事の起こりはある日の訪問者。
これが終わりへの始まりだった。
始動
突然、チャイムが鳴った。
清麿は本から顔を上げ、ガッシュを呼ぶ。
「おーいガッシュ!!出てくれないかー?」
返事はない。それどころか気配さえない。
その理由を思い出した清麿は、文句を言いながら部屋を出た。
「そうだ、ティオが来て遊びに出たんだった…」
ちなみに恵は近辺で撮影があるそうだ。
鍵をはずし、ドアを開ける。
「何だ、リィエンじゃないか。どうしたんだ?」
そこにいたのは、リィエンだった。しかし。
「あれ、ウォンレイはどうした?一緒じゃないのか?」
リィエンの顔に陰がさす。
「…そのことで、話があるアル。」
「分かった。上がれよ。」
「…すまないアル。」
リィエンが、歯を食いしばっていた、気がした。
「緑茶でよかったんだよな。」
自分の部屋に通したリィエンに、入れてきた緑茶を渡す。
「ありがとアル。」
「で、話って何だ?」
リィエンを座布団に座らせ、椅子に腰掛ける。
「…」
ギィ、と椅子がなった。
「あれは、2日ほど前のことだったアル。ガッシュに似た魔物と、銀髪の男が…」
「ガッシュに似た魔物!?」
ガタリ、と椅子を倒して立ち上がる清麿。
「ど、どうしたアルか?」
その剣幕に押されるリィエン。
「いや、なんでもない。続けてくれ。」
「分かったアル。2日ほど前、私たちの家にそいつらがやってきたアルよ…」
「魔物、だな。」
ウォンレイが睨みつける。その構えに、隙は、ない。
「分かっているなら問答は必要ないだろう。デュフォー。お前も動け。」
「ザケル」
ゼオンの手から稲妻が放たれる。
ウォンレイがそれを交わして突っ込んだ。
「ゴウ・バウレン!!」
手の光球をたたきつける瞬間、ゼオンがウォンレイを飛び越える。
その背中に手を当てた。
「その程度か?」
「ザケル」
「ぐおぁ!!」
ザケルをもろに浴びてしまうウォンレイ。
「ウォンレイ!!」
それを見て、あわてて駆け寄ろうとするリィエン。しかし。
「魔物の心配をしている場合か?」
ゼオンの伸ばしたマントに弾き飛ばされる。
「きゃあ!」
「リィエン!!」
なんとかウォンレイが抱きとめる。
「いくアルよ。レドルク!!」
ウォンレイの足が輝き、姿が揺らぐ。
次の瞬間には、ゼオンの目の前に現れていた。
「なに!?」
「ゴウ・レドルク!!」
そのまま高く蹴りあげる。
そして、放物線を描き、落ちてきたところを、
「ゴウ・バウレン!!」
殴り飛ばす。
「がはっ」
地面を滑っていくゼオン。
そして、ウォンレイが本を奪おうとデュフォーの方に手を伸ばすと。
「っ!!」
その顔の気迫に足を止められてしまった。
その一瞬の隙に。
「ザケルガ」
「ウォンレイ!!後ろアル!!」
「がはっ!!」
ザケルガがウォンレイの腹部を貫く。
そこへ、デュフォーの一撃。
吹っ飛ばされたウォンレイに、リィエンが駆け寄る。
「今のはなかなか効いたぞ…」
ゼオンは口元をぬぐいながら、嬉しそうに笑っている。
「あの連撃であの程度のダメージしかないだと…?」
「化け物アルよ…」
逆に、ウォンレイとリィエンは追い詰められていた。
「しかし、負けるわけにはいかない!!」
「そうアル!皆で戦う約束をしたアルよ!!」
負けられない。戦友との約束のためにも。
そして、自分の目指す王のためにも。
「いくぞ、リィエン!!」
「はいアル!ガルレドルク!!」
回転しながらの突撃。
「フン、その程度か。」
ヒラリと身をかわすゼオン。
「ザケ…」
「ガンズ・バウレン!!」
しかし、避けられることなど想定済みだったのだろう。
ガルレドルクを捨て技に、そのままこぶしでの連撃につなぐ。
「なに!?」
数多の拳撃。避けきれず、まともに喰らったゼオンは吹き飛ぶ。
「ラシルド」
はずだった。
ウォンレイの前にそびえるのは巨大な壁。
しかも以前見たガッシュのラシルドより、大きい。
