒りの矛先は、また別のものへと向かっていた。

そう、ここにいないウィンリィである。

「そういえば飲み物買ってくるって言ってたのに、遅いねぇ。」

ふい、とアルはウィンリィが出て行った公園の出口に視線をやる。無論、彼女が帰ってくる気配などない。

「……そのうち帰ってくんだろ。」

心配するそぶりは見せるものの、エドはそのまま空に視線を戻した。

そこへジーっと向けられるアルの視線。

しばらくは無視して見上げていたものの。

「……わーったよ。行ってくりゃ文句ねぇんだろうが。」

心配も手伝ったのだろう、ついに根負けしてエドは歩き出した。

やれやれといった風に大きく息をつくアル。それから、荷物番を任されたことに気づいて、再びため息をついた。

 

 

ウィンリィは案外簡単に見つかった。見つかったのだが。

「ちょ、放してよ!」

問題は、彼女が町のチンピラに絡まれていたこと。

厄介なことになりやがって、と大きくため息をつき、その名を呼ぼうと息を吸う。

しかし、その息が、声に加工されることはなかった。

「少し付き合ってくれるだけでいいって言ってんだろーが!」

「いやだっつってんでしょ!」

「このアマ、下手に出てりゃいい気になりやがって!」

パチン、と乾いた音が響き、ウィンリィの手からコップが落ちる。

それを見て、エドは走り出した。

駆け寄る過程で、平手をあわせる。小気味よく響く、乾いた音にあわせて、右手の機械鎧に刃を生やした。

その音でチンピラたちがこちらを振り向いたが、そんなことはかまわない。むしろ、好都合だ。

勢いを殺さず、ウィンリィを叩いたチンピラの顔面に、足を乗せた。

「ぐげ。」

つぶれた蛙のような声を出し、地面に転がる。

「だ、誰……ゲフ」

そばにいた二人も、声を上げるまもなく地面に叩き伏せられた。

エドは、そのまま両手を鳴らし、地面へと触れる。

若干の錬成光の後、チンピラ二人の首元に、円錐状の突起が突きつけられていた。

「動くな。」

ウィンリィを叩いたチンピラに刃を突きつけ、動こうとしたチンピラたちを声で制する。

「選べ。今ここで死ぬか、こいつに二度と手出ししないと誓って、ここを去るか。どっちだ。」

ぞっとするような、冷たい声。

流れるような、一連の作業に置いてけぼりになっていたウィンリィも、この声に、ゾクッとする。

今までに聞いたことのない、彼の、戦闘者としての声。

空間すべてが凍ったような錯覚。

事実チンピラたちは、恐怖からか、一切動かなかった。

「どっちだ。」

再度繰り返される問い。

チキリ、と彼の機械鎧が音を立てる。

それが合図となったのか、チンピラたちは、一目散に逃げていった。

 

 

逃げていくチンピラたちを見送って、腕の刃を元に戻すエド。

「無事か?ウィンリィ。」

その声に先ほどまでの冷たさはなく。

「……うん。」

よく知った、幼馴染の暖かいものだった。

差し伸べられる手をとって、やっぱり、エドはエドだ、と再確認する。

「ま、あれだけ脅しときゃ、もう来ねぇだろう。」

そんな心中も知らず、エドは軽く笑い、そしてため息をついた。

「あ、ジュース。」

絡まれた際に、こぼしてしまったことを思い出したウィンリィ。

しかし、エドは何の名残も見せなかった。

「……まあ、いいだろ。とりあえず、さっさとアルのとこに戻るぞ。」

そう言って、わずかに、ウィンリィの手を引く。

「そうね。またエドに買わせればいいし。」

それが少し気恥ずかしくて、ウィンリィは軽口を叩く。

「おい、こら。」

「そういえば、あんた、荷物は?」

「ああ、アルに預けてあるよ。」

「ったく、エドってばねぇ。」

「んだとこらー!」

あれだけ小憎らしかった空も、今ではなんだかちょうどいい。

晴れ渡る青空が、何故だかとっても気持ちがよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これ、リクエストもらって、かなりながいだかかりましたね。ああ、許してくださいSERI★さん。

そんなこんなで、今日もがむばる、Fisher manなのです。

                                                        Fisher man