「え〜と、確かこの辺だと思うんだけど・・・・・・」

一人の女性が紙切れを片手に、何かを探している。

ここは、大英帝国がイギリス、ケンブリッジ市内のとある大学。

女性は仕事でここを訪れ、ついでに(ついでというよりは

これが目的なのだが・・)ある人物を探しているのである。

(それにしても、すごいお城ね〜)

女性はお城のような大学に驚いた。

聞けば、このお城は中世にできたもので、

そのまま使っているとのことだ。

とんとん

女性は突然肩をたたかれ、振り返る。

(もしかして、清麿くん?・・・・・・)

だが、

「ねえ、彼女、もしかして見学しにきたの?

だったら、俺たちが案内してやるよ」

若い二人組みの男がいわゆるナンパをしてきたのである。

「いっいえ、けっこうです〜」

女性は遠慮するが、男の一人が女性の腕をつかんだ。

「遠慮しないで、遊ぼうぜ、俺、日本人女性って

けっこう好きなんだよね〜」

女性は手を振り払おうとするが、なかなか離れない。

「やっやめてください!」

女性が大声で怒鳴り、周りにいた学生の視線が集まる。

得意の合気道を使えば、こんな奴らなんか一発でKO

なのだが、日英関係が心配だし、新聞にどう書かれるか

わかったものじゃない。

だが、そこへ、一人の青年が駆け寄り、涼しげな顔で、

「いててててててててててててぇぇ」

女性の腕をつかんでいた手の手首を思いっきり握る。

じゅうぶん懲りたところで、その手を振り払う。

「てめえ、調子に乗んじゃねえ」

もうひとりの男が殴りかかるが、

青年はそれをかわし、ふところに入る。

そして、そのまま、むなぐらをつかみ、

地面に叩きつけた。

「ぐはっ」

男は地面に叩きつけられ、思わずうめく。

「おっ覚えてろよ〜」

男たちはお決まりのセリフを吐いて逃げていった。

ワーーパチパチパチパチパチパチ

この現場を見ていた人たちから拍手と歓声が起きた。

青年は照れくさそうだったが。

「あっあの、助けていただいて・・・・・・」

女性はお礼を言うが、青年はくるっと振り返り、

「大丈夫? 恵さん」

「あっ、清麿くん!」

驚いた事に青年は清麿だったのである。

 

Still On Your Side

 

「すげーぞ、キヨマロ、かっこいい」

何人かの学生が駆け寄り、清麿の首に腕をかけた。

「くっ苦しい、離れろ」

清麿は腕を振り払う。

恵はその様子をきょとんして見ていた。

「あれ、この人は?」

学生の一人が尋ねる。

「え〜と、」

清麿が答えるより先に、先ほど清麿の

首に腕をかけた学生が、

「あ〜わかった、キヨマロの彼女だね!」

「えっ?」

清麿と恵の頬が赤くなる。

「ヒュ―、ヒュ―」

学生たちがはやし立て、女の子からは、

「そんな〜」という悲鳴が上がる。

「ねえ、俺たちにも紹介してよ」

「あ〜わかった、わかったから、落ち着け」

清麿は周りが落ち着いたのを確認し、

恵の方に手をやり、

「こちら、大海恵さん。日本で知らない人は

いないほどの超人気アイドル」

「大海恵です」

恵はぺコリとお辞儀した。

「ほえ〜、キヨマロ、こんな美人で器量もよしな

彼女を持つなんてうらやまし〜」

羨望のまなざしと嫉妬のまなざしを向けられ、

清麿もたじたじになる。

「えっえ〜と」

清麿がなんと言おうか迷ってると、

恵が思わぬ助け舟を出した。

「いつも清麿くんがお世話になってます」

と、お辞儀をした後、ウフっとほほえんでみせた。

「ほらみろー。やっぱり彼女じゃ〜ん」

「めっ恵さん、なんてことを・・・・・・」

「いちどやってみたかったの」

恵は、いたずらっぽく微笑んだ。

それをみて、清麿はどこか頭痛を覚えたのであった。

それから、しばらくして、

学友の配慮によるものだろうか。清麿と恵は

二人きりで、橋の上で話していた。

「助けてもらったお礼がまだだったわね、ありがと」

「別に当然のことをしたまでだよ」

清麿は謙遜していたが、

恵にはどれだけすごいことかわかっていた。

「それにしても、ビックリしたな〜。まさか

清麿くんがあんなことをするなんて」

「あれは、大学の講義で習ったんだ」

「講義で習うの?」

「ああ、あの有名なシャーロックホームズも

柔術を使ってたから、俺たちもやってみよう

という話が出てね」

「へえ〜」

「あっ、それともう一つは個人的にむかついたから」

「えっ?」

思わずドキッとしてしまう。

「女性の声が聞こえてさ、何だろうと思って

見たら、恵さんが男にからまれてんだもん。

気づいたら、走り出してたよ」

「・・・・・・ありがと」

もういちど礼を言い、恵は清麿の頬にキスをする。

「!?」

清麿は顔じゅうを真っ赤にし、何か言いたげだった。

「ほんと、だいたんな人だな〜」

「それが、私のウリよ」

それからは、お互いの近況を話した。

そして、不意に、恵は清麿の前髪をちょいとつまんだ。

恵の手が近くにきて、平常心ではいられない。

「清麿くんってけっこうモテるのね」

「えっ」

「だってさ、あのとき、周りにいた女の子たち

悲鳴あげてたじゃない」

「俺ってモテるのかな」

「でも、友だちまでならOKだけど、

それ以上いったら・・・・・・」

「はいはい、わかってるって、」

「約束よ」

恵は前髪から手を離し、小指を出した。

清麿はそっと小指を出し、恵のそれと絡ませた。

そして、指きりげんまんをする。

「それとさ、ごめん」

「なにが?」

「いや、俺がいなくてさみしい思いを

してるんじゃないかって心配してたんだ」

「そっそれは、清麿くんに会えなくてさみしい

けど・・・・・・」

恵はうつむく。

「あと1年、あと1年待ってほしい。

そしたら俺も二十歳になって、恵さんを

迎えに行けるから」

「・・・・・・うん」

恵は小さくうなずいた。

あと1年も待つ寂しさと

あと1年待ったらという喜びが交錯し、

複雑な気持ちになった。

              END  2004.6.14.Mon