「助かったぞ、デュフォー。」
消えた壁の向こうから現れた二人は、全くの無傷。
「そん、な…」
「ザケル」
「くっ!」
慌てて跳びずさる。
「ウォンレイ!!」
「リィエン、最後だ。あの術に全てをかける!!」
むしろ、それしか手がない。
ガンズ・バウレンを全弾受け切れる盾を砕ける術など、アレしか。
「リィエン、これで決めるぞ!!」
「はいアル、ラオウ・ディバウレン!!」
ウォンレイの手に白虎の前脚が重なった。
そして、掛け声とともに白虎が飛び掛かる。
「私たちは負けるわけには行かない!!約束を交わした、戦友のためにも!!」
その思いを現すように、青紫の魔本が強く輝き、白虎が高く、大きく咆哮した。
「はぁ!!」
渾身の力を込め、放つ。狙い通り、ラシルドを打ち砕いた。
「よし!!」
「やったアル!!」
しかし、無情にも。
「まさか、忘れているわけではあるまいな。俺たちにも最大呪文があることを。」
「ゼオ・ザケルガ」
後を追って打ち出された白龍にかき消されてしまった。
「くぁっ。」
白龍の舞い上げた砂煙がウォンレイの視界を奪う。
その隙間をぬって、残酷な声が、届く。
「残念だったな。」
「ザケル」
振り返る前に呪文の声と稲妻の爆ぜる音がした。
青紫の魔本に、別れの火が、灯る。
「いやぁ、ウォンレイ、ウォンレイ!!」
無駄だとは分かっていても、必死に本の火を消そうとするリィエン。
それを尻目に高笑いを残してゼオンが消え去り、砂煙も晴れた後。
「ウォンレイ!行かないで、行かないで!!」
「リィエン、すまない…」
泣きながらすがりつくリィエンに、ウォンレイは何も出来ない。
透け始めた体では、何も…。
「…今まで、ありがとうアル。短い間だったけど楽しかったアルよ…」
「私もだ、リィエン。ありがとう。」
二人の中を、走馬灯のように流れる思い出。リィエンはその終わりが泣き顔では悲しすぎる、と無理に笑顔を作る。
しかし、涙で崩れた顔は思う通りには動かない。
ウォンレイはリィエンに口付けた。
互いの唇が触れるだけの短いキス。
「…リィエン。また会おう。」
そして、口をひらく。最愛の人に残し、伝えられるのはもう言葉だけ。
「…え?」
「どれだけ時を経ようとも、何度生まれ変わろうと、必ず。必ずまた会おう。」
「…そうアル。必ずアル。約束アルよ!!」
ぐい、と涙をぬぐい、無理に笑顔を作る。
「ああ。…その時はこのような運命でなければいいな。」
そういい残し、ウォンレイの姿が消えた。魔本も、もう、その影を地面に残すのみである。
そこに残るのは、最愛の人を失い、泣き崩れるリィエンのみだった。
「…というわけアルよ。」
リィエンは、ゼオンとの一戦の始終を語り終え、俯いた。
辛いことだったのだろう、湯飲みを握り締めて。
「それで、とりあえず注意に、と思って居場所の捕まりにくい恵より清麿のところに先に来たアル。」
「…そうか、あいつが…ウォンレイを…」
ギ、と歯を食いしばる清麿。
「気をつけるアル。アイツはとんでもないアルよ。間違いなく今のガッシュ達では勝てないアル。」
断言するリィエン。
「そう、か。分かった。気をつけるよ。」
「でも絶対勝つアルよ。あの魔物は王にしちゃいけない。そんな気がするアル。」
そう言い残し、リィエンは帰っていった。
彼女を玄関まで送り、見えなくなるまで見送った清麿。
と、クラクションを鳴らされ、謝りながら振り返る。
そこにいたのは意外な人物だった。しかも、最も思わぬ姿で。
「お久しぶりね、赤い本の持ち主。」
包帯をいたるところに巻いた、痛々しい姿。
何より、隣にいるはずの黒く禍々しい魔物が、いない。
連載です。どうでしょう?戦闘シーンの修行と、辛い別れを目標にしたんですが。
躍動感の有る戦闘と、リィエンたちの辛さが伝われば、この話は成功かな、と。
では。
Fisher man