魔界へ帰ったブラゴとウォンレイ。
しかし、それだけでは終わらない。
邂逅
「恵さん来るのいつだっけ?」
朝食をつつきながらティオに聞く。
「えーっと、昼、位だったかな?」
「あいまいだの。」
「う、うるさいわよ!!」
「ヌグ、ハ、グゥ…」
「おいおい、手加減しとけよ。」
口は災いの元を地で行くガッシュ。
それもかなり日常のこととなっているのか、清麿も真剣にとめようとしない。
何よりガッシュも鍛えられたのだろう。それとも慣れただけなのか。前と比べてまだ血色がいい。
あくまでまだ、なのだが。
にぎやかな、ごくごく普通の朝だった。
それを打ち砕いたのは、一つのニュース。
「・・・では次のニュースです。昨夜未明、イタリアの俳優パルコ・フォルゴレ氏(23)が何者かに襲われました。」
ガタリ、と椅子を倒し立ち上がる三人。
一斉に顔がテレビに向く。
「フォルゴレ氏の体には無数の焼け焦げた後があり、未だ意識は戻っていません。」
淡々とキャスターが話す。
「清麿…まさか…」
「ああ。全身火傷なんか、普通の人間は火事に飛び込んだりでもしないとならない。おそらく魔物だ。」
「じゃあ、キャンチョメも…」
「おそらくな。この状況になって、魔本が無事とは思えない…」
また一人仲間が消えた。しかも、ぼろぼろに痛めつけられて。
おそらく魔界へ帰ったキャンチョメも、かなりひどい状況にあることが容易に想像できる。
「なお、フォルゴレ氏は発見当時、うわ言のように誰かの名前を呼んでおり、中には日本人らしき人もいるもようです…」
テレビが切られた。
静寂が辺りを包む。
「清麿…」
「ああ。正念場だぞガッシュ、ティオ…」
悔しさと、一握りの恐怖、怒り。それらがガッシュの身を振るわせる。
「ウヌ…」
その時、赤い魔本が輝いた。
「清麿!本が!」
その輝きに力強さはない。淡く、それでいて少し優しい光。
「まさか…」
ザグルゼムの時とは明らかに違う輝き、それが意味するものは。
「おめでとうございます!ただ今をもって、人間界に残っている魔物は後3名となりました!いよいよ大詰めです、残っている方々、頑張ってください!」
魔界からの知らせだ。100名の魔物の子も、とうとう残り3名になった。
「やっぱり!ガッシュ、ティオ!残り後3名だそうだ!!」
「ウヌ!?本当か清麿!?」
「ホントなの!?」
最後まで来た、その感慨が3人を喜ばせる。
しかし。
「そうか、3名ということなら、私とティオと、後はウマゴンかのぅ?」
「…ん?」
異変に気づいたのは清麿だった。
「後3名って事は…」
ここに、2名の魔物がいる。と言うことは必然的に残りは1名である。
現時点で帰っていることが分かっている仲間は、4名。
(残っているのはウマゴンか、テッドか。いや、テッドはこの間不意打ちで焼かれた、ってメールがあったな…)
安易に仲間の一体を残りに思い浮かべた。
しかし、何かを見落としている気がする。
ジードからのメール、突然やってきたリィエンとシェリー、病院に担ぎ込まれたフォルゴレ。
その全てに共通すること。
「「清麿?」」
考え込む清麿の耳に、子供達の声は聞こえない。
「…まさか!!?」
線が、つながる。
残っているのは、後3名。
数日前からの友人達の忠告が思い起こされる。
(ジードさんが言っていた!本は稲妻のようなものに焼かれたって!シェリーもリィエンも!フォルゴレの火傷も!)
