戦いが、終わる。百人の候補による、魔界の王を決める戦いが。
100通りの王の姿があった。どの王が正しかったかは分からない。
今残っているのは3つ。最後に、立っているのは…
最終決戦
「怖気づかずにきたか、ガッシュ。」
愉悦に歪んだ笑みをゼオンが浮かべる。
ガッシュはただきつくゼオンを睨む。
「フォルゴレ殿とキャンチョメをやったのはお主か?」
「キャンチョメ?フォルゴレ?ああ、あの黄色いやつらか。どうだったか…あまりに雑魚ばかり倒しすぎて覚えてねぇなあ。」
「貴様!!」
ガッシュが激昂して駆け出した。
そのままゼオンに殴りかかる。
「待て、ガッシュ!!」
清麿の声が響くものの、ガッシュはとまらない。そのまま突っ込んでいく。
しかし、拳が届く寸前でかわされ、叩きつけられる。
「ぐっ、あ。」
「ちぃ、ラウザルク!!」
あわてて肉体強化を発動する清麿。
「めぐみぃ!」
「ええ!サイス!!」
目くらましにもならないだろうが、ティオは小さな鎌を打ち込む。
案の定、片手で払われた鎌は目くらましにもならない。
「引っ込んでろ!」
「ザケル」
ゆらりと向けられた手から、拡散した稲妻が走った。
「セウシル!」
すんでのところでバリアーに守られたものの、少しひびが入る。
「えりゃあぁ!!」
その隙に後ろからガッシュがタックルを打ち込むが、
「ラウザルク」
捕らえられて、投げられてしまう。
「ぬぉぉぉ!!」
「フン。」
再び特攻するが、蹴り飛ばされてしまった。
同時に、ガッシュのまとっていた光が消える。それを確認したゼオンもまとっていた光を消した。
「ガッシュ!急ぐな、戻れ!!」
「おせぇよ。」
「ザケル」
「ギガ・ラ・セウシル!!」
パキン、と音を立てて、バリアがはじき返す。
跳ね返った電撃はゼオンをそのまま襲った。
「跳ね返すか。少しはやるな。」
ゼオンはゆがんだ笑みを崩さない。
その間にガッシュは何とか清麿のところへ戻った。
「ガッシュ、落ち着け。勝てるかどうかがギリギリなんだ。あせっちまえば思う壺だぞ。」
「ウヌゥ、スマヌのだ。」
肩で息をつきながら、目はゼオンからはずさない。
清麿はピッとゼオンを指差した。
「SET!ザケルガ!!」
「ザケルガ」
同じ呪文がちょうど中間点あたりで拮抗する。
「…少しは腕を上げたか、ガッシュのくせに…!」
憎々しげにゼオンが呟く。それに応じるように銀の魔本が一瞬、鈍く輝いた。
青白い電撃が、拮抗を破る。
「くっ、ラシルド!!」
破られた電撃を見て、とっさに盾を出現させた。
しかし。
「なにぃ!?」
電撃と相殺して消えてしまう。
「嘘、だろ?その前にザケルガとぶつかってたんだぞ!?あいつのザケルガは、俺たちのザケルガとラシルドを合わせてやっと防げるレベルなのかよ!?」
あまりに開いている力の差。同じ術でも、使い手が違うだけでここまでの差ができるのか。
突きつけられた事実に、清麿は愕然とする。
もちろん、ゼオンが攻撃の手を緩めるはずもない。
「ザケル」
「セウシル!」
今度は拮抗すらなかった。壁などなかったかのように、電撃は直進する。
「嘘!?」
「清麿ぉ!」
間一髪でガッシュが清麿を突き飛ばし、何とか直撃は避けた。
しかし、清麿の動揺は収まらない。
(マジか…今度はザケルでセウシルも砕きやがった…術に力の差がありすぎる…どうする…?)
「清麿!くるぞ!」
「くそ、ザケルガァ!!」
デュフォーの本を狙って電撃を放つ。
真っ向勝負に勝ち目はない。ならば、ととった奇襲である。
「ほう、デュフォーを狙うか。発想はいいな。」
しかし、今度は術すら使わない。
「だが、後が続かない。」
ヒュン、と音を立て、デュフォーが電撃をかわした。
そしてデュフォーに注意が向いた隙に、ゼオンが近づいてくる。
「がぁ!げっ!がっ!」
術の発動で気を失っているガッシュの腹に拳を入れ、打ち下ろして蹴り上げた。
さらに、吹っ飛んだガッシュに起き上がる隙も与えぬよう、一気に詰め寄る。
「っく、サイス!」
今度は命中し、清麿がガッシュを回収する一瞬を稼いだ。が、やはり、ゼオンの注意をそらすぐらいのことしかできない。
「威力がないな?よく勝ち残ったものだ。」
「ザケル」
あざ笑い、置き土産のように電撃を放つ。
「マ・セシルド!!」
ドームバリアとはまた違う盾が、電撃を阻む。
「ガッシュ、いけるか!?」
「ウ、ヌ、何とか大丈夫なのだ。」
腹部を押さえ、何とか立ち上がるガッシュ。
清麿が、真剣な面持ちで作戦を提案した。
「やるぞ、ガッシュ、ティオ、恵さん!ザグルゼム!!」
手早く作戦を伝え、駆け出す清麿とガッシュ。
鈍く輝く球体が、まっすぐにゼオンを襲った。
「ザグルゼム!!」
もうひとつはデュフォーへ。
しかし二つとも、息すら吐かせることなくかわされ、突き出た岩に激突する。