つまり、ウマゴンの本が燃えている。
そのとき、ドアベルが鳴ってガッシュが走った。
そこで、清麿の予感が、現実になる。
「う…」
サンビームが呻く。
全身には包帯が巻かれていた。
「……」
「清麿くん…」
あの時、玄関に立っていたのはゼオンだった。
しかも、わざわざ消えるところを見せ付けようと、瀕死のウマゴンとサンビームを引きずって。
ガッシュたちの目の前で、オレンジの魔本に火をつけた。
「!お主!なんということを!!ウマゴン!!」
最後まで抵抗したのだろう。ウマゴンのゴウ・シュドルクの鎧は、粉々に砕けていた。
「久しぶりだなぁ、ガッシュ?」
ガッシュと同じ顔の、銀の魔物。その顔が愉悦にゆがむ。
自分の記憶を奪ったのはこいつだ、と悟っているのだろう。
消えていくウマゴンを抱きながら、きっと睨み付けた。
「お主が、私の記憶を…」
「そうだ。楽しかっただろう?この人間界という地獄は。自分の名前も知らない、何も分からない。そんな状況で歩くのには最適の場所だっただろう?」
くくく、と心底おかしそうに笑う。まるで、これ以上愉快なことはない、とでもいうように。
「貴様…!!」
「メル…」
ウマゴンの姿が消えた。オレンジの魔本は、庭にただその形を焼き付けるだけになっていた。
「まぁいい。俺が用事があるのはお前だ、ガッシュ。明日の夕方、そこの山の頂上に来な。どうせもう一体もここにいるんだろう?一緒に燃やしてやるよ。」
言うだけ言ったゼオンは、高笑いを残して消えた。後ろに、サンビームを残して。
あの後ガッシュは2階にあがり、清麿の部屋に閉じこもってしまっている。
清麿は一人でサンビームの手当てに追われていた。
そこへ恵がティオを迎えに来たのだ。
二人で協力して一通りの手当てを終わらせ、(ティオは邪魔にならないよう二階にいった。) 話し合いに移っている。
「…ひどいね、そいつ。」
「ああ…」
ここ数日の友人たちの話を聞いた恵の感想。
「確か、そいつにアポロさんもやられたんでしょう?」
「ああ…」
デボロ遺跡のときに援助してくれた青年も、元々は魔物のパートナーで、清麿たちと互角に戦ったこと、ガッシュに似た魔物に本を燃やされたことを以前聞いていた。そして、ティオも似た魔物を見た、といっていたことをおぼろげながら思い出す。
「それにサンビームさんやフォルゴレさんまで、こんな…」
恵はサンビームに少し目を向ける。
全身あちこちにやけどを負い、命に別状はなさそうなのが、唯一の救いである。
「ああ…」
清麿は俯き、唇を咬んでいた。
先ほどからの恵の問いに、同じ答えしかできていない。
「清麿くん…」
「ああ…」
というか、話を聞いていないのかもしれない。
恵は少し思案した後、あるいたずらを思いついた。
「清麿くん?」
「ああ…」
「みんながやられたのって、銀色の、ガッシュ君に似た魔物よね?」
「ああ…」
「リィエンやシェリーさんたちはまだしも、フォルゴレさんは意識不明、サンビームさんは大怪我。」
「ああ…」
「今度、デートしよっか?」
「ああ…」
「ホント?やったー!」
「…え?」
恵の声色が変わったのに反応して、清麿は顔を上げた。
しかし、恵は喜んだふりを続けて完全に聞いていない(ふりをしている)。
「恵さん…?」
「待ち合わせはいつにする?どこに行く?あー、何着ていこっかなー。今から楽しみ〜。」
執拗に聞こえてないふりを続ける恵。ここまでくると、ちょっとした役なら演技の世界でも通用するかもしれない。
「恵さ〜ん?話が読めないんですけど〜?」
おいていかれた感丸出しで、呼びかける清麿。
さらに恵の追い討ちは続く。
「話が読めない、ですって…?」
打って変わって大げさすぎるほどの驚き。少し、やりすぎた感じも漂っている。
「ひどいわ清麿く〜ん!!」
わっと泣き出すように突っ伏す恵。もちろん泣いてなどいない。
「私を捨てるって言うの〜!!」
あっけにとられる清麿。傍から見ている人がいれば、あきれる以外にできることがないだろう。
それほどまでに、恵の演技はわざとらしいものになっていた。
「恵さん?」
「今、結婚の約束してくれたじゃない!!それを話が読めないなんて…ひどいわ〜!!」
さらにわ〜んと泣き出す始末。だいぶ清麿の手におえなくなってきている。
「えぇ!?ほ、本当にそんな約束したんですか?俺、今!?」
恵の演技よりも、言葉の重大さに驚く清麿。一切記憶にない間に、自分はいったい何をしたのか。
彼はものすごく不安に駆られていた。しかし。
「ううん。してないよvv。」
「はへ!?」
「だから、してないって。」
恵にだまされたことにようやく気づき、間抜けな驚き顔を何とか整える。
「や〜い、ひっかかった〜。」
おかしそうに恵は笑っていた。決まり悪そうに、頬を染めた清麿がつぶやく。
「…性質悪いですよ、恵さん…」
「あはは、ごめんね?」
笑いながら、謝る恵。
「…いいですよ、もう…」
その笑いにつられて、清麿も笑った。
「やっと笑った。」
清麿の笑顔を見て、恵の笑いが、笑顔に変わる。
「はい?」
「さっきから清麿くん、ずっと難しい顔で悩んでたから。何悩んでたの?」
見透かされていた。あいつを、ゼオンとそのパートナーを見たときからずっと感じていた、恐怖を。
「…あいつらの、ことです。」
少し苦い顔で打ち明ける。
「あいつらを見たとき、なぜか分からないけど、恐ろしかったんです。特に、パートナーのほうの冷たい目。ものすごい憎悪が感じられました。いったい何をこんなに憎んでいるのか、というほどの。」
無表情の裏に隠してあった、憎悪。清麿に対して向けたのだろうか、なぜか清麿はそれを感じ取れていた。
「ただ、それが怖かったんです。こいつらは何を見てきたのか、本当に勝てるのか、それが不安になったんです…。」
決戦を前にこんな弱気じゃいけませんよね、と少し苦笑している。
「いいんじゃないかな。」
そんな清麿に、恵は優しく笑いかけた。
「誰だって怖いものはあるもの。私だって舞台に立つ前はどきどきだし、デボロ遺跡のときも、ものすごく怖かった。」
迫りくる千年前の魔物たち、分断されるパーティ。襲い掛かる敵は強さを増し、実際何度もあきらめかけた。
でもね、と恵はクスリと笑う。
「どんなに敵が強くても、諦めそうでも、傍にはみんなが、清麿くんがいてくれた。離れててもつながっていてくれた。だから私はがんばれたの。マ・セシルドを何度壊されても張りなおせたのは、みんながいてくれたからなのよ?」
「恵さん…」
「だから、忘れないで。どんなに敵が強大で、残酷でも。清麿くんには私がいる。あなたたちには、私たちって仲間がついてるの。それを絶対忘れないで。」
そういいながら、清麿を優しく抱きすくめた。ただ彼を励ますような微笑で。
「ガッシュ〜…?」
サンビームの手当てをはじめた清麿たちの邪魔をするわけにもいかず、二階へあがったティオ。
先に上がっていたガッシュを探して、清麿の部屋の戸を開けた。
「あ、ここにいたんだ。」
予想通り、ガッシュはこの部屋にいた。しかし、どこか様子がおかしい。ベッドの上でひざを抱えてうずくまっているのだ。
「ガッシュ…?」
呼びかけてみても返事がない。不思議に思ったティオが、顔を覗き込んでみると顔をそらした。
また覗き込むとそらし、覗き込むとそらし。3,4回繰り返すとティオが怒った。
「あーもー、何だって言うのよ!!いったい何がしたいわけ!?」
がーっとどなる。もう少しで首を絞める、という寸前でガッシュが口を開いた。
「怖いのだ。」
ぼそりと、しかしよく通る声で。
「あの者の目を見たとき、とんでもない憎しみが宿っていたのだ。なぜ私をあんなに憎んでいたのかは分からぬ。私に魔界の記憶はないからの。ただあの者の口ぶりからすると、記憶があってもわからぬような気もするが。」
(お前は俺を知らないだろうが、いつも俺はお前のことを考えていた!憎く、腹立たしく!!恨まない日などないくらいにな!!)
記憶を奪われる前に言っていたゼオンの台詞がよみがえる。
何があそこまでゼオンに自分を憎ませたのか、そして、あれほどの憎しみなら、どんな行動に出るか予想がつかない。
「私は清麿や恵殿を、ティオを守れるのか、傷つけはしないか、失わないかが恐ろしいのだ。」
思いもしなかった行動を取られたとき、守りきれないかもしれない。それが怖かった。
それを聞いたティオはため息を吐いた。
「あんたそんなことで悩んでたの?バカじゃない?」
こともなげに、幾分不機嫌そうに言い放つ。
「つまりそれって、私達を信用してないってことじゃない。ふざけないでよ。」
イライラが募り、語調が荒くなる。
「そんなことはない!!」
「あるわよ!!あんたにとって、私は守る対象なんでしょ!?一緒に戦ってる仲間じゃなくて!!」
「違う!!大事な仲間なのだ!!」
「なら、守れるのか、とか足手まといみたいな言い方しないでよ!!」
ガッシュは、自分のミスに気づく。
「一緒に戦ってきたんじゃない!馬鹿にしないでよ!!」
ガッシュの胸倉をつかみ上げ、離す。ぽろぽろと涙をこぼしながら。
「…すまなかったのだ。」
自分の失言をガッシュが謝る。傷つけたくない、と考えていたのが、逆に彼女を傷つけた。
傷つけないようにゼオンから守るのではない。協力してゼオンに勝つのだ。
そうすることで互いを守ろうと、ガッシュとティオは誓った。
あの後、意識を取り戻したサンビームを送り届け、四人は卓を囲んでいた。
「決戦は明日。モチノキ岳頂上だ。たぶん今までで一番きつい戦いになると思う。」
切り出したのは清麿。そのあとをガッシュがついだ。
「あやつは強い。デモルトのときのようにたくさんの仲間はおらぬが、ティオ、恵殿、力を貸してくれ。」
清麿たちの視線を受け、顔を見合すティオと恵。笑いあってからティオが口を開いた。
「ガッシュ、あの約束覚えてる?」
「ヌ?もちろんだ。出会ったときのであろう?」
マルスを倒した後、二人で約束した。
両方が最後まで残ったら、どちらが勝ってもやさしい王様だと。
その約束が今実現しようとしている。
その前に立ちはだかる、ゼオンを倒して、実現させる。
「うん。もう一度約束。絶対明日勝って、私たちが戦うんだからね?」
「ウヌ。奴に消されたみなの思いもこめて、だの。」
魔物二人の声に、パートナーも唱和する。
「ああ。やるぞガッシュ。」
「そうね、ティオ。」
消えていった友の思いをついで、因縁の決着をつけるために、約束を果たすために。
そして何より、魔界に優しい王様を生み出すために。
最終決戦は、明日。
結構難産です。ガッシュたちが動いてくれなくなってきています。ピンチです。
ではでは。
Fisher man
p.s.皆さん、マジで批評プリーズ!!感想マジでください!!だいぶ、進路が見えなくなってます。