「ザケル!!」
常に紙一重でかわされる電撃。
「ザケルガ!!」
しかしそれでも、清麿は放ち続ける。
「ザケルガァ!!」
何度も、何発も。
相手の服を焦がすことすらない電撃を。
ゼオンとデュフォーはばらばらにかわしながら反撃を続ける。そして彼らが何度目かにすれ違ったとき。
「恵さん!ティオ!!」
突然、清麿が二人を呼ぶ。
「ええ!ギガ・ラ・セウシル!!」
光のドームバリアが、ゼオンたちを閉じ込める。
「こいつは…術を跳ね返すやつか。」
「ああ、そうだ。そして、こっちをむきな。」
ガッシュたちとゼオンたちの間には、淡く輝く岩が二つ。
「それは!」
そう。ゼオンとデュフォーそれぞれにはなったザグルゼム。あれは、彼らを狙ったものではなかった。
ゼオンの顔が驚きに染まる。
「そういうことだ!!連鎖のラインは整った!バオウ・ザケルガァ!!」
金龍が飛翔する。大きく咆哮し、二つの岩を噛み砕いた。
形態を変え、ゼオンたちに飛び掛る。
ティオが相手の術を封じ込め、ガッシュが止めを刺す。
何体もの魔物を魔界へと返してきた、この二組の最強コンビネーション。
後は、激突直前でバリアを消してバオウをぶつけるだけである。
「今よ、ティ…」
「くはははははは…!!」
四人が、勝ちを確信したときだった。
ゼオンの笑いが響く。
「やれ、デュフォー!!」
「ゼオ・ザケルガ」
白龍が飛び立つ。そのままバリアで跳ね返る。
はずだった。
「俺も甘く見られたものだなぁ!!」
まるで、卵から生まれるかのごとく。一瞬の静止もなく、白龍はバリアを砕き、金龍にくらいつく。
絡み合う二龍。
時間がたつにつれ、金龍のほうが押され始めた。
「なんだと!?」
エネルギーを吸い取るかのように金龍はしぼみ、白龍は膨れていく。
「ザグルゼムの効果はなんだ?」
ゆがんだ笑みを顔に浮かべたゼオンが、笑いをこらえるように訊く。
「…電撃のエネルギーを蓄積すること…そうか、しまった!!」
「そういうことだ!俺の術も電撃なんだよ!!」
金龍がかき消された。それを飲み込んだ白龍は、一層肥大化し、清麿たちに襲い掛かる。
「恵さん!」
「マ・セシルド!!」
自分たちの最強の盾を出現させる。しかしそれでさえ、余波だけで崩れているのが分かった。
白龍が盾を豆腐のように砕き、炸裂する。
「終わりか?あっけないな。」
ゼオンが、構えていた手を下ろす。デュフォーも本を閉じた。
あれだけのものをくらっては、これ以上の戦闘は不可能であろう。そう判断してのことである。
舞い上がる砂煙の向こうも容易に想像できた。
「これで俺も王か。なかなかあっけない幕切…」
高笑いを始めるゼオンの頬を、一閃の電撃がかすめる。
「…なんだと!?」
はれた砂煙の向こうには、ガッシュと清麿が立っていた。
「お前ら、あの攻撃をうけてなぜ立っている?」
満身創痍の様子がかろうじてゼオンに驚きを隠させた。
「…簡単なことさ。あんなものマ・セシルドでも防ぎきれないのは分かってたからな。ラウザルクでガッシュに距離をとらせた。」
「…そうか。それでも満身創痍だな。立っているのがやっとに見えるぞ?」
少し笑いを引きつらせながら、ゼオンが言う。
「わ、忘れたかよ、俺たちの戦いは心の戦い。心が折れたら負けなんだよ!!」
ふらつきながらも、清麿は不敵に笑う。
「…そうまで死にたいなら、望みどおり殺してやるよ!!」
「ザケルガ」
高速の一閃。しかも、清麿の心臓を狙って。
(よけねぇと…)
しかし、足元のおぼつかない清麿にかわせるほど甘いものではなかった。
偶然ガクリと崩れたバランスが、清麿を救う。ひざが折れ、しりもちをつく形になることで狙いをはずした。
「うまくよけたな。だが次は外さん。」
ゼオンの顔にゆがんだ笑みが浮かんだ。
「ザケルガ」
もうかわせない。ひざが笑い、足を立てることすら、できない。
無常なる一閃は走馬灯の間すら与えない速度で迫っていた。
「清麿ぉ!!」
ガッシュが叫ぶ。ゼオンが笑う。清麿が覚悟する。
次の瞬間、清麿は何かに突き飛ばされた。電撃は突き飛ばした何かをかすめ、地面を爆砕する。
「恵さん!?」
清麿を抱え込むように転がるその人は、確かに恵だった。
「死に急いだな。あわてなくとも殺してやったものを…」
ゼオンの嘲笑も耳に入らないように、清麿は恵を揺り起こす。
「恵さん!!」
「ごめんね、一緒に戦えなくなっちゃった…」
少し離れたところで、朱色の本が燃えていた。
おつかれさまです。しんどいです。時間かかってます。次はゼオンが魔界に帰ります。
ティオが魔界に帰る時点は予想されたので、以下に劇的に見せるかをがんばりました。
つぎはWeb拍手用のSSを書きます。ゼオンも魔界に返します。
Fisher man